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プロローグ「色褪せた午後、珈琲の香りと共に」
その喫茶店は、まるで記憶そのものだった。
懐かしくて、でもどこかぼやけていて、掴めそうで掴めない。
そう、まるで――セピア色の写真のように。
「記憶喫茶 セピア」
そんな名前のその店は、古びた時計屋の裏通りにひっそりと佇んでいる。
看板もなく、地図にも載っていない。
だけど不思議なことに、本当に迷っている人だけが、
なぜか自然とこの店に辿り着く。
カラン、と鈴が鳴る。
扉を開ければ、コーヒーと木の香り。
そして古いジャズが、時間を巻き戻すように静かに流れている。
カウンターの奥にいるのは、灰色の髪の店主。
穏やかな瞳を持つその男は、客の顔をひと目見て、こう尋ねる。
「今日は、どんな記憶を温め直しましょうか?」
今日もまた、誰かが“思い出”を携えて、
セピアの扉を、そっと開ける――。