「へ…?あ…はい。」
わざわざ電話かけてくるほどのことか、と思う内容につい気の抜けた返事をしてしまう。
『藤塚さん、明日遅番だよね。帰り方とか、慣れないうちは色々聞くかもしれないから、よろしくね。』
「あの…そんなの、明日会った時に言えばいいのでは?」
『ん?まあ、それでもよかったけど急に俺と出勤時間が被ったらびっくりするかと思ってね。』
店長らしい解答。私の中で、いつもの悪戯心が芽生えてくる。
「それだけですかー?本当は私の声が聞きたかっただけだったりして。」
『えぇ!?ち、違うよ!!決してそんなやましい気持ちは断じてな…いてっ!!』
受話器越から、鈍い音が聞こえる。恐らく机か何かにぶつけたのだろう。
あわてふためく姿が目に浮かんできて、思わずくす、と笑ってしまった。
そんなやり取りに、心はすっかり落ち着いていた。
こんな何気ない会話なのに。
「ふふ、冗談ですよ。了解しました。わざわざありがとうございます。では…また明日。」
「うん。失礼します。」
――プツン――
もう何も聞こえなくなった携帯。だけど耳には、あの暖かい声が残っている。
わからなかった。友達でも何でもない、ただの援交仲間に縁を切られてから心に現れたもやもやの正体も。
それが、店長とくだらないやり取りをしたら薄れた理由も
初めてのことだらけで何も分からない。だけど私にできることは1つだった。
「仕事…明日からまた頑張らなきゃ。」
私は、叩きつけられた小銭を広い集めながら空虚な空間に向かって呟いた。
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