テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ひんやりとした感触に、僕は思わず声を上げた。
「ひゃっ!?」
驚いて変な声を出すとクスクスという笑い声が耳に入る。
「もう!岬くんってば…」
「ごめんごめん」
彼はニヤつきながらもペットボトルの麦茶を手渡してくれる。
受け取ってキャップを開けるとすぐに口に着けて流し込んだ。
冷たい麦茶が、喉を潤していく。
「……はあ、美味しい…生き返る」
「よかった」
彼がそう言って微笑むので僕は再び胸がキュッとなる感覚に襲われる。
彼の笑顔は、僕の心をいつも温かくしてくれる。
恥ずかしさを誤魔化すように話題を変えようと試みる。
「あの…岬くん、今日楽しめた?」
僕の心配が、口からこぼれ落ちる。
「え?もちろん楽しかったよ?…朝陽くんは楽しくなかった?……って、聞きたいとこだけど、朝陽くんは災難だったよね」
彼は僕の心配を察して、優しく問い返してくれた。
「う、ううん!楽しかったよ、岬くんと遊園地デートできて、体調もそこまで悪くならなかったし…」
僕は慌てて否定する。
「最後のも、僕が無理言って乗ったんだし…岬くん…僕といれるならいいって言ってたけど、さ」
「僕の面倒ばっかり見て、ちゃんと楽しめたかなって思って…」
僕の言葉には、彼への申し訳なさが滲んでいた。
そこまで言うと、岬くんは両手で僕の頬を包むように触れる。
彼の温かい掌が、僕の頬を優しく包み込む。
「…ほんと、心配性だなぁ」
彼の声は、優しさに満ちていた。
「み、みさきくん…?」
僕は彼の瞳をじっと見つめる。
「さっきも言ったでしょ?朝陽くんといれたら幸せだって」
「朝陽くんが辛いときそばにいれない方が俺は辛いんだから、楽しめたかなとか責任感じなくていいんだよ?」
彼はそう言って微笑む。
その笑顔があまりにも優しくて綺麗で僕は言葉を失ってしまう。
彼の言葉は、僕の心を深く癒してくれる。
「みさきくん……」
「俺は、朝陽くんが楽しく過ごせるのが一番嬉しいんだからさ」
岬くんの言葉に顔が熱くなる。
彼の真っ直ぐな気持ちが、僕の心に直接響いてくる。
いつだって岬くんは僕の欲しいタイミングで欲しい言葉をくれる。
まるで僕の心を読んでいるかのようだ。
彼のこういうところがズルいのだ。
こんな風にさらっと人を喜ばせるようなことを言ってくるから。
僕は岬くんからの不意打ちに弱い自覚があるため
いつもドキドキさせられているのだ。
彼の存在そのものが、僕の心を揺さぶる。
「……岬くんさ」
僕は意を決して、尋ねた。
「うん?」
「なんでそんなに……僕のことよく見てくれるの?」
僕の問いに、岬くんは少しだけ考える素振りを見せて、すぐに僕の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「それは……朝陽くんのことが好きだから、だよ?」
彼の真っ直ぐな瞳に見つめられドキッと胸が高鳴る。
心臓が、激しく鼓動する。
「朝陽くんが好きだから、朝陽くんが困ってたら助けたいって思うし、朝陽くんが笑ってくれると俺も幸せだし」
「朝陽くんの役に立ちたいって思ってる、それが理由じゃダメ?」
「えっ、ダ、ダメじゃない…嬉しいよ」
彼の告白めいた言葉を聞いて赤面してしまう。
きっと今の僕の顔はイチゴみたいに真っ赤なのだろう。
「朝陽くんは?」
岬くんが、少し不安げに問い掛けてくる。
僕の気持ちを、確かめるように。
「え?」
「朝陽くんは……俺のことどう思ってる?」
彼の真剣な眼差しに、僕は言葉を選ぶ。
「ぼくも……みさきくんのこと好きだよ…っ」
「それに僕…みさきくんが初恋で、初めての彼氏で…最初の方は変に緊張してたん、だけど…」
僕がそう言うと彼は続きを待つようにこちらを見る。
彼の瞳が、僕の言葉を吸い込むように見つめているのを感じながら
「いつも優しくて…僕のこと第一に考えて行動してくれて…こんなに素敵な人と付き合えてる実感がまだ無いっていうか…」
僕は正直な気持ちを伝えた。
彼が僕にとってどれほど大きな存在か、言葉では言い尽くせない。
「いつか、いつかパニック障害治して、みさきくんとUSJも行きたいなって思ってるし……!」
僕の夢を、彼に打ち明ける。
「こんなに大好きなのも、ずっと一緒にいたいって思うのも……みさきくんだけなんだ」
そう伝えると彼は照れたように頬を搔きながら、嬉しそうに微笑んで
「そっか……いや…そんな真正面から言われると、めっっちゃ嬉しいな……」
と言ってくれた。
そしてそのままぎゅっと抱きしめられる。
彼の腕が、僕を優しく包み込む。
「俺もね、同じ気持ちだよ。朝陽くんのこと大好きで……」
「朝陽くんともっと色んなことしたいって思ってるし、朝陽くんがパニック障害を克服できるようサポートし続けるし、最初に行きたいところがUSJなんだってわかってもっと嬉しくなった」
彼の温かい言葉に、僕は涙が溢れそうになった。
「うん……僕も嬉しい……っ…」
僕も彼の背中に腕を回して力を込める。
彼の体温と鼓動を感じて幸せな気持ちになる。
「みさきくん……ありがとう……」
僕は彼の肩に顔を埋め、感謝の言葉を囁いた。
◆◇◆◇
公園を後にして帰路に着くと
茜色の夕日が、ゆっくりと空に沈んでいくのが分かった。
家路を辿る僕たちの影が、アスファルトの上に長く伸びていた。
右手には、大好きな岬くんの温かい手がしっかりと繋がれている。
繋いだ手のひらから伝わる熱が、僕の心をじんわりと温めてくれる。
ふと、朝から心の中でひそかに掲げていた
「岬くんと恋人繋ぎをする!(※僕から)」
という目標を、まだ達成していないことに気がついた。
前回、岬くんがそっと指を絡めてくれた時
僕はあまりにも緊張してしまって、応えることができなかった。
その悔しさがずっと胸の奥に残っていたのだ。
(こ、こうなったら今しかない……!)
心臓がドクドクと鳴り響く。
高鳴る鼓動をなんとか落ち着かせようと深呼吸をして、意を決して岬くんの顔を見上げた。
彼の瞳が、夕日の色を映してきらきらと輝いている。
「ね、ねえ岬くん?」
僕の声は、少し上擦っていたかもしれない。
すると岬くんは不思議そうに首を傾げた。
「ん?なあに、朝陽くん?」
彼の優しい声に、さらに緊張が高まる。
でも、ここで引くわけにはいかない。
僕はぎゅっと唇を結び、なんとか言葉を絞り出した。
「あの…恋人繋ぎ、してもいいかな…って」
僕の突然の提案に、岬くんは目を丸くした。
一瞬の沈黙が、僕には永遠のように感じられた。
もしかしたら、変に思われてしまっただろうか。
戸惑いと不安が胸をよぎる。
「あの…今日ね、岬くんと恋人繋ぎしたいと思って、自分からしたいって思ってたんだけど、中々できなくて…その…」
どうしてこんなにもどもってしまうのだろう。
情けない自分に、少し自己嫌悪に陥る。
「だめ、かな……?」
おそるおそる尋ねると、岬くんはふわりと微笑んだ。
その笑顔に、僕の胸からふっと力が抜ける。
「もちろんいいに決まってんじゃん。てか、朝陽くんそんなこと考えてくれてたんだ?」
彼の言葉に、僕の顔はみるみるうちに熱くなった。
「うん…この間、岬くんが手絡めてくれたのに、緊張して繋げなかったから…」
「きょ、今日は僕から繋ぎたいと思って…っ!」
恥ずかしさのあまり、思わず言葉を詰まらせる。
すると岬くんはくすりと笑い、僕の左手に自分の右手を添えるように指を絡めてきた。
それだけでも照れてしまうのに
岬くんは、繋いだ手をそっと自分の口元まで持っていくと
躊躇なく僕の手の甲にキスを落とした。
「へっ…?!」
ひんやりとした唇の感触が、手の甲から全身に広がる。
その仕草に、思わず心臓が大きく跳ねた。
突然のことに、頭が真っ白になる。
「もう、本当に朝陽くんって可愛いんだから…」
岬くんはそう言って微笑むと、そのまま繋いだ手をぎゅっと握りしめてきた。
彼の指が僕の指の隙間にぴたりと収まり
まるで最初からそうであったかのようにしっくりと馴染む。
その完璧なフィット感に、心臓がさらに大きく跳ねた。
あまりのドキドキに、呼吸をするのも忘れてしまいそうだ。
「し、心臓に…悪い、よ」
自分でも赤面しているのが分かるぐらい、顔が熱い。
熱いのは顔だけではない。
全身の血が沸騰しているように感じる。
「あはは、ごめんね。朝陽くんが可愛いこと言うからつい」
岬くんは楽しそうに笑いながらそう言う。
「可愛い…って…?」
「自分から繋ぎたいって思ってくれたこと。朝陽くんにしては積極的だなって思ってびっくりしたぐらいだよ?」
「…そ、それは…前、拒んじゃったから、僕はみさきくんが思ってるよりみさきくんのこと好きなんだよって気持ちをちゃんと伝えたいって思って…」
そこまで言うと、岬くんは急に僕の耳元に顔を寄せてきた。
彼の吐息が耳にかかり、ゾクッと鳥肌が立つ。
そして、囁くように言葉を紡いだ。
「俺はさ、朝陽くんのそういう一生懸命なところ、好きだよ」
彼の言葉が耳朶を打つと同時に、心臓を直接鷲掴みにされたかのように、熱く、激しく波打った。
そしてなにより
〝一生懸命なところ、好きだよ〟という言葉が、じんわりと僕の心に染み渡る。
すると今度は僕に目線を合わせて続けた。
「それに、朝陽くんの好意ならいつも伝わってるから安心して?」
その笑顔が、僕にとってどれほどの喜びか。
「…そ、そう?…それなら、よかった」
消え入りそうな小さな声でそう答えると、岬くんは嬉しそうに
そして少し照れたように笑ってくれた。
そんな彼の笑顔を見て、僕もつられて笑顔になる。
夕日に照らされた道を、僕たちはしっかりと恋人繋ぎをしたまま歩いていく。
指と指が絡み合い、お互いの体温が溶け合うように伝わってくるようだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!