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「消毒しますので、動かないで、じっとしてくださいね」
「…………」
廃人のように、いいや、正しく廃人となった少女……菊地アラカは肩の傷を治療されてから頬の殴られた傷を治療された。
「…………」
こんな経験は初めてじゃない。
アラカは覚えている。こんな痛みよりも強烈な痛みを。
父は何処にでもいるようなゴミだった。
幼少期、母はヒステリックを起こし、よく幼いアラカへ八つ当たりをした。
小学生の頃には、アラカは幼馴染の女の子に散々利用された挙句にイジメっ子とイチャイチャし始めた。
そして中学時代、デートした女の子が病気で死んだ。
アラカは何も知らずに、そんな事情を一切知らずに蚊帳の外で置き去りにされていた。
すっかり女性不信になっていたアラカは、高校生の頃、恋人ができた。
ーーーーそしてそれを寝取られた。
女性不信を拗らせ、拗らせ続け……もう泣きそうだった。
「…………」
結果、彼女は〝いつ破裂してもおかしくない水風船〟のように不安定な心地のまま、生きる羽目になった。
今の彼女を救う術は何処にあるだろう。
寝取られの件で男性に対しても強烈な恐怖を抱くようになった彼女。
そんな廃人寸前の彼女に対して、政府は何も求めなかった。
もう、求めるなど酷なことは出来なかった。
重度の人間不信。もう自殺してない方がおかしいほどの状態だ。
何をしても、四面楚歌にしか映らない現状ではもう手の施しようがなかったのだ。
都内の高校の校長室でひたすら汗を流している、それは目の前の人物への緊張とは別のものがたぶんに含まれていた。
「ええ、はい、了解しました……では、その、菊池アラカくんの編入を」
「復学ですよ、校長」
正道(35)はニコリと笑顔を浮かべる。その笑みには強烈な威圧が混ざっており、校長はひっ、と息を呑んだ。
その隣で女子生徒の制服を身に纏い静かに座ってる美少女……菊池アラカがいた。
ちゅー、とカップに入った飲み物をストローで吸っている。その光景は小動物を思わせ、見ただけで癒される光景であった。
「……………」
「ああ、これですか」
視線の先に気づいたのか正道は校長から一切目を離さずに、無表情で告げた。
「飲ませてる間は静かにしてるので飲ませてるんです、気にしないでください。
中身は水です」
「いえ、その、咎めようとかは全然……はい」
「〝トイレの水〟とかじゃありませんのでご安心を」
その瞬間、校長は気付いた。指が震える、声が出ない、息が詰まる。数多の感覚に襲われてようやく気付いたのだ。
「(イジメの件、間違いなくバレている)」
校長は彼(女)がイジメを受けていることを知っていた、そしてその内容もだ。
そしてそれを言い当てられ、心臓が壊れそうなまでに動悸が早まる。
「この子が安心して過ごせるように、校長先生には是非ともお願いしたいものです」
肩をポン、と叩きそう告げた顔はどこまでも怒気に満ちていた。