「何方が先攻やりますか?」
「どっちでもいーよ」
「じゃあ、僕は後攻で」
「はぁ?」
ふむ、想像通りの反応である。
チェスをある程度やっている者なら分かるだろうが、チェスは基本、先攻が有利とされる。それも、かなり。
ラグーザは恐らく、僕が有利な先攻を取ると思っていたのだろう。訝しげな表情を浮かべている。
「どうかしました?」
「いや……本当に変なやつだな、お前」
「ふふ、よく言われます」
貴方にはね、と心の中でだけ補足をする。
生憎、僕にそんな軽口を叩けるような友達は居た記憶がないので、それに伴い、彼以外に言われた記憶もないのだ。
「では、お先にどうぞ」
そこからはお互い無言で、余所見もせず、盤面だけに集中していた。
白い駒が動く。
次に、黒い駒が動く。
そしたらまた白い駒が動いて、
今度は黒い駒がひとつ取られる。
「チェックメイト」
「あぁあぁぁぁ……普通に悔しい…。というかラグーザって、チェス強いんですね」
「いや……」
何かを言い淀む彼。先程のゲームの盤面を思い返しながら続きを待っていると、存外早くそれは出てきた。
「お前、強いのな」
「……え?」
「こんなに互角なの、久しぶり。それに多分、後攻だったら……分からんかったかも」
今彼がくれた言葉は凄く嬉しいはずなのに、つい、唖然としてしまう。
「んだよ」
「そんな素直に褒めてくれるとは思わなくって…」
「素直も何も、事実だし」
「なんか、むず痒いですね。でも、嬉しいです」
「……もう言わない」
「ええっ、何故!?」
拗ねたような、幼さを含んだ表情をする彼。この吸血鬼は一丁前に鋭い殺気を放てるくせして、あどけなさが多く残っている。なんだか可愛らしいな、と思った。
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