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雨宮珠莉は、弟の璃都の手を強く握りしめていた。ガラス越しの外――ゾンビの影が、薄暮のサービスエリアにじわりじわりと広がってくる。
「お母さん、大丈夫かな……」 隣で栗田さくらが不安そうにつぶやいた。
大人たちは食料や安全確保のため、「裏口」から武装して外に出ようとしていた。 村田哲也がリーダー役で声を張る。「子どもは絶対、ここで待っててくれ。絶対だぞ」 涙ぐむ子どもたち。だが、一人だけ、小声で「行かせて」と頼み込む姿があった。
風間大翔だ。彼は母親と一緒に来ていたが、母が志願して外へ出るのを知り、どうしても心配で――
「大翔はダメ、絶対……」 「でも、ママがいないと、僕――……」 母親は泣きそうな顔をして大翔を抱きしめた。 「戻ってくるから。ここで待ってて。ママに…勇気をちょうだい」 大翔はしばらく唇を噛みしめ――だが、ついに母親が裏口から外へ向かう瞬間、彼もその後を追い外へ飛び出してしまった。
「大翔ッ!」 母親の悲鳴。
他の大人たち(村田哲也、木村流星、松坂梨華、桧山周作、数人の旅人)が外で武器を振るい、車を盾にゾンビを迎え撃つ。 大翔の小さな背中は不安げに震えながら、母親を探して人の波を駆け抜けていた。そのとき、一団を囲むゾンビ群が大きく波打つ。
「きゃあああ、やめて!!」 母親の叫び、血しぶき、そして大翔の姿は忽然と見えなくなる。
数十分にわたる修羅場。武装した大人たちの勇気と必死の戦いで、何とかゾンビの群れを散らすことができた。しかし犠牲も大きかった。総勢十余名が倒れ、中には大翔の小さなリュックも泥にまみれ転がっていた。
生きて戻った母親は、自責と喪失感に呆然とするばかり。中にいた珠莉たち子どもも、涙を流しながらごめんね、と言い合うしかなかった。
ヒーローもシューターもいない、ただ「生き残ること」に必死な夜が続く。
誰もが、自分だけは大切な人を守れると思っていた。
暗いサービスエリアの休憩所。
冷たい静寂の中、珠莉は璃都の手を離さなかった。