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毒の種族だと勘付かれるのを恐れたリィラは話を変える。
「あの、私、王様と王妃様にもご挨拶したいのですが……今どちらに?」
リィラはセンティの結婚相手なのだから当然、両親にも会うべきだろう。そんな普通の感覚で言っただけだった。
だがレンティは言い辛そうにして表情を曇らせた。
「両親は亡くなりましたわ。今は実質センティお兄様がアディール国の王権を持っていますわ」
「え!? そう……なんですか!?」
「あら。お兄様ったら、結婚相手に何もお話していませんの?」
センティは王子ではなく王だった。しかし実質という事は正式に王位に就いてはいない。
しかし本物のセンティは魔物のゼンティに食われて死んでいる。本当ならレンティが女王として王位を継ぐのだろう。
だがレンティはまだ17歳。アディール国で王位を継げる年齢は、成人する18歳からだった。
(もしかしてゼンティ、このタイミングで……?)
センティ王子は20歳。そしてリィラを妃として迎える。ゼンティはこのタイミングで王位と王妃の両方を手に入れようとしている。
そして、さらにレンティの命までも……。全ては時期を狙って実行しているように思える。
そんな憶測を立てていると、メイドが部屋に入ってきてテーブルの上にショートケーキが乗った皿を置いた。同時にナイフとフォークも。
「どうぞお召し上がりになって。甘いものはお好きかしら」
「はい、いただきます」
ケーキを食べるならフォークだけでもいいのに、ナイフも使うとは、王族は格が違うとリィラは再び緊張する。
しかも今はまだ午前中で、ケーキを食べる時間には相応しくない気もするが、王女の振る舞いを拒む事なんてできない。
リィラは右手でナイフを持つ。ナイフの背に人差し指を添えようとした瞬間に走った痛みに顔を歪めた。
「痛っ……!」
瞬時にリィラはナイフをテーブルに落としてしまった。よく見ると、そのナイフは両刃だった。ケーキ用のナイフで両刃はありえない。
リィラの右手の人差し指の切り傷から血が滲んでくるが、慌ててそれを左手で包んで隠す。リィラの血は毒の紫色だからだ。
「あら、大丈夫ですの? 傷口をお見せくださいませ」
全く動じずにレンティはリィラの傷を確認しようとする。このナイフでリィラを傷付けたのは意図的だと分かる。
毒の種族だと知られれば確実に忌み嫌われ迫害を受ける。リィラは指を隠しながら身を引いて椅子ごと後ろへ下がる。
その時、ふとレンティの席の後方に立つアレンと目が合った。アレンは顎を前方に動かしてリィラに何かを伝えている。
(アレンさん、ありがとう)
リィラは席を立つと、そのまま急ぎ足で部屋を出て行った。
レンティは無表情のまま席を立ち、ゆっくりと歩き出そうとするが……その身体を背後からアレンが抱きしめた。
それはレンティを引き止める目的の行為ではなく、愛しく包み込むような抱擁だった。
「……レンティ様。どうやらリィラ様はご体調が優れないようです」
「それは悪い事をしましたわね」
レンティが素直に謝るとアレンの腕から解放された。レンティはアレンの方を向いて彼のブラウンの瞳を見上げる。
アレンはレンティの気を逸らそうとして、別の話題をもちかける。
「毒に過敏になるお気持ちは分かります。センティ様の名を使い、ポワゾンを焼き払うご命令を下したのはレンティ様ですよね?」
「……さすがアレンですわね。死んだ人の評判なんて落ちても構わないでしょうから」
これがアレンだけが知るレンティの本性であった。センティの死を隠蔽し、センティの名と権利を利用して、リィラの故郷であるポワゾンを焼き払った。
……だが実際はセンティは生きていた。ゼンティという魔物に成り果てて。
「なぜポワゾンを焼き払ったのですか?」
「あら、随分と探りを入れますのね。そんなに私が気になりますの?」
「はい。オレはレンティ様の忠実な執事ですから」
レンティは妖艶に微笑むと、今度は自らがアレンの逞しい胸に身体を寄せる。
「そうね……キスしてくれたら教えてさしあげますわ」
「仰せのままに」
レンティが少し背伸びをしたのを合図に、アレンは慣れた動作でレンティに唇を重ねて再び抱きしめる。
アレンはレンティの想いを知っている。だからこそ、それを利用する。
魔物に成り果てたのは王子センティだけではない。近衛兵アレンは、今では獣魔王ゼンティの忠実な下僕であった。
コメント
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みぅです🥀🤍 第15話、読みました。 リィラ、ケーキのナイフで指を切っちゃうシーン、すごくドキドキしました…。 毒の血がバレそうになる瞬間、あの緊張感がたまらなかったです。 それにしてもレンティ王女、ただの優しいお姫様じゃないんですね… アレンとのあの抱擁、ちょっと背筋が冷たくなりました。 リィラの故郷を焼いたのもレンティの命令だったっていうのが、ほんとに重くて。 でも、そういう「闇」をちゃんと描ける桜咲さん、すごいなって思います。 次も読ませてください🌙
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