「エミ・サイラ‥‥」
ニヤリと笑みを浮かべる人影。
「聖女候補で転生者」
その人影は林道の木々の隙間から3人の様子を見ていた。人影は何かを思いついた様にニヤリとさらに笑う。
「面白くなりそうだ」
そう呟くと、寮の方角へ足を動かした。
その様子をメガネ越しに一人の男が様子をうかがう。
「いろいろと問題が起きそうだ。とにかく、エリナーミアは巻き込まれないようにしないと」
そうひとりごちるのは、ロイドーラ・ボンハーデン、エレナーミアの1番目の兄である。
その後ろからもう一人現れたのは、2番目の兄ランドリュース・ボンハーデンである。
「兄上」
「お前もこれからの事、気をつけて行動しろよ。俺はお前も大事なんだから」
「分かってるよ。俺達ボンハーデンは信じる道を行くのだろう。その為に家族は守る。兄上も同じ気持ちだろ?」
ロイドーラは強く頷いた。
「1ヶ月後」
二人は互いの握り拳を合わせてグータッチをすると、行くべき場所へ歩き出した。
エミ・サイラは自室のベットに寝転がり、考えをめぐらせていた。
「頭を整理しないと」
・アルノールド攻略は「運命」がキーワード
どう言うわけか、エリナーミアがキーワードの運命をアルノールドに言った事でフラグが折れてしまった。
本来なら、ヒロインのエミ・サイラがその言葉を伝える事で、アルノールドの気持ちがエミに興味を抱かせ、屈託のない笑顔を見せるエミを自由な娘というイメージで見るようになる。アルノールドにとって自由は憧れ。城での環境がアルノールドを苦しめているからである。
つまり運命はきっかけであって、自由になりたいのがアルノールドの本心と言うわけだ。
・ランドリュース攻略は「魅了避けの石」がキーワード
エリナーミアは魅了の力を持っていた。そうとは知らず兄のランドリュースはその魅了にかかり、妹に対して女として求める様になった。聖女の力で光の精霊を呼び、精霊から教えてもらったのが精霊石である。エミはその石をランドリュースの上着のポケットに忍ばすと、パチンッと音を立てて何かが弾ける音がした。その時本来のランドリュースに戻り、縛られていた心が解放され幸福感を得られた。エミに恩義を感じていたがそれが恋に変わりそして愛する事になったのだ。
・クラハム・ハスラナ攻略は「キス」がキーワード
クラハムは女性が苦手である。勉強や知識、戦略など頭を使う事が得意だった。女性が苦手なになったのは、彼の上に3人の腹違いの姉がいる。彼の母親は平民の出で商店街にある露店でフルーツを売っていた。そこへたまたま通りかかった父親が彼女を気に入り、フルーツを注文して屋敷に届けせた。その後、手ごめにしてクラハムが授かる事となる。クラハムは父親が憎い。母親はクラハムを産むと、姿を消してしまった。生きているのか、しんでいるのか。その後義姉達はクラハムを放ってはくれなかった。義姉達の母親はクラハムの件で父親を捨て、実家へ帰ってしまった。家を壊したのは全てクラハムのせいとばかりに彼をいじめた。地下牢に閉じ込めたり、半分殺すつもりで井戸に突き落としたり。そんな地獄の日々が続くと、クラハムは成長して力もついて義姉達に負けなくなった。父親は幸にして、ハスラナ家の時期当主にと考え始める。クラハムが秀才だったからだ。学園に入学したクラハムはその頭の良さに生徒会に誘われる。クラハムが生徒会に入って数ヶ月、とある事がきっかけでエミと知り合う事になる。最初は冷たく当たるクラハムであったが、エミは諦めずクラハムと友達になる事を願った。ある日、クラハムはやはりエミの思いを受け入れる事は出来なかった。エミは涙を浮かべ、聖女の力でクラハムを光に包むと、幸せは誰にでも与えられる権利だと言葉と共に、クラハムの額に口付けをする。愛される事が無かったクラハムは初めて友情とか愛情とかを知る事となる。
「アルノールドの出だしはダメだった。次挽回するとして、クラハム攻略は時間は掛かるけど、なんとしても接点を作らなくちゃ」
エミは「次こそどうにかしないと」と気合を入れ直し、強く握り拳を作ってそれを見つめた。
ラルに女子寮の前まで送って貰い、何事もなく手を振り、ラルも背中を向け、少しこちらを振り向き片手を上げて小さく笑う。
「また明日」
私はそんな背中を女子寮のエントランスで軽く手を振る。
私は自室に戻るとベッドに腰を下ろした。
そして先程のラルを思い出し、ニンマリと笑みを浮かべている。それからため息をついて
「はぁ〜。ラルとは恋仲になるなんて、考えない様にしていたのに」
どう足掻いても自分を誤魔化しても、コントロールなんて出来ない。そんなの分かっているけど、ちょっとした事で一喜一憂するのはその人の事を目が離せないから。この気持ちは前世でも嫌と言うほど経験した。
前世の私が死ぬ5年前に、大好きだった旦那が心筋梗塞で死んだ。突然で呆気なくて、暫く受け入れる事が出来なかった。この思いを決着出来ず、ずっと引きずり転生してからラルと出会った。ラルの男らしさや優しさが、あの人にとても似ていた。真っ直ぐ気持ちを伝え、何事にも揺れない強い意志を持っている。そんなラルを好きになった。
剣を習った理由は、ラルの事が気になるからではなく、それはまた別の話。でも結果的にラルを知って、どんどん惹かれる自分に戸惑っていた。あの人を忘れたくない。だけど、ラルの側で彼を見ていたい‥‥
私はどうすればいいのだろうか。
イーラルド・ララドールは男子寮へ帰る道で、エリナーミアの事を考えていた。
初めて会ってからずいぶんと長い付き合いになるが、未だ恋人と呼べる間柄ではない。何度か付き合う話をしようと思っていたが、いつもタイミングが合わなく今に至るのである。お互い良い関係をきずいているがあまりにも居心地がいいので、このままでもいい様な気がしている。エリナーミアはどう思っているか分からないが、イーラルドは何となくずっと前から知っていた様な気もしている。乙女なら「前世でも繋がりがあったのかしら?」といったところだが、イーラルドはこれは思うと恥ずかしくて顔から火が出るほど暑くなる。
寮が見えて来たところで、玄関口のポーチに見慣れた男が立っていた。
「兄貴?」
そこに居たのはハデスリード・ララドールである。
「入学おめでとう。愚弟」
「ああ」
ハデスリードはイーラルドのところまで近づくと言った。
「あのお方が出る。近々学園を巻き込む騒動が起きる。お前はエレナ嬢を最後まで守りぬけ。彼女の安全は今のところお前の側だからな」
イーラルドは深く頷いた。ハデスリードは握り拳を軽くイーラルドの胸に当たると、
「ランドリュースから伝言だ。「妹を頼む」それをどうするかお前が決めろ。ボンハーデン家はどんな答えでも構わないのだろう」
イーラルドは小さく頷くと、腰に下げている剣のつかを触り
「エリナーミアは俺に任せてくれ」
そう言うとイーラルドは女子寮の方へ向きを変え、一つ息を吐き緊張した気持ちを吐き出し歩き出した。
ハデスリードは心の中で呟く。
「一つ片付いたな。そして、反乱は明日か明後日か。それとも来週か」
右指だけを軽く上に上げ風魔法を自分に向けると、体は宙に浮き、そのまま騎士科の寮までひとっ飛びして戻るのである。
ーーーそう反乱。
この国コンタノールは表向き、現在の国王の政治は良い様にうつって見えるが、実際は貧富の差が激しい。そもそも、現国王は国民に対して無関心。それを不審に思った皇太子(第1王子)アルアドネ・サバイ・コンタノールはこの国の 情勢を調べ上げていた。
そこで得られた情報。それは今まで知らなかった自分が許せなくなるほど、酷い状態だったのである。
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