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[ぬくもりのジャージ]

涼架side




静まり返った体育館に、ただ私のすすり泣く声だけが響いていた。





若井君は、床に転がったまま嗚咽する私の側にそっとしゃがみ込むと、自分のカバンからタオルを取り出した





「もういいから…」



私は、若井君が自分に近づく気配を感じて、顔をあげずにそう呟いた。





でも、若井君はなにも言わず、優しく私の頭に手を置くと、タオルで私の髪についた焼きそばの麺を一つひとつ丁寧に取り除き始めた




「ほら、ベタベタだろ。そのままだと、気持ち悪いだろ?」




若井君の声は、驚くほど穏やかで、優しかった




私は、自分のためにタオルが汚れることも気にせず使ってくれる若井君の優しさに、また涙が溢れてくる




「そんなことより…っ、ギター…っ…」





私は、若井君のギターを指差した




床に転がったままの、見るも無残な姿になったギター。




私は、自分の制服についたソースや麺のことなど、どうでもよかった





若井君の大切なものが、自分のせいで壊れてしまったと言う事実が、私の心を締め付けた





「ギターを…拭いてあげて…っ…私のせいで…っ…」



私は、若井君のタオルを掴もうと手を伸ばすが

若井君がその手を優しく止めた




「大丈夫だよ、ギターは。それより、まず涼架だ」

「それに、涼架が壊したわけじゃないし」





若井君は、私の顔についたソースも、そっと拭き取ってくれた





その瞬間、私は若井君の手がギターの練習で固くなった、少しごつごつした温かい手だと気づいた。




「でも、元話といえば私を助けるために、それで…」

「だから…私が、全部弁償します。」




涼架は、涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげ、若井をまっすぐ見つめた。




「あと、若井君、私に関わらない方がいいかも…」


その言葉は、悲痛の叫びだった。





私は、自分と関わることで、大切なものが壊されてしまうことを何よりも恐れていた





若井君にこれ以上、自分と同じような悲しい思いをしてほしくなかった






「私、いるだけで…っ…周りの人、不幸にしちゃうから…っ…」





震える声でそう告げると、涼架は若井の目を真っ直ぐ見る事ができず、再び視線を落とした。









若井side

涼架の悲痛の言葉に、若井は静かに耳を傾けた。




彼女の『私と関わらない方がいい』と言う言葉は、俺を遠ざけるための、彼女なりの優しさだと分かった



俺は、なにも言わずに涼架が握り締めている手をさらに強く握りしめた






そして、俺は立ち上がって無残に壊れたギターをそっと拾い上げ、カバンからクシャクシャになったジャージを取り出した





「これ、着替えて?」

若井は、汚れた涼架の制服を見つめ、優しく微笑んだ。





「大きいかもしれないけど、そのままでいるよりずっといいから」


涼架side

若井君の手から差し出されたジャージは、彼の温かさがまだ残っているようだった。




私は、若井君のジャージを見つめ、感謝と申し訳なさで胸がいっぱいになる





「ありがとう…あの、…若井君…」


涼架は、か細い声で言うと、震える手でジャージを受け取った。






「私と関わるのは、私が、ギターのお金とジャージを返す時だけにするから。

「それ以外は…関わらない方がいい。だから、今日のことは…忘れて」


私は、若井君にこれ以上、悲しい思いをしてほしくなかった





彼が、自分を守ってくれたから、こんな辛いことになってしまったのだ





涼架は、若井の顔をまっすぐに見つめ、涙ながらに続けた。





「これ以上、若井君まで巻き込むわけにはいかないから」

その言葉は、まるで自分に言い聞かせているかようだった。





私は、若井君をいじめの標的にさせたくなかった





そして、一人で孤独な世界に戻ろうとしていた。




しかし、若井は涼架の言葉を静かに受け止めると、ただ一言穏やかに言った。






「弁償なんてしなくていいよ」


「また、一人になろうとしてるの?」





若井の瞳には、涼架の決意を上回る、強い意志の光が宿っていた。






私は、何も答えられずに体育館を後にした







次回予告

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『君の居場所は、僕が作るから』

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コメント

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ユーザー
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涼架ちゃんの気持ちも 若井くんの気持ちもわかるから 凄く切ない気持ちがします。 この先が凄く気になります。 アップ待ってます💛💙

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