春の夕方。
図書館の窓の外で、桜がゆっくり散っていた。
小さなページをめくる音と、鉛筆の擦れる音。
静かで、どこか懐かしい空気。
俺はふと顔を上げた
「え…?」
見覚えのある後ろ姿が、窓際の席に座っている。
黒髪を少し伸ばした青年。
真っ白な指先でノートに何かを書いていた。
「目黒…?」
高校の同級生。
無駄に真っ直ぐで、笑うと少しだけ恥ずかしそうに目を伏せるやつ。
卒業してから、会うことはなかった。
「……なんで、こんなとこに」
翔太は、思わず口に出した。
でも、声をかけるのをためらった。
何かが違う気がした。
姿は同じなのに、空気が静かすぎた。
しょうが近づくと、目黒は気づいて顔を上げた。
一瞬だけ驚いたように目を見開き、
それから、ゆっくりと微笑んだ。
その笑顔がどこか、切なかった。
「……久しぶり」
俺の声は、静かな図書館に溶けていった。
でも目黒の表情は、少しだけ戸惑っていた。
翔太は何かを感じ取って、口を閉じた。
その沈黙の中で、
目黒はノートを取り出し、ペンを動かした。
『翔太、久しぶり』
それだけ。
でも、その文字がなぜか胸に刺さった。
翔太はペンを受け取り、
震える手で一言だけ書いた。
『話していい?』
目黒はゆっくり首を横に振って、
少しだけ笑った。
その笑顔に、翔太はやっと気づいた。
もう、彼の耳には音が届かないのだと。
図書館の窓の外で、
最後の桜が一枚、静かに舞い落ちた。
コメント
16件
私めっちゃこういうの好き!! 楽しみです!
え、好き… なべめめのこういう系大好物何ですよ!!
えやばい、大好きすぎる 💘 .