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「楓音ちゃん、楓音ちゃん。俺達晴れて、恋人同士になったんだぜ」

「おい、声が大きい。やめろ。近所迷惑だろ」




楓音の墓の前で大きな声で叫び散らかす、朔蒔を叱りながら、俺は水縹と彫られた墓石を見た。

未だ後悔はあるし、あの時、ああしていればっていうのはあとから幾つもわき出てくる。でも、過去は変えられないって知ってるし、それを朔蒔や自分の体験から見てきているから、望むだけ無駄なんだろうってのは分かってる。それでも、少しだけ、三人で一緒にいられたらって思ってしまうわけで。




「楓音……」




瞼を閉じれば、あの眩しい笑顔が思い起こされる。可愛い男の子。

朔蒔と俺だけじゃ、水に油だったかも知れない。運命とはいえど両極端過ぎて、接着できなかったかも知れない。でも、それをつなぎ合わせてくれたのが、楓音なのでは無いかと思った。彼が、俺と朔蒔の緩和剤になって、俺と朔蒔を引き合わせてくれたみたいな。

それだと、楓音がすくわれなさすぎるかもしれないから、これ以上は何も言わない。

でも、楓音が朔蒔と関わってくれたからこそ、朔蒔も変われた部分があるし、今の朔蒔をつくった一人でもあると、俺は思う。だから、凄い感謝してる。楓音の友達として。




「んじゃ、帰るか。星埜」

「もう、良いのか?」

「ん。墓も綺麗にしたし、水もあげたし、花も入れ替えた」

「ま、まあ、墓参りとしてはあってるよな」

「ママンが、これぐらいは覚えておけっていってた」




と、朔蒔は自慢げに言った。


朔蒔に聞けば、紗央さんは元気にやっているそうで、最近バイト先で誉められたとか。元々、忙しそうにしていた人だったから、倒れないか心配だってバイト仲間に言われていたらしいけど、最近はよく話すようになって、笑顔が見られるようになった、と、朔蒔は言っていた。近々、俺は紗央さんにお礼なのか何なのか、挨拶に行こうと思ってる。朔蒔が「息子さんを僕に下さいって奴?」なんてことを言っていたから、変に意識し始めてしまっているが。


まあ、そんなことはどうでも良くて、朔蒔の父親は連続殺人鬼として報道され、長年の事件は幕を下ろした。

朔蒔と紗央さんに何か被害が出たか、と言われたら、まあマスコミとか、噂とかはヒソヒソ囁かれているらしいが、あの二人のメンタルは想像以上に堅かったため、今のところ問題ないのだとか。それに、朔蒔が、紗央さんが何か言われていたら庇うようになったとか。元々、母親思いだと思っていたから、それが、父親の鎖から解放されて、そうなった、と俺は思っている。



朔蒔は変わった。

勿論、俺も変わった。



俺の家はと言うと、父さんが頻繁に帰ってくるようになり、夕ご飯を一緒に食べるようになった。料理はあまり得意じゃないらしく、でも、そう思われるのが嫌で、料理の研究中みたいだ。警察の仕事も順風満帆で、今は部下の指導をしているとか。俺の大好きだった正義が戻ってきて、俺も、よりいっそ、勉強に力が入った。矢っ張り、警察になりたいって再度強く思うようになったから。そして、朔蒔も――




「俺も、警察目指そっかなァ」

「警察って簡単じゃないぞ? それに……」

「まァ、色んな目で見られるわな。俺が殺人鬼の息子だってことも。これまで俺がしてきたことも。でも、その全ての清算で、本当の意味で彼奴を否定するために頑張る」

「朔蒔……」

「あと単純に星埜がいるから」




と、いう感じだ。


言動も、行動原も全て子供っぽいが、それが琥珀朔蒔だって理解しているからこそ、俺は納得できた。朔蒔と一緒に警察を目指せる……そう思うだけで、少し嬉しくて、心が躍ってしまう。俺も単純だった。

帰り道、黒いアスファルトに長い影を作りながら並んで歩く俺達。夕焼け染まる空は、いつもよりも綺麗で、高く感じた。もうすっかり秋で、赤とんぼが飛んでいるのが見える。夏服も衣替えをし、既にあの真っ白いブレザーに替わった。


恋人になって、全ての事件が解決して一ヶ月は経つ。

喧嘩はするし、朔蒔に流されることもあるけど、上手くやってきたつもりだ。ううん、上手くやっていけてる。これからもずっと、俺達は二人一緒だろう。だって、運命だから。




「あっ」




と、いいながら、朔蒔が足を止める。


何かと思って、朔蒔が指さした方向を見ると、夕焼けの空に一際輝く白い大きな星が見えた。




「一番星」

「一等星」




重なったが、言い方は違った。

まあ、それも、違いだ、と思いつつ、俺達は顔を合わせてふきだした。

互いに、夜と夕方の間、片割れ時に見つけた星。それが、互いの存在だろうと俺は思う。あの一等星のように、俺達は、果てしなく広がる空と、混沌の色の中で光を見つけた。


――運命。


その言葉で全てが表せてしまう。それが、俺たちの関係。




「星埜、早くこいよ」

「ったく……早くって、向かってるの、俺の家だろ」




先に歩いて行ってしまった朔蒔に呆れながら、俺は歩き出す。後ろに伸びた黒い影がゆらゆらと揺れ、夕焼け空には一等星が瞬いていた。


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