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「はぁ……」
早朝の書記長室に、大きなため息が漏れる。
訪問者はその余りにも疲れ切った様子に哀れみの視線を向けた。
「うわ、どしたん。トントン。」
「…シャオロン。……書類は?」
シャオロン、と呼ばれた青年は、その言葉に軽く舌を出して片目を閉じる。
テヘペロである。
書記長の溜息はより深くなった。
「ごめんってぇ〜、最近忙しいねん。
てか、大先生もまだ出してないやろ?なら…」
「いや、あいつの書類は、」
トントンの言葉を遮るように
バン、と大きな音を立てて扉が開かれる。
そして開いたと同時に現れるのは、よれよれのスーツ姿の人間。
走ってきたかと思えば一瞬で机の前にスライディングし、そして見事な土下座をかました。
「書類まだ終わってません!
許して、トンち……」
ほぼ泣いているであろう顔で懇願する彼は、以前書記長にこってり搾られたことを覚えていた。
しかも今回の書類は重要で、絶対に期限までに出せと言われていたのだった。
謝らないと死ぬ。
謝っても無事で生きて帰れるか分からない。
そんな恐怖に怯えながら書記長の顔を見上げた大先生だったが、
「…お前の書類は、もう受け取っとる。」
「へ?」
予想外の返答に、上げた顔が見事なアホ面になる。
「内容も完璧で不備なし。再提出もいらん。」
「え、なんで……
っ、もしかして、またあの女か!?」
「…はぁ。」
一際大きな溜息は、その肯定だった。
「え、大先生またローズに書類仕事奪われてんの?やーいやーい」
情けない土下座姿のまま悔しそうにする大先生を、小学生のような文句で煽るシャオロン。
その情景にため息を吐きながらも、その原因となったあの女幹部のことをトントンは考えていた。
「マジであの女いつになったら尻尾出すねん…」
そう、彼らは女がどこかの国のスパイであると信じて疑っていない。
戸籍も怪しければ、幹部に色目を使うような人間だ。
その思考は正常である。
しかしいくら冷たくあしらっても、
無茶な任務を押し付けても、
見事に遂行させる。
それどころか、このように管理が雑な他幹部の仕事まで取って代わるほどだ。
どれだけ待っても探ってもスパイだという証拠が出ないまま、彼女の業績が上がっていくばかりである。
そんなどうしようもない状況に真面目なNo.2はまた溜息を吐くのであった。
「有能なんやけどなぁ…」