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夢主の設定
名前:アリア
現代パロディ。恋人設定です。
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手づくりケーキ
バレンタインデーには、彼の好きな紅茶を混ぜた生チョコをプレゼントした。
結構な時間と手間をかけて作ったチョコレート。
ラッピングも不器用なりに頑張って丁寧に仕上げた。
普段あまり表情を崩さない彼は、口元を少しだけ緩ませて
「うまい」
と短く感想をくれた。
彼のことをよく知らない人たちがその光景を見たら、無愛想だと言うかもしれない。
でも私は彼の反応を見れば分かる。美味しいものを食べた時の彼の表情。私だけが分かればいいの。
「アリア。毎年ありがとうな」
そう言ってリヴァイは私を引き寄せてそっとキスしてくれた。
おでこ、ほっぺた、唇に、優しい優しいキス。
「ふふ。くすぐったい。リヴァイ大好き」
『俺もだ、アリア』
お互いを引き寄せて、ぎゅっと抱き締め合う。
幸せな時間。
それから1ヶ月後。
今日はホワイトデー。
毎年その日は、バレンタインのお返しにとリヴァイが美味しいものを食べに連れてってくれる。
でも今日はリヴァイに呼ばれて彼の家に行くことになった。
『お邪魔しまーす!』
合鍵で家の中に入る。
いつ来ても、隅々まで掃除の行き届いた清潔な家。
でも、何だろう。いつもと違う。
私が感じた違和感の正体は、家のにおい。
普段はしない、甘い香りが漂っている。
香水じゃない。
そもそもリヴァイも私も香水とかフレグランスは苦手。
でもいつもと違うにおいがする。
だけどよく知ってるにおい。
あ、紅茶だ。
リヴァイの好きな、紅茶の香りだ。
私が来る直前に飲んでたのかな?
それとも私が来るタイミングで淹れててくれたのかな?
『アリア』
私の名前を呼んだ彼は、心なしかちょっと疲れているように見えた。
ソファに腰掛けた私がすっと横にずれると、リヴァイが隣に腰を下ろす。
『リヴァイ?なんか疲れてない?』
「……ああ。やっぱり分かっちまうか…」
『?』
リヴァイが私の肩に頭を乗せる。
珍しい。こんなことされるの、たまにしかないから。
可愛い〜。
サラッサラの黒髪を撫でる。
あ、リヴァイの髪からも甘い香りがする。
『リヴァイどうしたの?』
「…ん……。ちょっとな 」
言葉を濁すリヴァイ。
とりあえず、と言うようにどちらからともなく唇を重ねる私たち。
「……実はな 」
『うん』
ほんとどうしちゃったの。
こんなに勿体ぶって話すリヴァイ珍しい。
「………ちょっと待っててくれ…」
『? うん』
長い沈黙の後、重たそうに腰を上げた彼は、キッチンのほうへと消えていった。
少しして戻ってきたリヴァイ。
その手には、この家では見たことのない、繊細な青い花模様のお皿。
そこに乗せられた白い物体。
『それ、ケーキ?』
「…ああ」
『もしかして、リヴァイが作ったの??』
「………そうだ」
驚きと嬉しさで胸が高鳴る。
そんな私とは反対に、バツが悪そうな顔の彼。
「…バレンタインには毎年お前が手づくりしてくれるからな。今回くらいは俺もと思ったんだが……。お菓子づくりがこんなに大変だとは思わなかった」
『リヴァイ…』
ゆっくりとテーブルにケーキの乗ったお皿を置くリヴァイ。
「お前が好きだからと思ってシフォンケーキとやらを作ろうとしたんだが、5回失敗して6回目にしてようやくこれだ」
視線の先には白い生クリームで覆われた、彼の努力の賜物。
「これも完璧には作れなくて、でもお前が来る時間が迫ってたから、仕方なくネットに書いてあった生クリームを塗る方法で誤魔化しちまったってわけだ」
彼にしては珍しい、もごもごとした物言い。
とうとう我慢ならなくなった私はリヴァイに思い切り抱きついた。
「!? アリア?」
『リヴァイ〜!ありがとう嬉しい!』
「…こんなんで悪いな……」
『ううん、すごく嬉しい!早く食べたい!リヴァイも一緒に食べよう!』
「いや、俺は……」
『ル●シアで新発売の紅茶買ってきたからさ!それ淹れて飲みながら食べようよ』
「……わかった」
やっぱり紅茶には弱い彼。
ちょっと可笑しくて笑っちゃう。
2人で取り皿とナイフ、フォーク、ティーカップを用意して、私が持ってきた新発売の紅茶を淹れる。
フルーティーでいい香り。
リビングに戻ってシフォンケーキを切り分ける。
よく見ると、ケーキに塗られた白い生クリームもところどころ塗られた量にムラがあった。
でもそれが、普段お菓子づくりなんてしないリヴァイが、目の下にクマをこさえながら私のために一生懸命つくってくれた証だと思うと愛おしくてたまらない。
私はわくわくしながらシフォンケーキを食べた。
口いっぱいに広がる、アールグレイのいい香り。
『…っ!美味しい〜!ほんとに美味しい!リヴァイも食べてみて』
私に催促されてリヴァイも渋々といった感じでケーキを口に運ぶ。
数回咀嚼した彼の表情が少し明るくなった。
「…ん。悪くないな」
『ね!美味しいでしょ。』
こんなに美味しいシフォンケーキ食べたことない。
世界でいちばん美味しいシフォンケーキ。
それは大好きなあなたが作ってくれたから。
しかも5回も失敗して。
失敗する度に眉間に皺を寄せて頭を抱えるリヴァイの姿と、これを乗せるためにわざわざこんな綺麗なお皿を買いに行った彼の姿を想像すると、嬉しくてちょっぴり可笑しくて、つい口元が緩んでしまう。
「お前が持ってきた紅茶とよく合うな」
『ほんとね!ちょうどよかった』
リヴァイも新発売の紅茶、気に入ってくれたみたい。
さっきまでの疲れきった顔とは一変、いつもの彼に戻っている。
あっという間に食べ終えた私たち。
『リヴァイ、ありがとう。ほんとに嬉しかった』
「もっと上手く作れたらよかったんだけどな」
『ううん!全然そんなことない!美味しかったよ。リヴァイ大好き』
私が再び彼に抱きつくと、彼も優しく腕をまわして包みこんでくれた。
そしてまた唇を重ねる。何度も。
ほのかに紅茶の香りが残るキスを。
今年のホワイトデーも、最高の思い出ができました。
ところで。
『ね、5回失敗したシフォンケーキたちはどうしたの?全部リヴァイが食べたの? 』
私がたずねると、
「いや、どう救済してやればいいな分からなくてな。アリアに聞こうと思っていた」
リヴァイの視線の先には、しぼんだり少し焦げがあったりと彼の合格をもらえなかった5つのシフォンケーキたちが、 まとめて大きめのボウルに押し込められていた。
それを見てまた笑っちゃう私。
『生クリームが余ってるならこれにも塗って隠しちゃえばいいよ。あと、ひと口大に切って生クリームを添えてもお洒落かも 』
「なるほど」
『それと、トースターとかで少し焼いてカリッとさせてもクッキーとかラスクみたいになって美味しいかも』
「そんな手もあるんだな」
私が提案した救済案に、感心したような表情のリヴァイ。
こんな顔を見られるのも彼女である私の特権。
幸せなホワイトデー。
今日のこともしっかり日記に書いて、数年後読み返して懐かしめるようにしておこう。
end