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アリシア・グレイスは入学式を終えて、婚約者のアルノールド・サバイ・コンタノールを探していた。アリシアは11歳の頃急激な頭痛に襲われ、自室で気を失ってからある力に目覚めていた。しかも前世の記憶と一緒に。それまでのアリシアはプライドが高く、同じ公爵家のエリナーミア・ボンハーデンを敵視していた。
子供の頃父親から「第2王子の婚約者の座はボンハーデンではなく、我がグレイス家が手に入れる」そう言ってアリシアの肩をギュッと強く掴む。アリシアは肩の痛みを堪えながら
「ええ、お父様の仰せのままに」
とは言うのだが、本心は逃げられない環境にどうする事も出来なかった。
12歳の頃、とあるパーティーで同じぐらいの年恰好のブルーのドレスを来た令嬢 に目が留まった。
ブラウン色に光が当たると時折り美しいブルーが見える長い髪。その令嬢がエリナーミア・ボンハーデンだと知った時、憧れか直ぐ「友達になりたい」と思う気持ちで胸がいっぱいになった。
記憶にある彼女はまだ幼い頃で、我がままばかり言っていた。今の感情とはかけ離れたものだった。しかし、自分も人を非難する程素晴らしい人間では無く、プライドの高い、物事を素直に受け入れられない、つまらない人間だった。前世を思い出して、己のダメな面を治す事に努力した。しかし、父親の強いモラルハラスメント(モラハラ)に萎縮する毎日である。
寮までの林道を歩いていると聞き覚えのある声がした。
「なんだと、俺を馬鹿呼ばわりして、不敬だ!」
アリシアはその声の方へ歩き出すと、目の前に3人の人影。婚約者のアルノールドと知らない女生徒、そして‥‥。
急に胸がドキドキと高鳴り始めた。そして急激な緊張感に手のひらに汗が滲む。
後ろ姿でもその人が誰なのか分かった。あの美しい髪色。そして、彼女の持つオーラの色。
アリシアはオーラの色でその人が何者なのか判別が出来る能力をもっている。更にアリシアは数多く力を持っているのだ。
アリシアは口元を両手で覆うと「エリナーミアさま‥‥」と呟く。
ゆっくりと近づいて声を掛けようとした時、名前の知らない女生徒が、猫撫で声でエリナーミアに擦り寄っているのを見て無性に腹が立った。
「アルノールド様、お探ししましたわ」
後ろから声が掛かり振り返るとその声はアリシア・グレイス。うちのライバル家名の令嬢である。
アリシアは私の顔を見つめるなり、フワッとした笑顔で足を引き、丁寧にお辞儀をして
「エリナーミア様、ご無沙汰しております。アリシア・グレイスでございます。お元気でしたでしょうか?」
と子供の頃に会った時とは違って、交戦的だった目が、今は友好的と言うかそれ以上を感じる。
「こちらこそ、アリシア様ご無沙汰しております。ご健勝でなによりです」
とお辞儀を交わす。
そこへアルノールドが咳払いをして
「アリシア探したか?」
となんとなく、わざとらしさ感がプンプン香ってくる。
「ええ、お探ししましたわ、アルノールド様」
と間をあけてから
「ところで」
チラッと隣にいるエミ・サイラを見て
「この方はどなたです?」
と迫力のある威圧感を出した。
私はこの雰囲気のアリシアが以前見て感じた彼女だと思った。
エミは突然血迷ったのか、アルノールドにの背中に隠れ
「アルノールド様、怖い」
と怯えたそぶりを見せた。
アルノールドは何となく悪い気はしていない顔だ。
エミの思考や行動が読めず「なんなのこの子」と呆気に取られる。
アリシアの反応も気になりチラリと見ると「ん?」この人婚約者だよねと思うほど無反応と言うか無関心。
更にエミは
「アリシア様って悪役令嬢なのよね」
と世間知らずなのか怖いもの知らずなのか、口を開けば無礼な事ばかりである。
ラルはいい加減飽きたとばかりに 私を迎えにきた。
「エリナーミア、行くぞ」
いいタイミングだ。
そろそろ私も帰った方が良さそうだと思い始めていた。
しかし、 アルノールドが「ちょっと待て」とラルを止める。
「イーラルド・ララドール、待て」
ラルはうっすらと笑みを浮かべ、スッと背を伸ばすと、首を曲げ会釈し
「王子殿下にご挨拶申し上げます」
「そうでは無い。お前は俺の護衛騎士ではないのか?」
第1王子が学生時代、現在の近衛騎士隊長が同級生で護衛をつとめていた。アルノールドは兄に護衛が居て、自分につかないのがおかしいと思っていた。騎士候補のラルが自分につくのが当たり前で、ラルにとっても大変名誉な事であろうと、少々恩着せがましい言い方でまだ子供だったラルに言った事があった。そう言う所、本当に大嫌い。
アルノールドは得意げに、
「イーラルド、お前は俺の護衛騎士に選ばれた事を有難く思え」
いい加減私のイライラがマックスになった頃、この愚か者に怒りをぶつけようとアルノールドの正面に立ち睨みつけた。
「なんだよエリナーミア。そんな可愛い顔‥‥ じゃなくて、睨んでもお前の幼馴染は俺のだ」
「アホ‥‥かーーー」
その時私の肩を軽く掴むと、回れ右とクルリと回され、ラルと向き合う形になった。
「?」
キョトンとしていると、ラルはニッコリ微笑み、私の垂れた髪の毛三つ編みを1束掴むと、毛先の辺りにチュッと軽くキスをして、目だけをアルノールドに向け言った。
「あの時も言ったが、俺はエリナーミア以外守る気はない。たとえそれがどんなに偉い奴でも(国王陛下)」
「なっ!」
アルノールドは怒りの声をあげた。
「馬鹿げてる!たかが宰相の娘ごときに、将来を棒に振るのか?!」
アルノールドが私の後ろで失礼な事をギャーギャー言っているが、私はそんな事よりラルが髪にキスをして、私を守る宣言しちゃって、前世の旦那でもこんな事言ってくれなかった。そんなセリフを聞いて、胸がキュンキュンしている。
ラルは低くいい声で私の耳元で
「寮まで送る」
と言った。
異世界バンザイ。イケメンのイケボにバンザイ!
私は顔から火が出るほど暑くなって、寮についたら自室に連れ込んで、ラルに操を捧げてもいいと本気で思うのだが、前世であれば52歳の中年女が15歳の男の子に襲いかかるなんて犯罪です。青少年健全育成条例違反だったな〜。
私はラルに手を引かれたまま、寮の方へ歩き出した。その間、アルノールドが何か言ってたけど、そんな事どうでもいいほど浮かれていた。それは胸の奥に引っかかっているものを誤魔化すように。