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15歳って、重宝されているイメージがある。重宝、というか人生において15歳が一番悩む年齢なのかもしれない。
アンジェラアキさんの『手紙』は、15の自分が未来の自分へ手紙を書く歌だし
或るアニメでは、包帯の子と羊の子が出会うのは15歳だ。
それだけでも、15歳という思春期真っ只中は使いやすいんだと考えられる。
私の15歳も、中々過激なものだった。
……嗚呼そういえば、私が池に入水しようと思ったのも、この年齢だったか。
曖昧な意識の中、よく見る近所の池で立ち尽くす自分の姿を見た。長袖から少しだけ右手に巻いた包帯が覗いている。
そうそう、遺書は書かなかったけど教科書は守らなきゃって、雨の中傘の下に鞄を置いて、池のギリギリまで歩いたんだよね。
「……靴は脱いだ方がいいよ。靴下も。後で親が洗う羽目になるから。」
明るい声でそう言うと、15の自分が振り向いた。
「……誰?」
あーあ、顔が腫れてる。懐かしいなあ、涙を流しながら、水面を眺めながら死ぬかどうか考えたんだよね。
「私?17歳の貴方だよ。」
ニコニコと答えると、靴と靴下を脱ぎながらその子は首を傾げた。
「何、言ってるの……?そんなSF存在するわけ」
「もーそんな事どうでもいいから!!死ぬんでしょ?ほら早く死なないと私まで楽になれないじゃん!」
グイグイと背中を押すとその少女は抵抗した。裸足になったから抵抗するには良い状況だ。
これは……もしもの世界ってやつか。だって、私が死のうとした時は一度たりとも靴も靴下も脱がなかった。
「や、辞めてよ!!」
「なんで?死にたいんでしょ、こうゆうのは勢いだよ。」
ワントーン下げて言うと腰が抜けたのか、その場に崩れ落ちた。雨の打つ音が、少しだけ大きくなる。
中学3年生の冬。推薦入試の直前。私はこの池を事件現場にして中学校を騒動に巻き込んでやろうと思っていた。
「死にたいよ……でも出来ない……私、まだやり残したことが」
「無駄だよ。」
言い切らせる前に言葉を吐いた。
「貴方の大好きなグループは解散して、無期限活動休止して、あるところは1人抜けてから自分で背を向ける。もっと苦しくなるから死ぬなら今だよ。」
「っ……なんでそんなこと、いえるの……?」
怯えている。自分の胸元のスカーフを握りしめるのは、何かを考える時と怯えている時の癖だと分かっている。
「だから、17歳の貴方なんだ私。貴方がこの先どれだけ苦しむかも、他人を苦しめるかも、全部知ってるの。アルバイトし始めたら腕隠せなくてリスカは出来なくなるし、面倒な人に恋するし。
良いタイミングじゃん、一緒に死の。」
「……?」
何を言っているのか理解できない顔。自分って側から見るとこんな顔してるんだ。……ぶっさ死ねよ。
「確かに良いこともあるよ。部活のメンバーには恵まれるし先輩はいい人だし、泣いたら助けてくれる男だっている。なんの文句もない幸せを数ヶ月は送れるだろうね。」
「なにそれ……うらやましい……。」
まるで初めて太陽を見た赤子のようだ。まあそうだよね、後輩には馬鹿にされたし……先輩には“調子に乗るな”って言われた小学生送ったら、そんな経験しないよね、羨ましいよね。
屈んで目線を合わせ、微笑んであげる。
「でも、その分苦しい事が襲ってくる。貴方はきっとそれを聞いたら叫びたくなる。」
「“お前は誰にも必要とされていない”って。」
「“身の程わきまえて生きろよ”って。」
「……“夢見てんじゃねえよ”って。」
「……どうして?」
その声は弱々しかった。ごめんね、未来に希望を持たせられる生き方できなくて。貴方に“生きていい、幸せだよ”って言える人生送れてなくて……本当に、ごめん。
「……一度の失敗で、また今日みたいな思いをする事になる。いじめてきた連中からは逃れられないし、そのせいで先輩にまで迷惑をかける事になる。……何より、貴方は悪くもない親友を恨み始める事になって、孤独と化す。」
一瞬見えた希望の光が、絶望に変わったと瞳の動きで分かった。怒り、恨み、妬み……全てがこもっている。
「なんで……?高校に入ったら幸せになれるんじゃないの?」
その一言に、少しだけぴきりときた。
「幸せ?どの口が言ってんの?」
一瞬、空気が凍ったのを感じた後続けた。
「うちらが幸せになっていいわけないじゃん。価値もない人間がさ。」
ぐにゃりと笑った私は、相手から見たら相当ブッサイクだっただろうな。
「一度でもいい事をした?一度でも人が幸せになれる事をしてあげられた?」
彼女は頷きも、横に振ることもしなかった。
「言ってあげる、それは17になってもできない。アンタは一生、愚かで、醜くて、人を傷つけてしか生きられない。」
言葉が続かなくて深呼吸をした後、続けた。
「そしてまた17になる直前で、自殺しようとする。」
放った瞬間、動揺の色に瞳が変わった。
「どう、して……?」
「さっき言った、“一度の失敗で今日みたいな思いをする”ってやつ。また自分の愚かな行いのせいで、馬鹿にされ続けることになる。」
雨の音が弱くなり始める。本来の私ならここで傘と鞄を持って引き返していた。
でももう引き返させない。……この子が死ねば、私は楽になれる。
……嗚呼、もうちょっといい人生、歩みたかったなあ。
「皆優しすぎてお世辞しか言えないから、私が言ってあげるね。」
「“なんで生きてるの?”」
「“そんな恥晒して生きてられるとか私なら無理だわ”」
一瞬、空気を乱した後、続けた。
「“ねえ、さっさと死んだ方が世の為だよ。”」
最後の言葉が刺さったのか、彼女の瞳から涙が流れ始めた。
「……そう、それでいい。それでいいよ。
反論できないでしょ?その通り過ぎて。でも誰も言ってくれない、“生きろ”としか言わない。でも生きた先に、得なんて一つもない事を誰もが理解してるの。」
涙を流す彼女を慰めるでも、涙を拭いてあげるでもなく、ただ酷い言葉を浴びせ続ける。
「だからね、私たちみたいに将来利益ももたらせない人間は、さっさと死んだ方が良いんだよ。それが一番の、“親孝行”で、“学校への利益”で、“皆の幸せ”だから。」
ニコニコと笑う私も、心は傷だらけだった。
自分で言ったことが、全て自分に刺さっているのだ。でも止めない、止めてなんてやらない。何かを書けば変わると思った、何かを読めば変わると思った。
確かに、世界は変わったかもしれない。
でも……私自身は、何も変わらなかった。
ずっと泣きじゃくっている彼女の右手を取り、握りしめた。
「大丈夫、私がついてる。貴方は人の言う事だけは従順に聞けるから……できるでしょう?」
「私と一緒に死んで、ここで人生終わらせて、浄化されようよ。」
「汚いのは世界じゃない、“私たち自身”だよ。」
弱々しく、少女は頷いた。そう、それでいい。
動かない足に最後の力を振り絞って彼女は立つ。
「……遺書は?」
少女が池に入る前に言ったのは、それだった。
「必要ないよ、私の思いなんて……どーせ誰にも理解できない。書いたところで、また“全部自分が悪い”って、笑われるだけだからさ。」
諦めだった。2度も遺書を書いた、自分自身の。彼女はまだ一度だけど。
「……らくに、なれるかな。」
「なれるよ。なれなくても、ここよりかは息苦しくないよ。……きっと。」
多分、思っていることは15歳の自分と一緒だ。
「「生まれ変わったら、もっといい子になりたいね」」
最後はその一言だった。少女を優しく抱きしめて、池へと身を投げた。
冷たい水が肌を刺す。泥の匂いが鼻に入り、耳の奥で水がはじけた。けれど少女の体温で、少しだけ温かい。
嗚呼、心残りがあるとするならば。
……“あの小説”だけでも、書き上げたかったかも。
end……
(あとがき)
めちゃめちゃ捏造です()
こうゆう可哀想な女の子が一番可愛い((((
コメント
2件
アクたんの思う可哀想のレベルがえぐちなんだけど🥺 救いなさすぎて清々しい気分です🌚