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雨降る夜桜の下。
車椅子に座る後輩が黄色を見上げる。
『綺麗ですね』
そんなことを言う資格は無い…そう自覚しているのか、ぎこちない笑みを向ける彼の全身は老いていた。
”天使は歳を取らない”
彼があの後どういう人生を辿り選択をしたのかは彼自身しか知らない。
けれど、彼はもう”天使ではない”という事実は、幼子でも理解できてしまう。
黄色は深くフードを被った。
「何の用?」
冷たく、切り離すような声。
笑顔が悲しみに染まり俯き、桜の根を見つめる後輩。
頭皮が見える程量の少ない黒髪が奇跡的に大きな束を作り、彼にその瞳は見えなかった。
『あの時のことを謝りたかったんです』
黄色はフードの中で目を丸くし、彼の前にいる、弱々しい老人に視線を移した。
優しく、寂しそうに微笑む後輩を。
『ずっと、ずっと謝りたかった…』
その目尻には、薄く涙が浮かんでいた。
黄色の眉間に、無意識に力が加わり、震えるのが分かった。
『信じて貰えないでしょうが…私は、私の意思で貴方を陥れた訳ではありません、』
大きな桜の木を、再度見上げる老いた彼。
優しい、優しい力の抜けた目を持つ彼。
『天界に来た時、私は正直、あの世界がなんなのか怖くて仕方がなかった』
打ち明ける彼の片手が、もう片方の手を緩く撫でる。
黄色は桜を見上げながら傾聴した。
その瞳は、茶色に染まる髪に隠れ見えない。
『嫌われたらどうしようとか、こんなこと思われてるんじゃないかって不安で、心配で壊れそうだったんです』
”まるでニンゲンみたいに”と付け加える彼。
黄色は彼を見ようとはしない。
『そこに、私と同じような”こころ”を持った天使が現れた』
車椅子を漕ぎ、より一層桜の根元へ近づく彼。
黄色は彼の背中に視線を移した。
『そいつも、最初はいい奴で、…私に仕事を教えては得意気に笑って見せました』
彼が振り返る。
『あなたにそっくり、w』
震える声。
どこからやってきたのか風が、彼等の髪を靡かせた。
『許してくれとは言いません』
車椅子を漕ぎ、黄色の足元へつける。
上を見上げても、彼の顔には濃い影が降りていた。
『ただ、私はもういない身な故…一度、一度だけ__』
必死に上の彼へ手を伸ばす老人。
車椅子から落ちそうになるほど、それは必死に伸ばされた。
金豚きょー
『貴方に、会いたかった…』
琥珀色の瞳に大きな透明水が溜まっていく。
座る彼のために腰を落とす頬に、優しくも、シワの多い手が触れる。
我慢しなくていいんだよと、優しく、優しく撫でてやる。
『会って謝りたかったなぁ、』
線の多い目尻に伝うものを拭いながら、彼の姿は桜を映した。
膝の上に置く暖かい手は、やがて姿を消し、彼の手が透明なものに触れているかのように空中に浮かぶ。
「会ってるやろうが、、」
今、この場所で__
車椅子に掛かっていた体重が消え、座面が元に戻る音が妙に響く。
『さようなら、”シーレ”』
裏切り者の贖罪を__
唸る夜桜は、琥珀色の瞳には、
______金色に映り姿を消した。
『僕、詩を読むのが好きなんです』
→♡3000
コメント
8件
ここでシーレの名前が、伏線回収すごすぎて😭 最近忙しくてコメントできてませんでした! のりしおさんタイミングで好きな時に好きなように書いてください♥️