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#御本人様とは一切関係ありません
# 一生 そばにいて .
302
「あ、そういえば」
こさめが何かを思い出したように、右の手のひらへ左手のグーをぽんっと置いた。
「今回の撮影現場には、原作者来てくれるらしいですよ?」
「ぇ…ぁ、そうなん…?」
その瞬間。
みことの目が、一瞬だけ揺れた
「うん!」
こさめは何も気づかない様子で続ける。
「マネージャーさんが教えてくれたの… みことくん、知らなかったの?」
「最近、マネさん忙しいみたいなんよ……」
みことは苦笑いを浮かべた。
けれど、 さっきまでの、なつやらんを見てそわそわしていた様子とは、どこか違う。
さっきまで緊張しながらも、楽しそうになつやらんの話をしていた。
なのに今は、どこか様子がおかしい。
視線が落ち着かない。
指先も、ほんの少しだけそわそわと動いている。
「……みこと?」
「あっ、いや」
俺が声をかけると、みことははっとしたように顔を上げた。
「なんでもないよ」
そう言って笑ったけど、その笑顔は、さっきまでのものとは少し違って見えた。
(……原作者が来るの、嫌なのか?)
俺は首を傾げる。
原作者、夏目奏知。
一億六千万部を超える大人気作品を生み出した、あの有名な作家。
普通なら、直接会えることを嬉しがりそうなものなのに。
みことはなぜか。
「……そっか」
とだけ呟いた。
その小さな声を聞きながら、俺はますます不思議に思った。
『夏目さん、入られまーす』
スタッフの声が響いた
その瞬間。 俺たちは一斉に、スタジオの入口へ視線を向ける。
「……」
ゆっくりと扉が開いた。 そこから入ってきたのは深い緑色の髪をした、一人の男性。
背は高く、すらりとしている。
けれど、その顔のほとんどはマスクで隠されていた。 見えるのは、目元だけ。
「わぁぁ、噂って本当だったんだ!⸝⸝」
隣で、こさめが嬉しそうに両手で口元を隠す。
「噂?」
俺はその言葉に首を傾げた。
「めちゃくちゃイケメンって噂!」
こさめは興奮した様子で小声になる。
「叢雲さん、知らないのー?」
「いや…」
俺は改めて夏目奏知を見る。
「イケメンって… マスクしてるから目しか見えてねぇけど?」
「もー!いるまくん分かってない!」
「こんにちは」
夏目が、静かに頭を下げた。
「夏目 奏知です」
その声を聞いた瞬間、
みことの肩がぴくりと揺れた。
「っ、、…」
「?」
コツコツ…
「暇 南月です」
なつが一歩前へ出る。
背筋を伸ばし、夏目さんへ丁寧に頭を下げた。
「『シュガーライフ』…連載当初から読ませてもらってます」
その声は落ち着いていて、聞いているだけで安心するような話し方だった。
「まさか、夏目さんの作品に出演できるなんて、まさに夢のような出来事です」
そして、柔らかく微笑む。
「今回は、よろしくお願いします」
(お手本のような挨拶…さすが 俺の推し。 完璧すぎて頭上がらん)
その後ろ姿を眺めながら、改めて尊敬の念が湧いてくる。
俺も負けじと、一歩前へ出た。
「叢雲 入間です」
「桃乃 蘭です」
……
「「は?」」
声が被った。
俺と、この前髪ピンク。
数秒間、無言で顔を見合わせる。
「しゃしゃんな、前髪」
「は?」
蘭が眉をひそめる。
「俺がなつの先にやんの、 分かる?」
「はぁ?」
蘭のこめかみがぴくりと動いた。
「俺の方が、なっちゃんのパートナーって感じだから! つか、そうだから!」
「気安くなっちゃんって呼ぶな!しね!」
「初対面の原作者の前で何言ってんの!?」
「お前が先に喧嘩売ってきたんだろ!」
「売ってない!」
「売ってる!」
「売ってない!」
「売ってる!」
「…………」
周囲が静まり返る。 こさめはぽかんとしている。 みことは、なぜかさらに青ざめている。
「そもそも肩に手置いてたよな?」
「別にいいじゃん、昔からやってるし」
「それがムカつくんだよ!」
「知らな〜い」
「お前_」
次の瞬間。
どこっ!
「い”っっっ!?」
背中に、とんでもない衝撃が走った。
ほぼ同時に
どこっ!
「たぁぁぁッ!!!!」
隣で蘭も叫ぶ。
俺たちは揃って振り返った。
「喧嘩すんな、お前ら。 いい大人がなに原作者の前で言い合いしてんだよ。 同じ俳優として恥ずかしい」
「「………ごめんなさい」」
「よろしい」
「2人のことは、よーく知ってますよ」
夏目さんは俺と蘭を見て、穏やかな声で言った。
「テレビでは引っ張りだこですよね?」
すると、こさめが勢いよく手を挙げる。
「俺は、あめてゃ… いや、 こさめですっ!」
夏目さんが静かにこちらを見る。
「アイドルグループ、プルシュのセンターやってます! ぁ、こさめも最近メディアの引っ張りだこです!」
「あんま自分でいうやつ居なくね?」
「え?」
「っ…」
みことが、小さく息を呑んだ。
「……西園尊です」
少し間を置いて。
「歌手です」
短い自己紹介、 それだけ。
「……?」
明らかにおかしい。 さっきからずっと、 原作者が来てから、明らかに様子が変わっている。
みことくん?」
こさめが心配そうに声をかける。
すると。
「……怒ってないよ、別に」
みことが、ぽつりと呟いた。
「たった3年間の ちっぽけな思ひ出じゃん」
「!、…」
その瞬間、 夏目さんの目が、わずかに見開かれた。
「スタッフさん、俺ちょっとお手洗い行ってきますね?」
みことが、いつもの柔らかい笑顔を浮かべる。
「あ、はーい」
スタッフが時計を確認する。
「10分後には撮影始まるんで」
「はい」
みことは笑顔のまま頷いた。
そして。 くるりと背を向けて スタジオの扉へ向かい、外に出た。
バタン
少しだけ、気まずい沈黙が流れた。
「ねぇ」
こさめが小さな声を出す。
「ちっぽけな思い出って…」
その言葉を聞いた瞬間。
「やめきな」
低い声に 俺は振り返った。
蘭が、真面目な表情をしていた。
「人には、触れられたくないことなんて、たくさんあるでしょ」
こさめは口を閉じた。
「無理に聞くもんじゃない」
「……っ」
こさめは少しだけ俯く。
そして
「……そうだよね、 ごめん」
「別に謝ることじゃないよ」
蘭はそう言って、こさめの頭を軽く撫でる
「心配なのは俺も同じ気持ちだから」
「…うん」
「……」
すちさんは、ぼーっとしていた。
みことが出ていった扉の方を、ただ静かに見つめている。
さっきまで俺たちと普通に会話していたのに。
今はまるで、周囲の声が聞こえていないようだった。
「覚えてたんだ……」
ぽつり。
誰に向けるでもなく、呟く。
「君は忘れんぼだから…俺の事なんて、忘れてると思ってたのに」
その声はあまりにも小さくて。
俺たちは、何も聞かなかったふりをした。
そして、10分後。
撮影が始まる。
今回のシーンに出演するのは、なつとみこと。
俺はモニターの近くで、二人の様子を見守っていた。
(なつの役は、あの可愛らしい…)
なつが演じているのは、明るくて人懐っこいキャラクター。 困っている人を放っておけない。 笑顔が似合う。
(うん、なつみたいな役だな、 この前の撮影のなつも、めっっちゃ可愛かったなぁ⸝⸝)
「本番まで、3、3 2、2 1、1…」
廊下。
制服姿の二人が、大きな荷物を抱えて歩いている。
「マムちゃん、その荷物重いでしょ?」
なつが隣を歩きながら、心配そうに覗き込む。
「僕が持ってあげよっか?」
柔らかい声。 完全に役へ入り込んでいる。
みことは荷物を抱え直しながら、なつを見る。
「いーちゃん、力弱いでしょ?」
「むぅ」
なつの足が止まる。
「できるし!」
ぷくーっ。
頬を膨らませた。
「っ……!」
俺の手が反射的にポケットへ伸びる。
そこには 例の正解ボタン。
(押すな… ここは撮影現場ッ、 押したら終わってしまう… でも今のは…)
我慢しながら、ポケットの中のアレを握りしめる。
「うぐぐ、…」
「OKです」
スタッフの声が響く。
「ふぅ……」
みことが小さく息を吐いた。
なつは役から抜けるように一度だけ瞬きをすると、そのまま椅子の方へ戻っていく。 制服の裾を軽く整えながら、台本を手に取った。
「あの、なつ…さん」
後ろから、みことの声に なつが振り返る。
「あー、 呼び捨てでいいし、タメ口でいいよ。あんた俺より年上じゃん」
「ぁ、う、うん…分かった…」
俺には敬語使わせるのに、何故みことには使わせないで、タメ口でいいんだよ。
みことは少しだけ緊張した様子で頷いた。 そして、なつの方へ近づく。
「あのね、なっちゃん」
「んー?」
「俺の演技……下手じゃなかった?」
「……」
なつは少しだけ考えるように首を傾げた。
「あー、 初めてだよな? ドラマとか」
「う、うん…」
みことは自分の手を見つめる。
「緊張しちゃった」
その声は、撮影中よりもずっと小さかった。
「歌うのとは、全然違うし… カメラ向けられると、何をしたらいいのか分からなくなって」
「……」
なつはパタンと台本を閉じた。
「別に、下手じゃなかったよ」
「……ほんと?」
「うん」
即答だった。
「緊張してるのは分かったけど
ちゃんと、マムになろうとしてた」
みことの目が少し見開かれる。
「だから、そこは大丈夫」
「……っ」
「ただ」
なつが人差し指を立てた。
「次はもうちょっと、俺のこと見て」
「え?」
「撮影中」
「俺がなつだから見るんじゃなくて」
少しだけ笑う。
「いーちゃんとして、マムちゃんを見るの」
「……」
「そしたら、もっと自然になると思う」
みことはしばらく黙っていた。
そして
「……うん」
少しだけ安心したように笑った。
「ありがとう、なっちゃん」
「おー」
そのやり取りを少し離れた場所から見ていた俺は。
「…………」
(なっちゃん)
心の中で、その呼び方だけが妙に引っかかっていた。
(…距離縮まるの、早くない?… 次は、俺と…なつ)
撮影スケジュールを確認する。
(よし、 頑張るぞ!)
さっきまでのみこととなつの撮影を見て、改めて気合いが入っていた。
俺も 今度こそ
なつから100億点をもらう。
……そして
その先には、あの約束がある。
「さっさとしろよ、紫」
「ぁ、は、はい!」
突然背後から声をかけられ、俺は勢いよく振り返った。
そこには、腕を組んだなつ。
「何ぼーっとしてんの?」
「い、いや……ちょっと気合い入れてました」
「ふーん」
なつは俺をじっと見る。 睨んでるのだろうか、ジト目が可愛いすぎて直視できない。
「なら、ちゃんと見せてよね」
「…はい」
「この前の65点から上がってなかったら
俺、普通に怒るからね?」
「……はい」
なつは満足そうに頷くと、先にセットへ向かって歩き出した。
「ほら、紫」
「……」
(むらさき…?)
呼ばれた名前に、一瞬だけ固まる。
なんでムラサキ?髪の毛で?
「返事」
「あ、はい!」
慌ててなつの後を追った。
あの」
低めの声が、後ろから聞こえた。
俺たちは一斉に振り返る。
監督の隣に座っていたすちさんが、ゆっくりと立ち上がっていた。
「……どうかしました?」
助監督が、不思議そうにすちさんを見る。
すちは手にしていた台本へ視線を落としたまま、静かに言った。
「台本、書き換えられないんですか」
「……え?」
スタジオ全体が固まった。
(どうして、今急に…)
監督も、 スタッフも、 これから撮影に入ろうとしていた俺たちも、 誰もすぐには意味を理解できなかった。
「……俺の演技が、ダメでしたか?」
なつが、すちの方へ向き直る。
真剣な赤い瞳。
その視線が、すちのピンクがかった赤い瞳を真っ直ぐ見つめた。
「いや」
すちは首を横に振った。
「演者さんたちの演技は、いいんですよ」
「……」
「問題は、そこじゃない」
手にしていた台本を持ち上げる。
「この台本、原作改変しすぎです」
空気が、さらに重くなった。
「なんなんですか? これ」
すちさんこ声は大きくない。 怒鳴っているわけでもない。 なのに、 誰も言葉を挟めなかった。
「うちの子達は、 こんなこと言わないんです」
その言葉には、 原作者としての怒りより、 もっと別の感情が込められているように聞こえた。
「この子は、こんな言い方をしないし」
台本の一部分を指差す。
「この子だって、こんな理由で怒らない」
ページをめくる。
「この二人の関係も、こんな簡単に変わるものじゃない」
すちの指先が、わずかに震えていた。
「俺が何年もかけて作った子達です」
静かに。
けれど、はっきりと言った。
「売れるために作っただけのキャラクターじゃないし、 流行るために適当に喋らせてるわけじゃないんです」
そして、 監督を見る
「今すぐ、書き換えてください」
「俺は」
すちは台本を胸元で握った。
「この子達を、知らない誰かにされたくないんです」
スタジオが静まり返る。
俺は、その姿を見つめていた。
(……うちの子達)
その言葉が、 妙に胸へ残った。
すちにとって 『シュガーライフ』の登場人物たちは、ただの創作物じゃない。 何年も、 一緒に生きてきた存在なんだ。 そして、その気持ちは、 作品を守ろうとしていたなつと、どこか似ていた。
すちは、台本を握ったまま続けた。
「それに、衣装担当さんとメイク担当さんにも不満があります!」
「……」
スタッフたちが一斉に顔を上げる。 すちは、なつの方へ視線を向けた。
「いおりくんは、赤い目じゃなくて白い目です! それに髪の色も、もっと濃いですよ!」
その場の空気が、少しだけざわつく。
すると。
「あ…すいません」
なつが申し訳なさそうに手を上げた。
「俺の髪、染めたら傷んじゃうんで……」
なつは自分の髪を軽く触った。
ベージュのサラサラとした髪が揺れる
「マネージャーと、髪は染めないって約束してるんです」
「……」
すちの勢いが、一瞬止まった。
「あ」
明らかに、たじろぐ。
「……えっと」
「……」
「なつさんに怒ってるわけじゃありません」
慌てて言い直した。
「俺は、その……」
少しだけ視線を逸らす。
「そもそも実写化も反対でした」
「……」
監督の顔が、僅かに険しくなる。
「舞台の方が、クオリティ高いし、 実写化するなら、もっとちゃんと考えてほしかった」
そして
すちは監督へ向き直る。
「…貴方みたいな監督が担当するのも嫌でした!」
「なっ……!」
監督が声を上げる。
けれど、すちは止まらない。
「炎上してばっかですし、 原作改変ばっかりですし」
「……」
「俺の作品を… うちの子たちを、 なんだと思ってるんですか?」
「俺は」
一度だけ、目を伏せる。
「売れれば何でもいいなんて、思ってません」
そして、もう一度顔を上げた。
「キャストがどれだけ頑張ってくれても、 衣装がどれだけ綺麗でも…原作が 別人になってしまったら意味がないんです」
「……」
その言葉を聞いた時、 俺はふとなつを見る。
なつも、 同じようなことを言っていた。
キャラクターを裏切りたくない。
「すち、くん…」
みことが、不安そうな目ですちを見る。
「……」
すちは何も答えない。
台本を握ったまま、ただ立ち尽くしていた。
張り詰めていた空気が、まだスタジオに残っている。
そんな中
「あー、すちさん」
らんが、いつもの軽い調子で声をかけた。
「一回、外の空気吸いに行きません?」
すちの肩へ、ぽんっと手を置く。 そして、 二本の指を口元へ持っていき、タバコを吸うような仕草をした。
「一服、付き合ってくださいよー」
「え、おれ…喫煙者じゃな_
「いいから、いいから」
蘭は笑ったまま、すちの背中を軽く押す。
「じゃ、ちょっと席外しますね〜」
「え、ちょ!」
バタン
扉が閉まった。
「…………」
残された俺たちは、しばらく誰も喋らなかった。
そして
「……たしかに」
なつが、ぽつりと口を開く。
「舞台の方が、衣装もメイクも原作再現も
どれも実写化よりレベルが高いことがある 」
なつは、さっきすちが置いていった台本を見る。
「実写化には、実写化の良さがあるんだよ」
俺たちの視線が、なつへ集まる。
「セリフを間違えても、 何度でも撮り直せる。 途中で何か機材トラブルがあっても、だいたいは止めてやり直せる」
「でも」
少しだけ眉を下げた。
「その代わり 一つのシーンを、何回も何回も撮ることになるし、 同じ感情を何度も作らなきゃいけない… 順番通りに撮影できるとも限らない」
「昨日泣いた直後のシーンを撮ったと思ったら、今日は物語の最初の笑ってるシーン。
役者は、それでもキャラクターとして生きなきゃいけない ……難しいんだよ」
なつは小さく息を吐いた。
「アニメを実写化したり、 舞台化したりするのは、 ただ似せればいいって話じゃないから」
俺は、静かになつの横顔を見る。
「原作をそのまま再現することも大事。 でも、 媒体が変われば、できることも変わる。 だからこそ」
なつは、ゆっくりと言った。
「原作者と、作る側と、演じる側が…全員承諾するまで話し合いした方がいいと思うけどな」
「……」
コメント
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一気見とフォロー失礼します! めちゃくちゃ好みすぎて思わずゆっくり見ちゃいました!笑 なんというか現実味のある、色々考えさせられる系がドストライクに刺さりました!確かにアニメの実写化って難しいですよね、いくら役者の演技が天才だったとしても、
うわあ、すごく熱い回でしたね…! すちさんの「うちの子達」発言、胸にグッときました。キャラクターを本当に愛してるんだなって伝わってきて。それに、みことくんの様子が急におかしくなったところ、すちさんとの過去が気になりすぎます…「たった3年間のちっぽけな思い出」って、絶対何かあるよね。なっちゃんが実写化と舞台の違いを語るシーンも、すごくリアルで考えさせられました。続きが早く読みたいです!