「見てればわかります。私達の結婚式に来てくれた時、慧さんのお義母さんを見る目がものすごく優しくて『ああ、この人はお義母さんのことが好きなんだろうな』って、思ったんです」
そんな風に思われてたなんて、恥ずかしい。
女性の感覚って、すごいんだな。
「俺、もしかしてストーカーみたいになってた?」
「そうですね。ちょっとストーカーみたいでした」
真美ちゃんがまた笑う。
「ひどいな……」
「慧さん。お義母さんって……若い頃からあんなに素敵だったんですか?」
その言葉で『杏』にいた頃の雫ちゃんが瞬間的に頭に浮かんだ。
そして、俺はゆっくりと答えた。
「彼女は……何も変わってないよ。ずっと……」
「ずっと?」
「ああ。優しくて、笑顔が素敵で、美人で……それに、ものすごく頑張り屋さん」
お世辞でも何でもない、本当に何も変わってないんだ。
ただそこに、年齢を重ねた艶が足されて、女性としての魅力をさらに感じる……なんてことは、言わない方がいいよな。
そのことは、口にするのを止めた。
自分だけの……秘密。
「お義母さん、全然変わってないなんて素敵過ぎます。いつだって優しくて笑顔の素敵な人。私もいつもお義母さんに支えてもらって、こんな風になりたいなって心から思ってます」
それが本心だってこと、真美ちゃんからすごく伝わる。
雫ちゃんには、人を包む温かさがあるから。
俺も、何度救われたかわからない。
彼女がいてくれたから、俺はここまで来れた。
「でも、別に雫ちゃんと同じじゃなくても、真美ちゃんは真美ちゃんらしく……でいいんじゃないかな? そのままの君を、正孝君は大切に思ってるはずだから。もちろん、雫ちゃんのご主人も、雫ちゃんのことを1番大切にしてる。でも……」
「でも……慧さんも、お義母さんのことを大切に想ってるんですね」
俺は……うなづいた。
真美ちゃんには全部見抜かれてるんだな。
「慧さんは、お義母さんを好きになって、ずっと今も独身を貫いてるんですか?」
真っ直ぐな目で俺を見る。
「そう言ってしまうと、結婚できないのが雫ちゃんのせいみたいになるからね。俺は……ただ独身を楽しんでるんだ。この生活に満足してるから。人生の中で時々、こうして大好きな人に会えたら、それで十分っていうか。日々頑張っていればそんなご褒美がもらえる……みたいな感じかな?」
本当は、ちょっと強がりなのかもな。
「素敵です、そんな捉え方ができるなんて。慧さんは最高にロマンチストなんですね。お義母さんは幸せですね。あんなカッコいいお義父さんと結婚して、慧さんからもずっと想われて。何だか映画や小説の世界みたいです」
「ロマンチストなんて、今まで1度も言われたことないな」
2人で笑う。
「私も……正孝君に一生想ってもらえるように頑張りたいです」
「正孝君も幸せだな。真美ちゃんみたいな素直で可愛いお嫁さんをもらって。うん、本当に……みんな幸せで良かった」
俺は、雫ちゃんのことが好きだ。
大好きで……愛してる。
それは、一生変わらない。
この先も、密かに雫ちゃんを想い続けるロマンチストな男でいたいと思う。
それで……十分じゃないか。
俺の人生、1ミリの悔いもない。
ふと空を見上げて思った、「北海道の星空は最高に美しい……」って。
ここに来て本当に良かった。
俺は、ほんの少し込み上げる熱いものを必死で押し込めた。
「あっ、流れ星」
誰かの声。
空からたくさんの星が降ってくるみたいに……
それは、いくつも流れては消えた。
「みんなが大好きな人と一緒にいられて、幸せな笑顔が溢れるように」
この心の中の願いが、俺を支えてくれてる全ての人に、必ず、届きますよう――