テラーノベル
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仁人がいなくなったあとも、四人はしばらくその場から動けなかった。 夕暮れの道に、仁人の足音だけが遠ざかっていく。
「……追わなくてええんか?」
太智が小さく尋ねた。
勇斗は首を横に振った。
「今日は、もういい」
「でも……」
「これ以上追ったら、本当に壊れる気がする」
その言葉に、誰も反論できなかった。仁人 は明らかに苦しんでいた。 自分たちを見て、逃げて。 追いかければ、泣いて。 それでも「知らない人」だと言い続ける。
どう考えても、何かがおかしい。
「……俺たち、何かしたのかな」
柔太朗が呟いた。
「前世で」
その言葉に、四人の間に沈黙が落ちた。 誰も、その可能性を考えたくなかった。 けれど 考えないわけにもいかなかった。
「俺たちの記憶って、全部戻ってるんかな」
舜太が言った。
「どういう意味?」
「俺たちは五人で過ごしたことを覚えとる。でも……最後の日のことは、誰もちゃんと思い出せてへん」
勇斗は顔を上げる。 確かにそうだった。 前世の記憶は、ところどころ曖昧だ。
五人で笑ったこと。 一緒に過ごした時間。 くだらない喧嘩。 仲直り。 全部覚えている。 なのに。
最後だけが、ぽっかりと抜け落ちている。
「…仁人は覚えてるんかな」
太智が呟いた。 誰も答えなかった。
*
翌日、 四人は、いつも通り学校にいた。 けれど、誰も授業に集中できていなかった。
「ねえ」
柔太朗が机に突っ伏したまま言う。
「仁人って、昔からあんな感じだったっけ」
「……あんな感じ?」
「自分のこと、全部一人で抱える感じ」
勇斗が少し考える。
「……そうだったかも」
前世の仁人は、いつも笑っていた。 誰かが悩んでいれば話を聞いて。 喧嘩をすれば間に入って。 自分が辛くても、それを誰にも言わなかった。
「でも、俺たちには言ってくれてた」
勇斗が言う。
「少なくとも、前は」
その言葉が、胸に刺さった。 だったら今の仁人は、なぜ自分たちに何も言わないのだろう。
昼休み、 太智はスマートフォンを見ながら呟いた。
「仁人の学校、今日も授業あるみたいやけど」
「……行く?」
「行く」
即答したのは勇斗だった。
「でも、追いかけない」
「うん」
「話しかけもしない」
「え?」
柔太朗が驚く。
「じゃあ何するんだよ」
「ただ、会いに行く」
勇斗は笑った。
「仁人が逃げても、俺たちは何もしない」
「……それでいいの?」
「うん」
四人は、仁人の学校へ向かった。
昨日と同じ場所。 けれど、今日は追わなかった。 校門の近くに立っているだけ。
しばらくして、仁人が出てきた。 四人に気づく。 足が止まる。 けれど、昨日のようには逃げなかった。 少し離れた場所から、四人を見ている。 勇斗も、何も言わなかった。
ただ笑った。 仁人の目が揺れる。
そして――
ほんの一瞬。仁人 も笑った。 ほんの一瞬だけ。 すぐに顔を逸らして、歩き出す。 四人は追わなかった。
「……笑った」
柔太朗が呟いた。
「うん」
太智も笑う。
「昔と同じだったね」
その言葉を、少し離れたところで聞いていた仁人は、足を止めた。 胸が苦しい。 嬉しい。 嬉しくて仕方がない。 本当は戻りたい。 四人のところへ。 今すぐ走っていって、
「ただいま」
と言いたい。 でも。 その一歩を踏み出すことができない。 仁人は鞄の中から、一枚の古い紙を取り出した。 今世のものではない。 前世の最後の日に、自分が書いたものだった。 紙には、短い言葉が一つだけ残されている。
――もう、会わない。
何度も読み返した言葉。 何度も自分に言い聞かせた言葉。仁人 はそれを握りしめた。
「……ごめん」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からなかった。
その夜、 四人は、昔の記憶を整理するために集まっていた。
写真。 場所。 覚えている出来事。 四人がそれぞれ話している中で、勇斗が一枚の写真を取り出した。
「これ……」
そこには、五人が写っていた。 全員が笑っている。仁人 も笑っている。
でも。
「……これ、どこで撮った?」
誰も答えられなかった。
「分からない」
「俺も」
「……」
勇斗は写真の裏側を見た。 そこには、前世の仁人の字で一言だけ書かれていた。
『最後の日』
四人の表情が凍った。 その瞬間。 誰も思い出せなかった記憶の奥で何かが、静かに動き始めた。
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コメント
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読んだわ、第6話…めっちゃ刺さった。 「追いかけたら壊れる」って勇斗の判断、仁人の苦しみをちゃんと感じ取ってて泣ける。それでいて追わずに、ただ笑って待つ四人の姿がもう…温かいのに切ない。 仁人も一瞬笑ったのが救いだけど、「最後の日」って写真の裏の文字と「もう、会わない」って紙が重すぎる。前世で何があったんだろ…次話が待ちきれないよ🔥