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「あの・・・手伝います」
真紀が宗一郎に言う
「君は俺に構わず作業を続けて、あの『ファンタスティック色白』の動画広告も君が作ったんだろう?あと他の案件のグラフィックデザインも」
彼は緑の工具箱を開け、コードレスの電気ドリルを取り出した
「調べたんだけど、君は優秀なデザイン学校を卒業後、パリで有名なグラフィックデザイナーの元で修行しているよね」
彼は慣れた手つきで、ドリルの先を穴に差し込みながら言う
「ハイ」
「グラフィックデザイナーなのに、動画編集もやるのかい?」
「今はAIの進化に伴ってデジタルメディアが発達し、紙媒体アイテムの需要が減りつつあるのが現状です。なのでデザイナーといえども、イラスト制作、動画編集、音声編集など、何でも出来る人間が重宝がられます」
真紀は厳しい口調で言った
「へぇ・・・俺は数字しか扱えないから詳しくはないけど、地上波メディアよりも今はWebの広告動画が主流だもんな、神崎広告代理店のバカみたいな利益率に君が関係してるのはあきらかだな」
彼は眉を上げて訳知り顔で真紀を見る、思わず真紀の頬が赤くなる、そしてしばらく宗一郎はベビーベッドを組み立て、真紀は近くで無言でそれを眺めていた
「すごいですね、私そういうの苦手で・・・釘を打ったりドライバーを使ったり・・・」
宗一郎が不思議そうな顔をする
「苦手?それじゃ組み立て式の家具を買う時はどうするんだ?」
「そんなの組み立てられている家具を買うんですよ」
「それじゃ組み立て料金も取られるじゃないか」
「・・・考えたことないです・・・」
その時、ふっと宗一郎がまたハッキリ笑ってメガネを外した、途端に真紀は胸がキュンッとした
―おどろいた・・・『氷の財務部長』は笑うとこんな顔になるの?それに眼鏡を外すと幼い顔になるわ―
.。 .:・.。. .。.:・
「それじゃ高くつくじゃないか、その子がドリルの音で泣いたらあやしてくれ」
不思議な事に、麗華はまったく泣き声をあげず、目を覚ましても宗一郎がベビーベッドを組み立てる様子を満足そうに見つめていた
彼は床に座り込み、いかにも家具を組み立てる経験豊富そうな見事な手際で、ベビーベッドを組み立てていった、その手つきは鮮やかで自信に満ちていた
彼がシャツの袖を肘までまくり、毛に覆われた筋肉質な前腕をむき出しにした時は思わず真紀はドキッとした、それから真紀は麗華を抱っこして彼の傍に座り、ネジを渡す役を買って出た
時折、彼の体がこちらに近づくと男性の汗と清潔なシャツの匂いがした、大きくて広い肩幅・・・短く刈り上げられたうなじ・・・どういう訳かそれを見ていると逆毛にそって撫でたら気持ちが良いだろうと思った
彼は何度かネジ山がすり減って打ち損じた時に「 くそっ」とか「くたばれ」とか悪態をついた、その乱暴な言葉に真紀は麗華を抱えたままビクッとしたが、すぐに気まずい顔で彼は「すまない、口が悪いんだ」と真紀に無礼を詫びた
なぜかそれがおかしくて真紀はクスクス笑った、「氷の財務部長」と恐れられている人を笑っている自分が信じられない
彼の声も素敵だった、ゆったりとしたバリトンが、体の内側に入り込み何だか安心した気持ちにさせられる、彼のように昔ながらの男らしさを兼ね備えた男性は、真紀の目には新鮮に映った
元夫は真紀がパリで有名なグラフィックデザイナーの元で一緒に修行していた時に知り合った、自分のアイデンティティや自分の居場所を探してる青年アーティストだった
めあ
43
2,001
#ネタバレ注意
るあ
2,673
#イケメン
蒼乃 月
828
彼はメイクをしたり、真紀の服も平気で着れるような細身の青年で、よく「自分の居場所がわからない」と泣くような人だった、その度真紀は自分が彼の居場所になればいいなと心から尽くしたが、真紀が妊娠八か月の時に「自分はゲイだと分かった」と言って真紀と離婚した
今、真紀の目の前にいる大柄なこの男性は、男性ホルモン旺盛で、むしろ男性ホルモンしかないであろう、遥か昔、クロマニヨン人が棍棒を振り回していた時代から、きっと彼は男の中の男なのだろう
『氷の男』と呼ばれているこの無口な財務部長は、同じ男性でも元夫とまったくの別の生き物のように見えた
この人がインスタに今日のコーディネイトファッションを投稿したりとか、自分は何者なんだろうかと泣きながら悩んでいる所とか、この化粧品が自分の肌に合うかどうか気にする所とか、一切想像できなかった、なので真紀は聞いてみたくなった
「あの・・・シャンプー何使っています?」
突飛な真紀の質問に、彼は枠につっかえ棒をはめ込みながら答えた
「牛乳石鹸一択だ!あれが一番良い!」
彼はL字型の金具をドリルを使って大きな音を立てて枠に取り付けた
「髪も石鹸で洗うんですか?」
「男だからな」
あまりにも想像していた通りの答えで、思わず笑った、彼は反対側の枠にも金具を取り付けて笑う真紀をじっと見てから言った
「俺からも、聞いていいか?」
「ハイ」
「君はシングルマザーだろ?」
「ハイ」
真紀は笑顔で答えた
「子供を産んで一人で育てることを後悔したことはあるか?」
あまりにも意表をついた質問に真紀は驚いた、暫くその言葉の意味を考える
大きなおなかを抱えてパリ留学から帰って来た真紀を見て、母はショックで泣き崩れた、ずっと折り合いが悪かった儘父からは「高い留学費用を出してやったのに、子供を作ることしか学んでこなかった」と蔑まれた
あれから母とは絶縁状態だ、しかし真紀はハッキリ答えた
「いいえ、この子を産んで一度も後悔したことなんてありません」
二人に重苦しい沈黙が漂った、ただの強がりに思われただろうか?でもこれだけは真紀の真実だった
麗華を産んだ事は絶対に後悔していない、やがて宗一郎がぼそりと小さくつぶやいた
「俺の母親は、俺を産んだ事を後悔して死んでいった・・・」
.。 .:・.。.
コメント
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ああ、第24話読み終わりました!「牛乳石鹸一択」の回答に笑ってしまいました。真紀の元夫との対比が鮮やかで、ああ、この二人は確かに違う世界の住人なんだなと。でも最後の宗一郎の「俺の母親は、俺を産んだ事を後悔して死んでいった」…あの一言で空気が一変しましたね。真紀の「後悔したことない」という強さと対照的で、この人の過去が気になります。