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105 ◇プロポーズしたことがあるんだ
「ところで、雅代さんは1人娘さんのようだし今は後ろ盾になってくれる男性もいなくて、ご本人もだけどご両親も心もとないでしょうね」
「それで、なんとかならないかと君のいる工場を紹介したんだけどね。
こうなってみるとただのお節介だったのかもしれないな」
「そこはそんなふうに思うことないと思うわよ。
あなたと雅代さんが再婚すればいいんじゃない?」
こういうふうに話を振った温子だが、冗談半分だった。
仮にも元夫だった人間に他の女性を勧めるなんて有り得ない……ことを
言っている自覚はあったし。
すると、予想外に反応する哲司に温子は思わず仰け反りそうになるのだった。
「するどいね、君は……。
実は雅代ちゃんには一度プロポーズしたことがあるんだ」
『あれまあれま、この人は何言っちゃってるのかしら』
そう胸の内で思いながら温子は哲司の顔を見ていた。
次の言葉を待っているのに、何も言い出さない哲司に焦れて温子は続きを促した。
「それで❔」
「やんわりと? 違うな、-頑なに- が言い得て妙か…… 」
哲司がぶつぶつと独りごとのような何やら口の中でもごもご声にしている。
言いにくいことなのだろうか、そう思い今度は気長に哲司の言わんとするところを待つことにした。
「いやぁ~、ばっさり断られてるんだ。だからそこはないっ」
訊いても訊かなくてもどうでもいい話のようにも思えたが、つい話のついでに
温子は訊いてみた。
「どうして、雅代さんは断ったの?」
言った後で、温子は笑いそうになった。
なにー、自分の質問の仕方。
『どうして雅代さんから断られたの?』ならまだ分かるが
『どうして、雅代さんは断ったの?』なんて、断った本人しか分からないってばぁ~。
すると予想外の返事があり、温子は驚いた。
――――― シナリオ風 ―――――
〇製糸工場/応接室
温子
「ところで……雅代さんのことだけれど。
あの方は一人娘で、今は夫もいない。ご両親も心もとないでしょうね」
哲司(少しうつむきながら)
「だから、なんとかならないかと思って……君のいる工場を紹介したんだ。
でも、こうなってみると、ただのお節介だったのかもしれないな」
温子(半分冗談めかして)
「そこはそんなふうに思わなくていいんじゃない?
――あなたと雅代さんが再婚すればいいのよ」
温子の言葉に、哲司が真剣に反応する。
哲司(苦笑しながらも真顔で)
「するどいね、君は……。
実は、雅代ちゃんには一度プロポーズしたことがあるんだ」
温子、思わず息を呑む。
冗談半分で口にした温子は、予想外の答えに思わず仰け反りそうに
なった。
温子(前のめりに)「それで……?」
哲司(言葉を濁しながら)
「やんわりと……いや、頑なに、だな。
――ばっさり断られてしまったよ。だから、再婚なんてあり得ない」
温子、呆れ半分で笑いをこらえる。
温子(小首をかしげて、つい軽い調子で)
「どうして、雅代さんは断ったの?」
(N)
「言ってから温子は気づいた。
――そんなこと、本人にしか分からない。
けれど、その問いに返ってきた答えは、彼女を思いがけず驚かせることに
なる」