夏休みが終わり、秋の気配が町に忍び込むころ。
田んぼの稲穂が黄金色に染まり、夕暮れの風が少し冷たくなった。
秘密基地に集まる八人は、相変わらず笑っていた。けれど、その笑い声の裏に、わずかな影が差し始めていた。
太輔:「ねぇ……」
ある日、藤ヶ谷がぽつりと切り出した。
太輔:「聞いたんだけどさ、花純ちゃん……もうすぐ引っ越すって本当?」
その一言に、全員の時が止まった。
全員:「え……?」
裕太の声が、かすかに震えた。
花純は膝の上で手をぎゅっと握りしめていた。
彼女の父親の仕事の都合で、この町を離れることになる――そんな話が現実味を帯びてきていたのだ。
高嗣:「なんで言わなかったの!」
二階堂が思わず声を荒げる。
花純:「言ったら……みんな、悲しむと思ったから……」
花純の声は震え、目が潤んでいた。
七人は顔を見合わせ、どうすればいいのか分からずに立ち尽くす。
俊哉:「やだよ! 花純ちゃんがいなくなるなんて!」
宮田が泣きそうになって叫んだ。
千賀も
健永:「せっかく笑ってくれるようになったのに……」
と唇を噛む。
宏光が深いため息をつき、静かに言った。
宏光:「……なら、約束しよう」
花純:「約束?」
と花純が顔を上げる。
渉が言葉を引き継ぐ。
渉:「またいつか、ここで会おう。みんなで」
俊哉:「そうだ! 箱を作ろうよ!」
と宮田が突然ひらめいたように声を上げた。
宏光:「みんなで未来への手紙を書いて、この基地に置いとくんだ。で、20年後……大人になった時、みんなで一緒に開けよう!」
花純:「20年後って……」
花純は思わず笑った。
花純:「そんなに先まで覚えてられるの?」
裕太:「覚えてる!」
と裕太がまっすぐに言った。
裕太:「絶対、忘れない。俺は、花純にまた会うって決める」
その言葉に、花純の胸がぎゅっと痛んだ。
――だって、自分も本当は彼のことが好きだから。
でも、それを言葉にする勇気はまだなかった。
七人と花純は、その夜、古びた木箱を秘密基地の奥に置いた。
小さなランタンの灯りに照らされながら、それぞれが未来への想いを紙に書き、そっとしまった。
「20年後、2019年2月14日」
宏光が日付を告げ、渉が頷く。
裕太が花純を見つめて言った。
裕太:「絶対に、みんなで一緒に開けよう」
花純は――笑顔で頷いた。
けれどその胸の奥で、
「この笑顔は、もうすぐ彼らと過ごせなくなる最後の笑顔かもしれない」
と思っていた。
秘密基地の外では、秋の風が冷たく吹いていた。
別れの季節が、すぐそこまで迫っていた。