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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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FORSAKENの最下層、古代の遺構を改修して作られた大浴場は、立ち上る白濁した湯気と、熱気に煽られた濃厚な薔薇の香りで満たされていた。
大理石の床は湯水に濡れて妖しく光り、中央に据えられた巨大な浴槽には、極上の薬湯がなみなみと湛えられている。
その熱気のなかで、古代吸血鬼ノスフェラトゥは、まさに自身の魂が消滅しかねないほどの窮地に立たされていた。
今夜の彼の任務は、スペクターの「湯浴み(ゆあみ)」の給仕。
つまり、主の入浴を至近距離で手伝うという、R-15指定のあまりにも過激なご褒美であり、同時に最凶の拷問であった。
「……ノスフェラトゥ。そこに突っ立っているだけでは、お湯が冷めてしまうよ」
湯船の縁に腕を預け、ゆったりと湯に浸かっている男――スペクターが、湯気の向こうから地を這うような極上の低音を響かせる。
いつも彼を象徴している赤いシルクハットや重厚な衣服はすべて外され、露わになったその肌は、熱い湯を吸ってほんのりと桜色に火照っていた。
濡れて額に張り付いた黒髪、そこから滴る水滴が、男らしくもしなやかな鎖骨のラインを伝い、湯面へと滑り落ちていく。
「く……っ、あ、あの方……っ」
ノスフェラトゥは顔を耳の裏まで真っ赤に沸騰させ、完全に目のやり場を失っていた。
熱気を含んだ薔薇の匂いと、目の前のあまりにも淫らで美しい主の肢体(したい)が、彼の脳内フィルターを一瞬で暴走させる。
喉元が見えない鎖でギリギリと締め付けられるような、強烈な従属の快感が全身の血液を沸騰させていく。
(馬鹿な……っ! 私はただ、あやつの背を流すだけの許可を貰ったのだ! なぜ、あやつの濡れた肌を見るだけで、このように私の身体が、蕩けるように熱く……っ!)
吸血鬼の頑強な肉体は、主からの過剰な「尊み」の供給と、浴場全体の熱気によって、急速にオーバーヒートを起こし始めていた。
視界が急速にチカチカと明滅を始め、赤い瞳がぐるぐると回り出す。
のぼせ上がった脳では、もう一歩の足幅を制御することすら叶わなかった。
「ほら、早くおいで。私の可愛い犬」
スペクターがさらに愉しげに目を細め、濡れた指先をノスフェラトゥへと差し向けた。
その、追撃の命令。
「あ、はぅ……っ、ス、スペクター……っ」
一歩、主の方へ近づこうと踏み出した瞬間だった。
湯水と石鹸でつるつるに滑る大理石の床が、ノスフェラトゥの自由を奪う。
「ひゃあっ!?」
派手な水音とともに、ノスフェラトゥは浴槽のフチで思い切り足を滑らせ、盛大にスライディングする形で、ドッパーーーン!!!と激しく床へ転倒した。
ただ転ぶだけならまだしも、その勢いのまま、はだけた自分の衣服が濡れた床に張り付き、身動きが取れなくなる。
口元からは興奮とのぼせによる謎の煙(魔力)が、プシューと虚しく吹き出していた。
「おやおや。随分と派手なご挨拶だね。大丈夫かい?」
クスクスと低い笑い声を響かせながら、スペクターが湯船からゆっくりと立ち上がった。
水滴を滴らせながら、一糸まとわぬ極上の肉体を晒して近づいてくる主。
その神々しいまでの肢体が至近距離まで迫り、ノスフェラトゥの精神は完全に消し飛んだ。
「ひ、ひゃあああーーーッ!! 見るな! 近づくな……っ、あやつの、あやつのお身体が、眩しすぎて……っ!」
「おねだりをしたのは君のほうだろう? ほら、手を貸してごらん」
スペクターは容赦なく、濡れた温かい手のひらで、床に転がっているノスフェラトゥの手首をグッと掴み、力強く引き上げた。
肌と肌が直接触れ合う強烈な熱。
その感触が引き金となり、ノスフェラトゥは「キャーーーッ!!」と、古代の王としては100%アウトな、どこに出しても恥ずかしい黄色い悲鳴をあげてスペクターの胸元へと自ら激突した。
濡れた衣服がスペクターの肌にぴたりと貼り付き、二人の荒い吐息が湯気の中に艶やかに響く。
顔を耳の裏まで真っ赤にし、涙目でハァハァと息を荒らげながら、主の胸に縋り付いて完全にフリーズする吸血鬼。
その時。
ガラララッ!! と、大浴場の重厚な扉が勢いよく開け放たれた。
「主様ーーー! 夜会の資材が届きまし――って、うわあああ!!! 混浴ラッキースケベ!!!」
バケツを持ったホスフォラスが、入り口で完全に目を点にして絶叫した。
お風呂場で、一糸まとわぬスペクターに抱きすくめられ、顔を真っ赤にして涙目で「キャーッ」と鳴いているノスフェラトゥの姿。
「あ」
「アズールーーーッ!! 超防水のカメラ持ってきて!! ノスフェラトゥがあまりの尊さにのぼせてお風呂の床で新種の海洋生物みたいになってる!! 早く!!」
「やめろォォォーーーッ!! 私は海洋生物ではない! 誇り高き古代の王だァァァーーーッ!!」
ノスフェラトゥの魂の絶叫が湯気の中に虚しく響き渡るなか、スペクターは彼を濡れた腕で抱き寄せ、クスクスと笑い続けるのだった。
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