コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「誰もいなくなった部屋 孤独だけが押し寄せる
もう 何も見えない
あなたがいない世界 ここでは生きていけない
ああ どうか殺して
絶望に色を付けるなら この部屋のように白がいい
赤く染まる様が よく見えるように
絶望が押し寄せる この身体を蝕むように
果てしない孤独に包まれ 悲しみが蘇る
止まったままの鼓動が 時の喧騒を失くし
色を止めてしまった 刹那に散りゆく
白い絶望の果てに見えるのは、何?
白い絶望の果てを超えるのは、誰?
悲しみ超え 満ちてゆく 色づく彩 咲き誇る
いつかまた 巡り合う 誘(いざな)う命 咲き誇る
壊れてしまったのは 運命(さだめ)
誰のせいでもない あなたのせいでもない
再び巡る その日まで
旅立つ空に 燃ゆる白い華――」
俺の歌とはまた違うテイスト。でも、心を震わせるような歌声と演奏だった。真剣に聴くと感動して想いが溢れ出てしまいそうだったし、色々止められなる自信があったため、酒の用意をしながら聴いた。
鳥肌が立ち、お世辞抜きで感動した。
「歌、お上手ですね。とても素晴らしいです」拍手で褒め称えた。「白斗が歌うよりずっと素晴らしい曲になっていましたよ」
「えー、私なんか全然ダメですよぉ。現に私はプロになれませんでした。白斗や光貴と違って、才能も無いでぇす……」
「律さんはどうして自分を卑下なさるのですか? 私が素晴らしいと褒めているのです。もっと自信を持ってください」
俺が感動したこの感性は嘘なんかじゃない!
「この際ですからハッキリ言います。光貴さんより貴女の方に華がある。華は天性のものです。磨いてどうこうできるものじゃない。光貴さんとずっとバンドを組んでおられたのですよね? メジャーに行けなかったのは、貴女の良さを引き出せなかった光貴さんの曲作りやアレンジ能力に原因があると思いますよ。彼の好む曲やアレンジが、繊細な貴女の声に合わなかっただけです。別のジャンルならもっとのびやかに歌えたはずです。だから律さんが自信なさげにして、光貴さんに申し訳ないと思うことなんてありません。堂々と胸を張っていればいいのです。考え方や意思も強い。律さんはアーティスト向きです。彼とは対等ですよ」
空色はきゅっと唇を噛みしめてなにかを逡巡していた。今にも泣きだしそうだ。
「いったいどんな喧嘩をなさったのですか? 水谷さんが結構怒っていらっしゃったので、おおよそ見当はついておりますが」
「言わなきゃだめでぇすか?」
「無理に言わなくてもいいですよ。せっかくですから少し飲みましょう。律さんはジュースですよ」
ソファーへと案内した。中心に置かれたクリスタルピアノの奥に配置したガラステーブルを囲うように置いた白いソファーに座るように言った。
空色が恐縮しながら座っている姿が可愛らしく、キッチンの方で思わず隠れて笑ってしまった。
「新藤さん、ここ、本当に社宅ですか?」辺りを見回していた空色が尋ねた。
「今更ですか? 律さんは素直ですね。私の冗談を真に受けるとは」
素直な女なんだな。思わず笑ってしまった。俺の嘘を疑いもせず信じるなんて。だから俺はいつまでも立ち位置がスタッフで白斗にはなれないのか。
「じょ…冗談」
なにか言いたそうにしていたので、作ったドリンクを渡した。「さあ、どうぞ」
「お酒ですか?」
「いえ。レモンスカッシュを作りました。さっぱりして美味しいですよ」
「だめ。飲みたいの! つよーいお酒作ってください」
「しかし…これ以上強いお酒を飲むと、記憶を失くしますよ」
「いいです。全部失くしたいです。もう私にはなにもありませんから。詩音もいなくなってしまいましたし……」
「仕方ありませんね。お酒は少しだけですよ」
レモンスカッシュが入ったゴブレットにウィスキーをついだ。お酒が投入されたことで彼女は満足気だ。
「乾杯しましょうか」
俺も自分のロックグラスに先ほどのウィスキーをついで用意した。
今日という日を最高の思い出にしよう。彼女と最初で最後の夜。