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王都グランベルトへと足を踏み入れると、陽の光を受けて輝く磨き上げられた石畳が広がっていた。整然と並ぶ建物はどれも優雅な装飾が施され、通りには香水の匂いを纏った貴族たちが談笑しながら歩いている。
 しかし、ただ格式張っているだけではない。広場では露店が軒を連ね、焼き菓子の甘い香りや革製品の匂いが漂い、商人たちの威勢のいい声が響いていた。
 「すげぇ! なんだこれ!?」
 カイルは目を輝かせながら、石畳を跳ねるように駆け出し、店先へ飛びつくように身を乗り出した。
 「なぁなぁ、アレン!これ何の店だ?」
 (こんな所にお店なんてあったのか。)
 興奮を抑えきれないのか、アレンの袖をぐいぐいと引っ張る。
 (アイルスリンドとはまた違った雰囲気だけど、どこか似たものを感じる。)
 アレンは懐かしさと同時に新鮮さも感じていた。
 そこを抜けると学園都市アストリアが見えてくる。
 学園の門をくぐると、すでに多くの受験者達が試験会場へと集まっていた。
 「すっげぇな、こんなにいるのか……!」
 「まぁ、それだけ名門ってことだね。」
 試験は【筆記・魔法・武技 】の三つに分かれており、1日かけて行われる。
 〜1次試験は筆記試験〜
 「試験開始!」
 監督官の声が響いた瞬間、会場が静まり返る。
紙をめくる音、インクを走らせる音、試験官が床を踏みしめる靴音。沈黙が耳に痛いほどだった。
 (……簡単だな。)
 ギルドでアリアに鍛えられたおかげで、問題はすんなり解ける。ペンを走らせながらふと隣を見ると――
 (……カイル?)
 彼の顔がわずかに引きつっている。普段は勢いでなんとかする彼が、今は完全に手が止まっていた。
 (まずいな……焦ってる。)
 試験中に声をかけるわけにもいかない。僕は再び自分の問題に集中しようとしたが――
 カイルは眉間に皺を寄せ、唇を噛みしめていた。ペンを持つ指がかすかに震えている。
 「…えっと」
 小さく息を呑む気配。カイルの視線は試験用紙を彷徨っている。焦りが伝わってくる。
 その時、カイルの目がわずかに見開かれた。
 (あれは……思い出した顔か。)
 次の瞬間、彼はペンを握り直し、迷いなく問題を解き始める。
 「よし……師匠に感謝だ!」
 小さく口が動いたが、声にはなっていなかった。どうやら、ギリギリのところで踏ん張れたらしい。
 僕は軽く息を吐き、再び自分の答案に向き直った。
 (カイルなら大丈夫だな。)
 カイルはギリギリのところで踏ん張り、無事に筆記試験を突破した。
 〜2次試験は魔法試験〜
 カイルは試験官たちを見渡し、口元を吊り上げた。
 「よっしゃ、派手にぶちかましてやる!」
 槍の先に灯った朱い炎は、まるで生き物のように揺らめいた。熱が腕を這い上がり、皮膚の奥から血が沸き立つ感覚。
 「冥府の炎よ、弧を描きて滅せ!【ヘルファイア・クレセント!】」
 轟音とともに、燃え盛る炎が唸りを上げながら弧を描いた。
 ゴォォォッ!!
熱波が押し寄せて、肌がじりじりと焼けそうだ。
 炎の軌跡が空を裂き、標的を呑み込む。爆ぜる炎の音が鼓膜を打ち、熱気が試験会場を揺るがした。
 「な、なんだこの火力は……!」
 試験官が思わず一歩後退する。
 「へへっ、まぁこんなもんよ!」
 カイルの魔法が炸裂し、焼け焦げた木片が舞った。周囲の受験者たちが息を呑む中、アレンは拳を握りしめた。
 (やっぱり……すごいな、カイル。)
 熱波が肌を撫でる。けれど、それ以上に胸の奥に冷たい感覚が広がった。試験官が次の受験者を呼ぶ声が響く。
 「次、アレン・ヴァミリオン!」
 静寂。
 受験者たちがざわつく。
 (そうだ、僕には魔法が使えない──)
 恐怖で震える中。
ふと、アリアの言葉を思い出した。
 〜〜〜〜
 「私はあなたを誇りに思うわ。」
 柔らかな陽だまりの中、アリア・ヴァミリオンの優しい声が響く。赤髪が風に揺れ、母のような眼差しでアレンを見つめていた。
 「アレン、あなたに——ヴァミリオンの名を授けようと思うの。どうかしら?」
 「……僕に?」
 驚きと戸惑い。けれど、アリアの微笑みは揺るがない。
 「そうよ。アレンだけでは何かと不便だし、なにより…あなたがこの先どんな未来を選ぼうと、その未来が幸福であることを願うわ。だから、この名を胸に刻んで——あなたの信じる道を進みなさい。」
 アレンはそっと拳を握る。
 「……ありがとう、師匠。」
 ——その名に誓って、強くなる。
 〜〜〜〜
 アレンは一歩踏み出しながら、覚悟を決めたように深く息を吸い込んだ。
 (この名に恥じぬよう、ただ前を向いて進むんだけだ!)
 試験場のざわめきが遠のく。ただ、自分の鼓動だけが聞こえる。
 試験官が眉をひそめ、確認するように言う。
 「……開始しなさい」
 だが、アレンは動かない。ただ、まっすぐ試験官を見つめた。
 「僕は、魔法を使えません」
 試験官の目がわずかに細められる。周囲の受験者たちは息を呑み、好奇の視線を向けてきた。
 「えっ、魔法が使えないって……?」
「それでどうやって試験を……?」
 ざわめきが広がる。だが、アレンはそれを振り払うように、はっきりとした声で続けた。
 「でも、僕には剣があります」
 アレンは静かに指輪に触れた。すると、柔らかな星の煌めきとともに、手の中に剣が現れる。
 「剣技だけでも、やれることはあるはずです」
 試験官はアレンをじっと見つめた後、ゆっくりと頷いた。
 「──いいだろう。ならば、次に進め」
 〜最終試験は武技試験〜
 アレンは模擬戦の相手として、武器を構えた試験官と対峙した。
 「ふむ、お前は魔法が使えないようだが……どこまでやれるか、見せてもらおう。」
 「はい。」
 アレンは剣を構え、神経を研ぎ澄ます。
 「行きます!」
 ピンッーー
 試験官の耳が微かに鳴った。踏み込んだ瞬間、地面が僅かに抉れ、アレンの姿がかき消える。
 「なっ……!?」
 刃が空を裂き、試験官の顔が驚愕に歪む。
アレンの目には全てがスローモーションのように見えた。
 (……よし、いける!)
 シュバッ!
 反応する間もなく、剣の切っ先が試験官を捉える。
 カキンッ!
 「……速い!」
 刃が空気を切り裂く音が耳に響くと、試験官の剣が辛うじてアレンの攻撃を防いだ。
だがその反動で、試験官の腕が痺れたのがわかる。アレンは迷わず、さらに踏み込みーー。
 「はっ!」
 一瞬の間に剣を振り抜いた。
 カキンッ!…カランカランッ
 アレンの剣が試験官の剣を弾き、無防備な首に届く寸前で止まった。
 「素晴らしい身のこなしだ……これほどの速さと技術を持つとは。」
 周囲の受験者たちがざわつく中、アレンは静かに剣を収めた。
 試験終了後、受験者たちは広間に集められた。
 (この試験結果で、自分の進む道が決まる。)