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「このプロジェクトリーダーは、今はいない早瀬さんと望月さんだと聞きました。望月さん、これからどうぞよろしくお願いします」
当然涼さんはリーダーの私に挨拶してくる。
「これからよろしくお願いします」
涼さんとの関係はこのプロジェクトチームで当然知ってる人はいないワケで。
樹と関係を隠してたのとまた状況が違いすぎる。
私は、またこの人とまともな心情でこの仕事を続けていけるんだろうか。
「大阪支社の北見さんってすごい仕事出来るって有名ですよね!営業ですごい広い人脈もあるとかオレ聞いたことあります」
「いやいや。元々この本社にいてね。そこからの縁もあるし、この会社で年数と経験重ねてるからの結果がたまたまあるだけだよ」
チームの中のメンバーが涼さんの仕事ぶりを噂で聞いたのか嬉しそうに会話している。
確かに、この人は昔から仕事は出来る人で。
皆が一目置いて憧れるような人だった。
大阪支社に転勤になったのも、経営が傾いてきた大阪支社を救うために転勤になったと聞いた。
現に涼さんが転勤になったことで、大阪支社は経営を盛り返し、それどころか今までにないくらいの利益が上がったらしい。
やっぱりそこはすごい人なんだと素直に尊敬してしまう。
今は自分もあの頃と違って仕事に熱を入れてリーダーまで務めることになったからこそ理解出来る。
そしてその様子を見て、あんなに会うことも避けていたのに、いざ仕事仲間だと思って見ていると、その気持ちもどんどん薄れてくる。
きっと今は樹の存在も大きくて、もうこの人には昔みたいな感情が確実にないから。
逆に今は仕事仲間として接することが出来そうで、自分の中で少し安心した。
自分の中でも、もう涼さんではなく仕事仲間の北見さんだと割り切れた瞬間だった。
とりあえず会議で今のプロジェクトの進行状況などを北見さんにチームで報告。
それに対して今までとは違う視点での意見とアイデアが北見さんを中心に飛び交って、さすがだなと感心する。
正直この感じだとプロジェクトは思ってたよりスムーズにいい感じに進みそうな気がする。
確かに樹がいた頃は樹が動いてくれてた部分があって。
実際女性としての自分が後からそこに入り込むことが出来ない部分が正直ある。
樹と同じ部署のチームメンバーも樹ほどまだ経験がなく、樹の代わりというとそれはちょっと不足を感じるところがあるのも事実。
だけど、北見さんは今までの人脈と経験で、正直樹の代理として十分に成り立つ人だ。
樹が社長に認めてもらう為に、力を入れていたこのプロジェクト。
樹が抜けた今、そのプロジェクトを失敗させるワケにいかない。
今いるこのメンバーでこのプロジェクトは、なんとしてでも成功させなければいけない。
だとすれば。
自分の感情抜きで、北見さんはきっとこのプロジェクトを助けてくれる必要な人なんだと実感した。
「望月さん。ちょっといい?」
会議が終わり会議室を出る準備をしていると、北見さんに声をかけられる。
「はい」
「この後時間あるかな?ちょっとこれからのこと色々と相談したくて」
「あぁ・・。はい。大丈夫です」
これから一緒に仕事していくワケだし、昔みたいに避けるのはやめることにした。
「じゃあ、いつもの店でこの後ご飯しながらどう?」
「美咲の店ですよね。はい」
「じゃあ、帰る準備出来たら会社の入口で待っててくれる?一緒に店行こう」
「了解です。ではまた後ほど」
そして、帰る支度をし終わり、会社のロビーの入口に行くと、すでに北見さんが。
「あっ、すいません。お待たせしました」
「いや。急に誘って悪いね」
「いえ」
「じゃあ行こうか」
「はい」
北見さんと並んで会社を出ようと入口へ向かおうとしたら、入口から見慣れた姿が目に入る。
樹だ・・・。
神崎さんと二人で話しながら外回りをしていたのか、会社へ戻って来た様子。
あの病院から数日樹には会えてなくて、久々に見た樹の姿に正直胸が高鳴る。
見慣れないいつもと違うスーツの感じも、さすが社長代理らしくビシッと決まって、いつも以上に凛々しく見える。
隣りにいる神崎さんも秘書らしく、経験を重ねている頼もしさとカッコよさが、樹とは違う大人の雰囲気で、まさに出来る秘書って感じ。
こうやって二人並んだ姿を見ると、少し違う世界の人に見えて嬉しさの反面、寂しくも感じる。
そんな樹をつい目で追ってしまって見ていると、樹がこっちに気付いて視線が合う。
一瞬樹が気付いて嬉しそうな表情になったと思ったら、視線が切り替わり急に険しい表情に変わる。
あっ・・そっか・・。
私、今、北見さんと一緒にいたんだ。
急に現実に引き戻されて気まずい現状に気付く。
だからと言って急に立ち止まるのも変だし、そのままお互いの距離が近付いていく。
少し気まずくてちょっと俯きがちになっていて、多分この雰囲気、北見さんも気づいてる。