テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「お前さ、いつもみんなに囲まれてるけど。本当は、誰のことも中に入れてないだろ」
勇斗の言葉が、静まり返った教室に冷たく響いた。
心臓が嫌な音を立てて脈打つ。
暴かれた。見つかった。
僕の平穏を脅かす侵入者を前にして、脳の奥がカチリと音を立てて冷えていく。
「……何それ。意味分かんないんだけど」
僕は張り付いた笑顔のまま、声のトーンだけを一段、低く落とした。
いつもなら、こんな時はもっと上手に切り返せるはずだった。でも、勇斗のあの、すべてを見透かすような濁りのない瞳が、僕の言葉をすべて嘘に変えていく。
「面白半分で人のこと分析するの、やめてくれない? 迷惑なんだけど」
冷たい言葉が口から出た。
いつもクラスの誰にでも向けている「優しい仁人」の影は、もうそこにはなかった。
勇斗は表情を変えない。ただ、じっと僕を見つめている。その沈黙が、僕の焦りをさらに煽った。
「僕が誰を中に入れようが入れまいが、君には関係ないでしょ。話しかけないで」
鞄の紐を強く握り締め、勇斗に背を向ける。
逃げるように教室を飛び出した。後ろから僕を引き留める声は聞こえなかった。それが、かえって不気味で、背中に冷たい汗が伝った。
学校を出て、夕闇が本格的に街を包み込む中を歩く。
心の中が、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられていた。
怒り、恐怖、そして――最悪なことに、ほんの少しの歓喜。
「見つかってしまった」という事実が、僕の脳内で歪んだ熱を帯びていく。
でも、あんな風に僕の領域を覗き込んでくる奴なんて、絶対に許しちゃいけないんだ。
自分の部屋に戻り、明かりもつけずにベッドに倒れ込んだ。
暗闇の中で、画像の言葉が何度も頭をよぎる。
――自分で壁を作ってるだけなのに。
――入ろうとしてきてくれないみんなを恨んでしまう。
「……勝手だよね、僕は」
声が震えた。
誰も入れさせないように頑丈な壁を作ったのは、他の誰でもない僕自身だ。傷つくのが怖くて、裏切られるのが嫌で、だから「良い顔」という名のバリケードを築いた。
それなのに、誰もその壁を壊してくれないと、一人で勝手に拗ねて、世界を恨んでいる。
そして、ようやくその壁の存在に気づき、手をかけてくれそうな人間が現れたというのに、僕は恐怖に駆られてその手を跳ね除けてしまった。
突き放してしまった。
もう勇斗は、僕に話しかけてなんてくれないかもしれない。
他のクラスメイトたちと同じように、僕の「お面」だけを見て、何でも知っているような顔をして通り過ぎていく存在になるのかもしれない。
そう思うと、胸の奥が締め付けられるように痛んだ。
暗い部屋の天井を見つめながら、じわじわと涙が滲んでくる。
僕は、壊してほしかったんだ。
あの冷たい目で、僕の闇を、僕の醜さを、全部暴いて、めちゃくちゃにしてほしかった。
スマートフォンが衣服のポケットの中で、短く震えた。
ビクッとして取り出す。画面に表示されたのは、連絡先さえ交換した記憶のない、勇斗の名前だった。
『明日、放課後、裏庭で待ってる』
短い文字列が、暗い液晶の光の中に浮かんでいた。
心臓が、痛いほどに激しく跳ねた。
ゆ
39
#吉田仁人
mo-
340
#山中柔太朗
Freesia
3,619