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深夜のオフィス。青白いモニターの光が、彼の横顔を照らしていた。背後からしがみつくと、ワイシャツ越しに高い体温が伝わった。彼特有の清廉な匂い。それだけで、私の身体は一瞬で火照り始める。
チェアを回し、太ももに跨る。至近距離で重なる視線。震える指でネクタイを緩め、ボタンを次々と外すと、隙間から胸板が露わになった。硬い筋肉の輪郭を指先で辿り、吐息と共に囁く。
「……お仕事は、もうおしまい」
ネクタイの端をぐいと掴み、私は彼を自分の方へと引き寄せた。絡め取るようなキスを落とし、そのまま机に押し倒そうとした――その時だった。
「……煽ったからには、責任とってもらわないと」
聞いたこともないほど、低く、熱を孕んだ声。次の瞬間、書類が散らばる音と共に、視界が激しく反転した。
気づけば、私は無機質なデスクの上に押し倒されていた。背中に触れるデスクの冷たさと、いつもの冷静さをかなぐり捨てた、飢えた獣のような彼の瞳。逃げ場を塞ぐように、重なった唇から狂おしい熱が注ぎ込まれた。普段からは想像もつかない強引さに、私はただ翻弄されるしかなくて……っ。
***
「……ダメだ。これ、本人とやりたい!!」
ひよりは悶絶しながら、描きかけの原稿に突っ伏した。
爆発しそうなこの情熱(性欲)をぶつける先は、一つしかない。そう、二次創作(BL同人誌)の世界!
今描いているのは、陽一さんと王子谷くんをモデルにしたBL漫画だ。
(……ふふふ。王子谷くん、綺麗な顔して執着強めのドSで、陽一さんが隅々まで可愛がられちゃう……と思いきや! 攻め受け逆転で、時々陽一さんが男らしく主導権を握るっていう美味しすぎる展開。……ああ、翻弄される陽一さんの顔、なんて可愛いの……!)
……が、描き進めるうちに、また筆が止まってしまう。
(待って。これ、王子谷くんのポジションを私に置き換えたら最高じゃない?)
私の脳内では原稿の枠を飛び越えて、18禁のオフィスラブストーリーが上映されていた。
けれど、現実に引き戻されると、不安ばかりが押し寄せてくる。
最近の陽一さんは、明らかにおかしい。いつも忙しそうで疲れ切っていて、「どうしても外せない用事が」とデートを断られることも増えた。その行き先は、決して教えてくれない。
陽一さんの身体は、シャツ越しでも分かるほど胸板が厚くなり、腕も太く逞しくなってきている。眼鏡の奥の横顔は精悍さを増し、正直に言って……今すぐ食べちゃいたい。
(デートがなきゃお色気作戦も実行できないし、ベッドイン計画も遠ざかるばかり。……はっ、まさか浮気!?)
さらに、彼から漂うのは、いつもの柔軟剤の香りじゃない、人工的なシトラスの匂い。
(……備え付けのボディソープみたいな、あの匂い。陽一さん、誰かと会った『事後』なの……!?)
一度芽生えた疑念は、負の連鎖となって私を追い詰める。「用事がある」とデートを断られた土曜日。私はついに、彼を尾行することに決めた。