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「いい気持ち~本当に最高のお湯だね」
「ああ、本当に……何度来てもいいな」
俺が子どもの頃からお世話になってる温泉宿。
雫にプロポーズした思い出の場所。
ゆっくりお湯に浸かった後は、夕食までベランダのソファに座りくつろいだ。
雫と2人きりの今を実感し、素晴らしい景色を見ながら贅沢に過ごせてるこの時間に感謝した。
「前田さんのご家族もたまに来てるんでしょ?」
「ああ。ここのお湯と料理、雰囲気が気に入って、結婚記念日には毎年ご家族で来てるそうだ。彼は、結構ハマるタイプみたいだな。あんこさんのパンもそうだった。よく『杏』に通っていたな」
前田君は、今も正孝の第1秘書として頑張ってくれてる。
社内一信用できる人物だ。
正孝を支え、会社のために身をこにして働いてくれてる。
「女将さんも素敵だし、本当に素晴らしい旅館だもんね。私もここが大好き」
子どもの頃にお世話になった第2の母みたいな存在の女将さんは……残念ながら亡くなられた。
でも、孫の彼女が立派に女将を継いでいる。
この老舗の素晴らしい旅館は、絶対になくしてはならないし、ずっと残してもらいたいと心から思ってる。
「今日は君と来れて良かった。なかなか2人の時間を作れてなかったからな。正孝も、全て任せられるかと言えばまだまだだけど、それでもしっかり頑張ってる。前田君もついてくれてるし、これからは少しずつ雫と過ごす時間を作りたい」
「嬉しい。でも、無理しないで。今まで十分幸せにしてもらったから。こんな私をここまで大事にしてくれて、本当に感謝してる。正孝も真美さんも誠もいて、私はすごく幸せよ」
雫は、いつだってこんなにも魅力的に微笑む。
忙しさに流され、この可愛い笑顔を見過ごしてしまうのはもったいない。
これから先の人生は、雫との一瞬、一瞬を大事にしたい。
「そうだな。孫の顔が見れる日がくるなんて、会社を守るために必死になってた時は考えられなかった」
「祐誠さん、私、あなたが会社や私達のために頑張ってた姿、頭から離れないよ」
「ちょっと……必死になり過ぎてたかも知れないな。今はこんなにも人生が変わって、俺は1人の人間として、ただただ最高に幸せだ。君がそれをくれた。だから、俺も雫にたくさん愛を返したい」
「祐誠さん……もったいないくらいの言葉だよ。だけど、すごく嬉しい」
俺は、雫を抱きしめた。
雄大な山の連なり、そこに夕陽が落ちていく。
湖に映る山々が、風が吹く度なびいて……
そんな美しい光景を2人で見られて、俺は、言葉にならないくらいの幸福感を味わっていた。
「ねえ、祐誠さん。私達が出会った頃のみんな……それぞれ道は違うけど、自分が選んだ人生を立派に進んでるよね」
「ああ、そうだな。懐かしい……」
「何だかあっという間だったね。ここまで」