テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……有楽町から銀座駅まで徒歩移動。今は銀座二丁目あたりにいるのね」
私は朝からスマホを握りしめ、彼の位置情報をチェックし続けていた。
(信じなきゃいけないのに……最低だよね、私。本当のことを知るのが怖いよ……)
数日前、私は陽一さんにお揃いのスマートタグをプレゼントした。「落とし物をしてもスマホで探せるから安心だよ!」なんて建前を言ったけれど、真の目的はこれ。浮気の追跡調査だ。
そしてついに、彼に追いついた。位置情報はもう長いこと、有名なジュエリーショップやパティスリーが並ぶ通りから動いていない。
(お土産にスイーツでも買ってるのかな……)
淡い期待を抱いて、反対側の通りが見渡せる位置で待っていた私は……その瞬間、心臓が凍りついた。
陽一さんが、出てきた。……あろうことか、ジュエリーショップから。
隣には、派手な金髪にギャルメイクをした女性。何より私の絶望を決定づけたのは、彼女のバッグについていたマタニティマークだった。
(……嘘、でしょ?)
陽一さんは山のようなレディースブランドの紙袋をすべて持ち、彼女の歩調に合わせ、車道側を歩いて献身的にエスコートしている。その姿は、誰がどう見ても「愛する妻を守る夫」そのものだった。
……陽一さんは、私が現れる前に付き合っていた元カノが妊娠したことを知り、誠実な彼は『責任』を取って結婚することに決めたのね。
最近、筋トレに励んでいたのも、子供を守る『パパ』としての強さが欲しかったから。私を避けていたのは、罪悪感から。あのシトラスの匂いは、きっとおそらく同棲中の彼女の家のもの。
陽一さんは今、あの店で彼女にプロポーズ用の指輪を買ったのね。私との恋愛を終わらせて、彼女と家族になるために。
彼の中に私の居場所なんて、もう1ミリも残されていない。頬を伝う涙が、舗道にポタポタと落ちる。
「……う、っ……ぁ……」
私は銀座の真ん中で、一人静かに、そして完全に壊れていった。
***
「……ねえお兄、次はあっちのショップ行きたい」
「美咲……。もう2時間も歩きっぱなしだよ。妊婦なんだから少しは休もうよ。……あ、ちょっと待って、この段差、気をつけて」
僕は山のような買い物袋をぶら下げ、魔王(白石さんの兄)とのトレーニングでパンパンになった前腕の筋肉痛を感じながら妹の後を追った。
「はぁ? 最近鍛えてるんでしょ? ならこれくらい余裕っしょ。彼女の指輪の下見に付き合ってあげたんだから感謝しなさいよ。ほら、次行くよ!」
「……了解……」
(ああ、早く白石さんに会って癒されたい)
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!