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学長の更迭処分と逮捕――。
それを知ったのは、朝、いつものように出勤をした時のことであった。
まだ早朝だ。
人気のほとんどない校門の前に、その通達は『臨時休校』の知らせとともに張りだされていた。
俺はしばらく理解しきれずに、何回かそれを読み返す。
すると背後から、高いヒールが地面を打つ、こつこつという足音が響いてきて後ろを振り返った。
「こういうことですよ、先生」
と、微笑しながらこちらへ近づいてくるのは、リーナだ。
どうやら、俺が現れるのを待っていたらしい。
彼女の言っていた「もうすぐ分かる」というのは、このことだったようだ。
「……こんなの、どうやって暴いたんだ」
「先生がこの学校にいると分かってから、学校のことは調べさせていました。不当なサービス残業や休日出勤の強要、さらには金銭の着服。あの学長は、そんなことばかり繰り返していたようですね。許しがたいことです」
その行き届いた下調べには、舌を巻かざるをえない。
公爵令嬢らしい、権力を活かしたさすがの人海戦術だ。
……その目的が、『俺を王立第一魔法学校に連れ戻すこと』なのだから、やりすぎにも感じるが。
リーナ本人は、微塵もそんな風には思っていない。
とにかく本気なのだ。
「これで、この学校が先生に強いていた不当に安い賃金での契約も無効になりました」
「……これまでの残業代は?」
「後日ですが支払われます。学長は相当お金をためこんでいたようですので、そこから出ます。また延滞金としての利息がつきます」
「おぉ……!」
すげえよ、リーナ!
「それで、どうされますか? 残業代が支給されるからと言って、働かないでいいほどの金額じゃありませんよ?」
リーナは俺の答えを、もう確信しているようであった。
普段はあまり表情を変えないのに、今日はにこにこと笑みを見せる。
「こちらは、今すぐにでも受け入れる用意があります。王都に戻っての宿も確保していますよ」
ここまでされては、もう断る理由もなかった。
なにもリーナに流されたわけじゃない。
この三日間、真剣に考えた結果、自分がやはり魔術の研究をしたいことにやっと気づけたのだ。
どうせ田舎にいても、使い潰されるだけに終わる。
ならば、どうせ二度目の人生だ。せっかく与えられたこの機会にかけてみたい、と。
校門の前、彼女が俺に手を差し伸べる。
そこで決意を固めた俺は、一歩前へと歩み出て、まさにその手に触れようとしたその時だ。
「その契約、少し待ってくれるかな」
少し先からこう声をあげて、横入りしてくる者があった。
見れば、ローブを巻いた高身長の女性が立っている。
この辺りでは、見慣れない格好をしていた。
胸元には鉄の鎧をしており、腰には立派な剣を下げているから冒険者だろうか。
そして、こちらもかなりの美貌だ。
短い髪を風にたなびかせる姿は格好よく、威厳があるようにも映った。
「……あなた、なんでこんなところに。邪魔しないでもらえますか?」
リーナは少し目を丸くした後、怖気付かずに言い返す。
どうやら顔見知りらしい……? と思っていたら、一方の謎の美女も、負けじと口を開いた。
「いいや、させてもらうよ。こちらにも事情があるからね。
魔術師・アデル様。突然ですが、聞いてほしいのです。どうか、ぼくのパーティメンバーになってくれないでしょうか」
本当に突然すぎるオファーであった。
今の今まで一度も考えたことのない選択肢が、頭の上から降ってきた感覚だ。