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翌日の放課後。
夕日が斜めに差し込む教室で、工藤新一は机に両肘をつき、頭を抱えていた。その隣で、黒羽快斗は教科書を鞄に詰めながら、宿敵のあまりのやつれっぷりに内心で口角を上げまくっていた。
「なーあ、工藤。お前さ、昨日のキッドの事件からずっと魂抜けてんぞ? マジで大丈夫かよ」
「……黒羽」
新一が、ひどく掠れた声で快斗を見上げた。その瞳は、いつもの事件解決時の鋭さは微塵もなく、まるで迷子の子犬のように彷徨っている。
「お前にさ……ちょっと、相談したいことがあるんだ」
「ん? なんだよ改まって。難解な暗号の解読か?」
快斗がいつものノリで笑うと、新一はごくりと唾を飲み込み、声を限界まで潜めて言った。
「……恋愛相談だ」
「ぶふっ!!!?」
快斗は手元からトランプを数枚、派手に床へぶちまけた。
ポーカーフェイス?
んなもん、この男の口から出る「恋愛相談」という四文字の破壊力の前には一瞬で消し飛ぶ。
「れ、れれ、恋愛相談ぁ!? お前が!? 誰にだよ!」
「声が大きい、バカ……ッ!」
新一は真っ赤になって快斗の口を手で塞ぐと、誰もいない教室を見回してから、消え入りそうな声で白状した。
「……キッドだ」
「は?」
快斗は思考が停止した。
「俺、あいつのこと……ただの宿敵(ターゲット)としてしか見てなかったはずなのにさ。あの手紙を読まされてから、昨日の夜、あいつにフェンスに押し込まれて……『すべてを盗んで連れ去ってしまいそうになる』って、あの至近距離で、あの声で言われた瞬間……心臓が、破裂するかと思ったんだ」
新一は両手で顔を覆い、耳の根元まで真っ赤に染め上げながら、ガタガタと震えている。
「あいつの顔を思い出すだけで胸が苦しくて、昨日の帰り道も、あいつのセリフが頭から離れなくて……。俺、あいつを捕まえることばっかり考えてたはずなのに、今はあいつの存在そのものに、頭のてっぺんから爪先まで支配されてる。……これってさ、黒羽」
新一は指の隙間から、本気で困り果てた、酷く切なげな瞳で快斗を見つめてきた。
「俺……あいつのことが、好きなのか……?」
どくん、と快斗の心臓が大きな音を立てた。目の前で、世界一諦めの悪い名探偵が、自分(キッド)への恋心を本気で自覚して、自分(同級生)に相談してきている。このあまりにも歪で、あまりにも愛おしすぎる状況に、快斗の脳細胞は完全にショートしかけていた。
(嘘だろ……。からかうつもりで仕掛けたリベンジの手紙が、まさかここまでの特大ホームランになって返ってくるなんて……!)
快斗の顔も、夕日より遥かに赤く染まっていく。
「お、おい、黒羽……? なんでお前がまた真っ赤になってんだよ」
「っ、うるせーよ! お前が急に、そんな心臓に悪いこと言うからだろ!」
快斗は慌てて顔を背け、床に散らばったカードをめちゃくちゃな手つきで拾い集めた。指先が震えて、カードがうまくまとまらない。まさか、新一の口から「キッドが好き」なんて言葉を聞く日が来るなんて、夢にも思わなかった。
「……で、どうなんだよ」
新一が机に突っ伏したまま、上目遣いで快斗を見る。
「お前、手品師だし、女の子の扱いとか慣れてるだろ……? 男が男に、しかも泥棒にこんな感情抱くのって、やっぱりおかしいか?」
「おかしく、ねぇよ……!」
快斗はカードをトントンと机に叩きつけて一組にまとめると、新一の前に一歩踏み出した。ポーカーフェイスの仮面を脱ぎ捨てた、黒羽快斗としての本気の視線が、無防備な探偵を真っ直ぐに射抜く。
「相手が泥棒だろうが、男だろうが関係ねぇよ。お前がそこまで頭いっぱいにされてんなら、それは完全に恋だろ」
「……やっぱり、そうなのか」
新一は絶望したように、けれどどこかホッとしたように息を吐き、また両手で顔を覆った。
「あー、クソ……。次の予告状の時、あいつとどんな顔して会えばいいんだよ……」
その様子を見下ろしながら、快斗は胸の奥から湧き上がる衝動を必死に抑えつけていた。ニヤニヤするのを通り越して、今すぐ「俺がキッドだ」とバラして、この愛しい探偵を掠め去ってしまいたいという独占欲が、限界まで膨れ上がっていく。
「……じゃあさ、工藤」
快斗は新一のブレザーの袖を、微かに震える指先で小さく掴んだ。
「もし本当に、そのキッドがお前の前に『ただの男』として現れてさ。お前と同じように、お前のことで頭がいっぱいだって言ったら、お前どうすんの?」
「え……?」
新一が顔を上げる。
「泥棒のキッドじゃなくてさ。……例えば、俺みたいな、普通の奴がキッドだったとしたら、お前、そいつの気持ち、受け入れるわけ?」
夕日のオレンジ色が、二人の距離をゼロにするように、教室の床に長い一つの影を落としていた。
コメント
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# 8話感想 もうね、最高すぎて叫びました!!😭💕 新一がまさか快斗に恋愛相談するとは思わなかったし、しかも相手がキッドって自覚しちゃうとか…この気まずさと甘酸っぱさのバランスがヤバすぎる!!「心臓が破裂するかと思った」って新一のセリフ、こっちまで胸が締め付けられたよ…! そして快斗のポーカーフェイス崩壊っぷりと、「俺みたいな普通の奴がキッドだったら」って詰め寄るところ、もう完全に恋する少年の顔じゃん!?🃏💘 2人の距離がゼロになる夕日の描写、美しすぎてエモすぎて泣いた…次の話マジで待ちきれません!!🔥