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お店に着くとまだ人は少なかったので、待たされる事なく席へ案内された。メニューを開いて渡してもらい何にしようかと目線を彷徨わせる。
「そういえば瀬南くん、パスタでよかったの?」
「それ店の中に入ってから聞くの?」
「ふと思っちゃって」
瀬南くんは私には目もくれず、淡々とページをめくりながらメニューを一通り確認するとパタンと閉じた。
「他人のこと気にする時間あるなら、自分が何食べるか早く決めたら?」
「え、もう決めたの?!」
「まだ決めらんないの?」
「ちょ、ちょっと待ってね!」
「遠慮することないから、好きなの頼みなよ」
少し悩んだけど、ありのままの自分でいて良いと言ってもらっていたのもあるし、’遠慮することない’って言ってくれたおかげで何を注文するか決めることができた。
「決めたよ」
「ん」
ベルで店員さんを呼び、瀬南くんから先にどうぞと促す
「ペスカトーレのドリンクセット、ブラックコーヒーで」
店員さんが打ち込んだのを見て私も注文する
「明太子スパゲティのスペシャルセット。ハーフはトマトと茄子のパスタでデザートはフォンダンショコラ、ドリンクはミルクティをお願いします」
五十嵐の注文を聞いていた瀬南は顔をしかめて閉じていたメニューを再び開く。
「以上でよろしいでしょうか」
「はい!」
「少々お待ちくださいませ」
店員さんが去っていくのを見送ったあと目線を戻すと瀬南くんがメニューのとあるページを開いてこちらに向けていた
「どうしたの?」
「スペシャルセットって言った?」
「え?うん」
「スペシャルセットって1人前のパスタにハーフサイズの別種類パスタが付いててサラダと本日のスープとデザートもついてるんだよ?」
「そうだよ、もしかして瀬南くんもスペシャルセットがよかった?」
「違う、こんなに頼んで食べれるわけ?」
スペシャルセットと記載されてる場所をトントンと指差して私に聞いてくる。
「食べれなかったら注文しないよ」
「好きなの頼みなよとは言ったけど…」
「遠慮しなくていいって言ってくれたおかげで食べられる!」
「…まぁもし食べれなかったら僕も協力するから」
「ありがとう」
と返したものの瀬南に食べてもらうつもりは毛頭ない五十嵐は、到着した全ての食べ物を小さな口で自分のペースを崩すことなく全て美味しそうに完食。瀬南の心配は稀有に終わった。
「ごちそうさまでした!美味しかった~!」
「嘘でしょ、どんな胃袋してんの」
「久しぶりに量のこと考えずに食べれて幸せだった」
「…いつもは気にしてんの?」
「うん、こんなに食べると皆引いちゃうからいつもは他の人の注文を聞いてから同じ量のものを選ぶようにしてる」
お言葉に甘えて今回は遠慮せずに思いっきり食べちゃったけど…
「そうなんだ」
「遠慮しなくていいって言ってもらえたから嬉しくて頼んじゃったけど、こんなに食べる女の子ってちょっと引くよね?」
「まぁびっくりはしたけど食べ方は綺麗だし、美味しそうに食べてたから別にそこまで気にならなかったけど」
気まずい雰囲気が生まれることもなく、むしろ感心したような口ぶりでコーヒーに口をつけながら言ってくれた。
ありのままの自分を受け入れてもらえるのって、こんなにも嬉しいことなんだ…
「そっか…良かった!瀬南くんの前では食欲も遠慮しなくていいんだ」
「好きなだけ食べれば?」
「ありがとう」
‘好きなだけ食べてもいい’私にとってはとってもありがたくて嬉しい言葉。
‘え、気持ち悪いんだけど’
‘…あはは、す、すごい食べるね’
過去に言われたことのある言葉やドン引きされた反応が心の中から消えていく。
嬉しくて自然と笑みがこぼれた。
「…今のは、良いんじゃない」
「今の?」
「良い顔してるってこと」
そう言った瀬南くんもほんの僅かにだけど笑ってくれた気がした