「では、クリュッグのロゼを頂こうか」
ぐへへと変態顔の楓をぽかぽか殴り倒し、暫くすると黒川が戻って来た。開口一番シャンパン《エリクサー》を頼む……
シャンパンと云えばドン・ペリニオンが名高いだろう、多分素人でも広く認知されてるシャンパンだ。
実際の現場ではと云うと…… 殆ど出ない。
何故かと云うと不味いからだ。地方は未だドンペリ気触《かぶ》れがあるようで、需要があるようだが都内では殆ど見なくなった。今ではドンペリを頼むと云うだけで遊び慣れてない事を露呈させる。
店にも異なるが、キャバクラ《ダンジョン》でドンペリのロゼは安くて15万。クリュッグロゼは17万位となる。キャバの高級店は100万あればそこそこ遊べるがこれが銀座であれば一瞬で飛んでしまう…… まさに異世界だ。
「いちか君、先日の返事を聞かせてくれないかい? どうかな? うちの会社には数多くの部署がある。君の能力をきっと生かせると思うのだが」
楓はボーイに手をクルクル回し、声に出さず割り箸を持ってくるように指示を出す。
「ハイ、大変有難いお誘いなのですが、私には今、目標が有りまして」
「目標? 」
「はい、No,1を狙っております」
「はははっ! それを楓君の前で言うか! 素晴らしいな君は」
「この娘は本気ですよ。その為に、自らの身体を担保に私に助力を求めてきました」
楓は割《わ》り箸《ばし》を割らずにシャンパングラスに入れ炭酸を飛ばす…… これはキャバ嬢達の知恵。割り箸には多くの酸素が含まれる。グラスに差し込むだけで炭酸を簡単に飛ばせる事から炭酸が苦手なキャバ嬢達の定石《じょうせき》となった。
「本当なのか⁉ 」
黒川は今迄出会った中で一番の驚きの表情を見せた…… 暫く慮《おもんばか》ると、真剣な表情から途端に笑みが零れ、大声で歓喜に沸いた。
「既に修羅の道にその足を踏み入れていたと言うのか」
「はい…… 」
「堪らんな。身を削ってまで名誉を欲するその貪欲さ…… 」
「分かった、ならば私も協力しよう。その代わり君がNo,1になった暁には当社の面接の件。前向きに検討してくれ給え、どうだ? 」
「いいのですか? そんな…… 」
「構わん! 勝負事にはいつの時代も金が掛かる。政治だってそうだろう? 」
「あっ、有難う御座います。何とお礼を申し上げれば良いか」
そんなやり取りを祝福するかの如く、テーブルの下で何かが歓喜に沸く……
ピンク〇ーターが走り回っていた…… (白目)
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