テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
『慈悲も、自由も、与えぬ』(激しく迫る 無惨編)
無惨の指が、あなたの背中を這う。
その触れ方は酷くゆっくりで、あまりに意図的だった。
「怖いか?」
囁くように言いながらも、瞳には微塵の慈悲もない。
けれど、それでも美しい。
それが、彼の最も恐ろしいところだった。
「……怖いなら、逃げてみろ。逃げられるものなら、だが」
手は腰へと下り、あなたを逃がさぬように強く引き寄せる。
硬い胸板に押し当てられ、息が詰まりそうになる。
視界いっぱいに、無惨だけが映る。
「お前のすべてが、私のものになる瞬間――私はこの世のすべてに勝利する気がするのだ」
そんな言葉を告げながら、唇が今度はあなたの耳元に落ちる。
舌先が、耳殻をなぞる。
「ん……やっ……」
逃れようとすればするほど、無惨の手は強くなる。
まるでおもちゃを離さない子どものように――だが、その力には容赦がなかった。
「貴様の声が、私以外の者に聞こえるのは不愉快だ。誰にも、お前の甘い悲鳴を聞かせたくない」
今度は舌が、喉元を這う。
脈打つ肌に、牙が触れそうで触れない。
まるで、焦らすように。
「無惨様……お願い……っ」
「お願い、だと?」
一瞬、無惨の瞳が細められる。
その冷たさは、薄ら笑みと共に、さらに深くあなたを貫いた。
「命乞いか、甘えか……いずれにせよ、私にとっては悦びにしかならぬ」
そう言って、彼はあなたを持ち上げるように抱えた。
軽々と、まるで人形のように。
そして、背後の暗闇――無限城の奥のさらに奥、誰にも見つからぬ静寂の間へ連れ去られていく。
「今宵は、お前が二度と口を利けぬほどに、躾けてやる」
冷たい声に反して、その手は熱い。
焼けつくような執念を帯びて、肌を這う。
逃げられない。
――けれど、なぜだろう。恐怖の奥に、かすかに甘い熱が残っていた。