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階下の喧騒から隔離された3階の会議室、久我警視正は向かって右側、階段側の部屋のドアを開けた。茶色い会議用の長机にパイプ椅子が6脚並んでいる。アルミの窓枠は薄汚れ、いつ換気したのだろうと思う程に空気が澱んでいた。

パイプ椅子が軋む。

久我は窓を背に座ると聴き取り用の手帳をスーツの内ポケットから取り出し、机の上で手を組んで《《来客》》を待った。コンコンコンと3回ドアがノックされ、ギイと鈍い音を立てて白いスーツの男性とグレーのヨレヨレの制服を着た年配男性が入って来た。



「どうぞ。」



久我が促すと、2人はギシギシとパイプ椅子に座った。白いスーツに色眼鏡を掛けた角刈りの男性が名刺を取り出した。ゴツゴツとした指、毛深い。



「この度はお世話になります。北陸交通次長の佐々木、と申します」



手にはノートパソコンを持ち、机の上で開き起動させて一つのフォルダを開いた。



「これが昨夜の124号車のSDカードに録音、録画された内容です」

「はい。」

「あと、これが本社配車センターから指示した124号車の迎車履歴」



銀色のクリップで留めたA4版コピー用紙を数枚提示して来た。



「ありがとうございます。助かります」

「いえ、当然の事をしたまでです」



その間、グレーの制服を着た男性は膝の上で握り拳を作ったまま、下を向いて微動だにしなかった。久我はそのA4版の資料をペラペラと捲りながら、2人の表情を見比べた。白いスーツの佐々木という男性は前のめりで(さぁ、今から何が始まるのか。)と意気込んでいるが、ドライバーは萎縮してしまって青ざめている。



「お名前は?」

「あ、あの」



ドライバーが言い淀むと佐々木がすかさず横から、その男性の名前を口にした。これでは意味が無い。



「佐々木、次長」

「はい!」

「申し訳ありませんが、席を外して頂けますか?」

「え?」

「私は《《この方》》のお話を伺いたい」

「はぁ」

「このパソコンはお貸し頂けますか?」

「はぁ」

「因みに、こちらの124号車のSDカードは署に提出済みですか?」

「勿論です」

「それではご退席下さい」



すると、色眼鏡、白いスーツに紺色のシャツ、臙脂色に緑のドット柄といった実に趣味の悪い出立ちの佐々木次長と名乗る男性は急に不機嫌な顔になり、不平不満を全身で表現するかの様にパイプ椅子を長机に押し込み、ドアを力の限りで閉めて出て行った。



「あの方は何時もあの様な態度を取られるのですか?」

「はぁ、まぁ」



小煩い上司が居なくなった途端にドライバーの表情が幾分か和らぎ、逆光の中の久我を眩しく、目を細めて見た。



「昨夜の出来事を憶えている限りで結構ですから教えて下さい」

「は、はい」

「また被害者の太田さんの事で何かご存知の事があればそれもお聴きしたいのですが、ご協力いただけますか?」

「はい」




久我は白紙の手帳に目を落とすとボールペンを左手に握った。




「あなたのお名前と年齢、乗車されていたタクシーの番号を教えて下さい」

「き、|北 重忠《きたしげただ》65歳、124号車」

「ありがとうございます」

「昨夜23:00から25:00までの行動を教えて下さい」

「は、はい」



124号車

23:00 片町ホテル待機場 空車

23:15 配車センターから配車指示

片町オーロラビル→金沢駅 実車

23:30 金沢駅 精算降車 空車

23:35 金沢駅タクシープール 待機 空車

23:45 金沢駅→加賀温泉駅 実車

24:59 加賀温泉駅ロータリー 精算降車 空車

加賀温泉駅ロータリー 車内休憩 空車

25:24 加賀温泉駅ロータリー 緊急無線受信 回送

25:54 川北大橋到着 回送



124号車ドライバー北重忠の証言内容は、SDカードの録音録画記録内容、配車センターの配車指示、GPS追跡情報、北自身が記入した他人には判別が難しい殴り書きの運行管理表の内容とほぼ合致し、特に不審な点は見受けられなかった。また、北は物腰が柔らかく常に微笑みを絶やさない久我に対して実に有意義な情報を提供してくれた。




「ありがとうございました、お帰りになられても結構です」

「はい。はい」

「ご苦労様でした」

「は。」




○24:23

小松大橋付近にて加賀市方面へ走行中の106号車を目視、

その後、加賀市加茂交差点にてUターンし牛丼屋の駐車場に進入。


○25:54

緊急無線にて川北大橋着、

106号車を確認、ドライバー西村裕人の行動に違和感。


○106号車ドライバー西村裕人は、

加賀市山代温泉のデリバリーヘルス(源氏名・金魚)店員の送迎を行なっていた。


○106号車ドライバー西村裕人は、

112号車ドライバー(被害者)太田和彦と同期入社だが度々衝突していた。


○112号車ドライバー(被害者)太田和彦は金魚の名刺を持っている。



久我は佐々木次長から提供されたパソコンのマウスをクリックし、24:23から数十分間、124号車のドライブレコーダーが捉えた106号車の動向を確認した。



ここで幾つかのキーワードが浮上した。

加賀市

加賀市加茂交差点牛丼店

加賀市山代温泉デリバリーヘルス

金魚

106号車ドライバー西村裕人

後は、竹村警部の聴き取り結果と照合するだけだ。

金魚のため息 肉体関係に溺れた男の悲劇と末路

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