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夢花𓂃𓂂ꕤ*.゚
いらっしゃいまし。
薬舗、安楽堂でございます。
あなたの症状に合わせたお薬、処方いたします。
さて、本日のお客様は………。
「ツイてない日」というのはよくある。
不幸と言うには大げさだが、今日は朝から散々だった。
朝はアラームをかけ忘れたために寝坊しかけるし、昼間は久々に恋人と一緒の仕事だったというのに殆ど会話もできなかった。たまにはと買ってみた炭酸飲料はプルタブを開けた瞬間勢いよく中身が爆発した挙句、今日最後の雑誌撮影の仕事は機材トラブルで二時間押した。
土曜日だからなのかタクシーは全然捕まらない上に、人が多くて電波も繋がりづらく、スマホのナビは全く役に立たない。
仕方なく見覚えのない道を歩いているが、方位磁針のアイコンはずっと一本線の上をグルグルと回ったままだ。
難しいことは一切省いて状況をシンプルに整理するならば、つまりは道に迷ったのだ。
「はぁ…、もう…なんなの…」
嘆くように呟きながらトボトボと歩いていると、俺の気持ちを置いてけぼりにしていた喧騒がいつの間にかぱったりと消えていることに気が付いた。
「え…?」
賑やかな歓楽街を歩いていたはずだった。
しかし辺りを見回してみても、ここには一軒の平家以外には何も無い。
その屋根には、「明治十年創業 薬舗 安楽堂」と書かれたサビだらけの看板が取り付けられていた。
「薬…舗?薬屋さんってこと?こんな遅い時間なのに電気ついてる…まだ営業してるのかな…?」
店員さんに道を聞いてみるか?
迷惑だろうとは思うが、今は他に頼れるものもなく、恐る恐る引き戸を開けて中に入った。
「あのー…すいません…道に迷ってしまって…」
戸口近くから控えめに声を上げてみたが、返事はなかった。
店内には薬の瓶や箱が所狭しと並んでいるが、薄暗い照明のせいか、それは俺の目に不気味に映った。
怯む心をどうにか宥めて奥へと進んでいくと、燻んだ赤紫色の着物を着たお婆さんがカウンターの向こうで静かに座っているのが見えた。
そばへ近寄りながら帰り道を尋ねると、彼女は二拍ほど置いてから小さな紙箱を俺の前にスッと差し出した。
「あなたには、こちらでしょうかね」
「…ぇ?はい?あの…帰り道が知りたいんですが…」
「お代は頂戴いたしません」
「あ、ぃや、買うも何も、薬はいらないんです…」
「あなたのお困りごとに合わせてお出ししております」
「あの…ですから…確かに困ってはいますが道に迷ってるだけで…。気持ちは嬉しいんですが、なんの薬かもわかんないのに…貰えません…」
「説明書きをお読みになって?」
「…ぇぇ……」
…ダメだ。話が全く通じない。
物腰の柔らかさが、かえって恐ろしく感じられた。
この薬を受け取らなければ絶対に祟られるぞと予感して、すかさずその小箱を手に取り、急ぎ足で薬局を後にした。
引き戸を開けて外へ飛び出ると、目の前には居酒屋が立ち並ぶ飲み屋街が広がっていた。
大学生くらいの青年たちが、歩道を挟んだ向かいの店でビールジョッキを片手にどんちゃん騒ぎに明け暮れている。
後ろを振り返ってみるも「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた通用口があるだけで、あのボロボロの平家はもうどこにも見当たらなかった。
「ただいまー」
あの薬局はなんだったんだろうと、不思議な体験にどうにか説明をつけるべくあらゆる考察を立てているうちに、いつの間にか自宅まで到着していた。リビングのドアを開けて中に入ると、だらりとソファーに寝転がりながらゲームに勤しむ恋人の真っ白い腕が目に入った。
「おー、おかえりー。お疲れ、遅かったね」
「ぁ、うん、ごめん。撮影押しちゃって…」
「全然。そゆときもあるっしょ」
「うん…」
自分の身に何が起こっていたのだろう。
考えれば考えるほどわからなくなるばかりだった。
戸棚に並んでいた幾つもの薬のラベルが、脳裏にまだしっかりとこびりついていた。
「ーーる、ひかるー?」
「っ、ぁ、ごめ…、なに?」
「どうした?もう遅いし、風呂入ってこいよ」
「う、うん、そうする…」
ふっかに話すほどのことでもないかと、先程までの委細については自分の中だけに留めておくことにした。
寝室に部屋着を取りに寄りつつ羽織っていた上着から袖を引き抜いていると、あの箱がポケットからこぼれ出て、コツンと音を立て床に落ちた。
「ひっ…」
うっすらとした笑みを湛えたお婆さんに追いかけられているような感覚になって、背筋がぶるっと震えた。
「あぁっ!もう!早くお風呂入ろ…」
「今日」が終わりに差し掛かっている。
給湯器の電子盤に23:56の文字が刻まれているのを見つけては、深いため息が体の奥底から飛び出して行った。
これが今日最後のアンラッキーであってくれと願いながらシャワーのつまみを絞り、体に付いた水滴をある程度のところまで拭き取ってから、しっかりと袖に腕を通せていないままリビングへと駆け込んだ。
ーーが、しかし…。
「お、おかえりー。明日も早いし、もう寝ようぜー」
「……うん………」
スタスタと寝室へ向かっていくふっかの背中に、ちまちまとした足取りで着いて行った。二人で一つのベッドに入ると、そいつは首まですっぽりと薄めの毛布を被り、俺に背中を向けて暗闇の中でスマホゲームに白熱し始めた。
何の他意もない、ふっかのその「日常」がたまらなく寒かった。
今日の空白を埋めたくて、凍えそうな体を温めたくて、その薄い体を後ろから抱き締めた。
「どしたー?」
「…ゲーム楽しい?」
「うんー」
「…そっか…」
「俺とゲームと、どっちが好きなんだ」なんて聞きたくなるが、どうせ、いつものように生返事しか返ってきまい。
以前はこうして二人寄り添っているだけで、悶えずにはいられない程の幸せをお互いに噛み締め合うことができていたはずなのに。
たくさんの時間を二人で過ごしたい、どんな時もふっかのために努力していたい。
いつだって俺にドキドキしていて欲しいし、俺もふっかにドキドキしていたい。
ふっかを幸せにしたい、喜ばせたい。
気持ちは常に前に出して伝え続けていたいし、何よりもそうーー。
輝いていたいのだ。
ふっかを愛していると実感できる。
ふっかに愛されていると実感できる。
それだけで、俺はなんだってできるような気がしてくる。
だから、ふっかが喜んでくれることや笑顔になってくれることは全部したいのだ。
ところが最近はずっとこの調子であるので、ふっかが俺と、この関係と、この生活らに何を求めているのかが全く分からないのだ。
今だって、こいつは数時間ぶりに会えた俺のことなどそっちのけでゲームに熱を上げている。
趣味を取り上げるつもりは毛頭ないが、これでは何故一緒に住んでいるのか分からなくなってくる。
心の中に立ち込める霧が晴れないままふっかの腹に回した腕に力を込めると、「…照、苦しい」と小さな声が聞こえてくる。
遠慮がちにした「構ってアピール」はなんの成果も無かったどころか、数分後には規則正しい寝息が聞こえてくるという始末に天を仰いだ。
これが最後のアンラッキーか…。
それが頭の中に浮かんだ最後の言葉だった。
力の入らない体をなんとか起き上がらせて、ヨタヨタと、時折壁にぶつかりながらリビングの方へ歩いて行った。
コップに水を注ぎ、一気に飲み干す。
「…ん、はぁっ…、…」
寂しい。虚しい。
どうしたら、俺の愛はお前に全部届く?
もどかしくてたまらない。おかしくなりそう。
ふっかは何を望んでる?俺に何を求めてる?
俺にできることはもう何も無いのか…?
床に腰を下ろし、ソファーの座面に凭れる。
毛足の長いカーペットを撫ぜて、ぼーっとその感触を掌で感じていると、何かが手にぶつかった。
「…ん?…ぁ…」
暗闇の中で触れたものは、帰りがけに意図せず手に入れたあの小さな紙箱だった。
すっかり目が覚めてしまったので、せっかくならどんなものなのか暇潰しに見てみようと思い立った。
明かりを点けて良好になった視界の中で、もう一度あの薬に向き直る。
片手に収まるくらいのそれは、白地の台紙に黄色い文字で「ホワイトビジョン 15mL」と書かれてあった。
中にはどこにでもあるような目薬のボトルと、説明書が入っていた。
あのお婆さんは、俺がドライアイとでも思ったのだろうか。
あれほど強引なまでに薬を渡された理由は未だに不明だが、これを読めば彼女の真意が少しくらいは分かるかもしれない。
裏も表もびっしりと細かい文字で埋め尽くされたその文章を、上から順に読んでいった。
~ホワイトビジョン 15mL~
【効能】
1)点眼後、他人の「希望」が見えるようになります。
2)本医薬品が定義する「希望」には様々な種類があります。下記【希望一覧】をご参照ください。
3)効果は約8時間持続します。
【用法・容量】
1)一日三回を目安に点眼ください。
3)一度の点眼量は一滴を限度とし、8時間の間隔を空けてください。
【成分】
ネガプロキシン配合。視神経に働きかけ、視力の増強を促します。(当社独自開発、臨床試験済)
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「なにこれ…絶対嘘じゃん…」
一行目から、もう何を言っているのか全くわからない。やはり、おかしなものを掴まされたようだ。
「当社独自開発」の語感が恐ろしいことこの上ないし、これ程信用できない「臨床試験済」の五文字に出会ったのは初めてだ。こんな素っ頓狂な薬に自分の体を差し出した奴がいたことに驚きである。
ここまで怪しいと逆に興味が湧いてくる。こうなったら最後まで読んで「くだらない」と一蹴してやろう。
意地の悪い気持ちで、まだまだ続いている長ったらしい説明文に目を通していった。
【希望一覧】
・幸せ、満足:花
・楽しい :音符
・大切 :四葉
・嬉しい :紙吹雪
・好き、愛情:ハート
・感謝 :風船
・安らぎ :ぬいぐるみ
・興味 :金平糖
・尊敬 :リボン
・信頼 :宝石
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「…絵文字じゃないんだからさ…。…ん…?」
【「絵文字かよ…」と思ったそこのあなたへ!】
平坦な日常会話にビクッとしたことはありませんか?(職場の上司又は、そこまで仲が良くない知人とのやり取りを除く)
「相手はどんな気持ちなんだろう?」「喜んでくれてるのかな?」「気を悪くさせてないかな?」なんて些細なことを気に病んでは、眠れない夜を過ごしていませんか?
そんなあなたにこそ使ってほしいのが、本製品です。
会話だけでは見えない感情を、その瞳に映してみませんか?一度使えばお分かりいただけるハズです。
さぁ、~ホワイトビジョン 15mL~で円満な人間関係を!
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「…なに、この絶妙にムカつくメッセージ」
そう強がってはみたものの、「ぎくっ…」と図星を突かれた心地でもあった。
現に俺は今、あいつと愛情を確かめ合えなかったことにショックを受け、眠れないでいる。
ふっかの気持ちとか、望んでることとかが、もしホントにわかったら…。
「ちょっとだけ使ってみようかな…」
俺の生きる理由はただ一つだけ。
ふっかを喜ばせること、幸せにすること。それだけだ。
この使命を果たせるのなら、暗い洞窟から脱出するためのヒントがもらえるのなら…。
この薬を作った奴の思惑にまんまとハマっているような気がして癪だが、使おうかどうしようかと考え続けている方がもっと気持ちが悪い。
都合の良い言い訳を並べ立て、小さなボトルをショルダーバッグのポケットに差し込んでから寝室へ戻った。
雨の音で目を覚まし、むくりと起き上がる。
サイドボードの上で静かにコチ…コチ…と音を立てる時計の針は、五時三十二分を指していた。
二度寝もできそうにはなかったのでベッドから抜け出し、ひとまず顔を洗った。
朝の支度を一通り終えたところで、およそ三十分くらいが経過していた。
小さなボトルを鞄から抜き取り両目に一滴ずつ雫を垂らしてみたが、特に爽快感も眼球が潤ったような感覚も無かった。
家を出る時間が近付いていた。ふっかを起こしに行こうと立ち上がると同時に、寝室から「ひかるー?おきてるー?」と、眠気を残すまろやかな声が聞こえてきた。
「おはよ」
「んぅ、、はよ…ふぁぁぁ…」
「今六時、あと一時間くらいあるからゆっくり支度してきな?」
ベッド脇に腰掛けて、くしくしと目を擦るふっかの頭を撫でながら頬に口付けると、そいつが「んー…」と声を出すのと同時に、その頭の上から色とりどりの花がポンッ!ポポンッ!と突然に咲いていった。
「……ん?」
なんだこれ…?と思うままにその花に触れようとした右手は空を切った。
もしかして、これが希望ってやつ…?
もう一度ふっかの頭上を掠めてみたが、やはりそれを掴むことはできなかった。目には見えるが、物質として出現しているわけではなさそうだ。
行き場を失った手を誤魔化すようにふっかの頭の上に置いて二、三度往復させるようにゆっくりと撫でると、大量の紙吹雪がそいつの周りを舞った。
ふっかの身支度が整うのを待っている間に、説明書をもう一度読み返した。
あのマークにどんな意味があったのか、昨夜に一度読んだだけでは覚えきれていなかったのだ。
「花は幸せと満足、紙吹雪は嬉しい…か…」
自分がふっかに何をしていたかを振り返ってみると、なんとも言えない嬉しさが体の中に湧き起こった。
と、同時に胸が焦げつくような感覚もした。
「…ちゃんと嬉しいんじゃん…」
俺ばかりが好きで好きで仕方がなかったわけではなかったようだ。
だからこそ、あいつの落ち着き切った普段の態度を思い出していくと、余計に疑問と不満が込み上げてきて自然と頬が膨れた。
もっと見せてくれたっていいじゃんっ!
なんて思ったが、直接伝えたところでふっかは何も知らないのだから、困惑させるだけだろう。
ふっかの前ではいつでも正直でいたいが、話がややこしいので薬については折りを見て話すことにした。
MV撮影の休憩中にもうすぐ八時間が経つことに気付き、もう一度目薬を差した。
キャップを閉めてボトルを鞄の中へ仕舞い込み、ふっかの方へ向き直った。
せっかくなら色々と試してみたかった。
こいつはどんな時に幸せを感じるのか。
俺と一緒にいる時、何を思うのか。
徐にその手を握ってみると、ふっかはきょとんと目を丸くして俺を見つめた。
その頭上からは、いくつもの宝石が吹き出していた。
ーー信頼、か。仕事中だからかな?
「今日もがんばろ、ずっとそばにいるよ」
そう伝えるとふっかは不思議そうに首を傾げてから、眉尻を下げて笑った。
「いちいち言わなくたって、ちゃんとわかってるよ」
その言葉は、心の中に黒とも白ともつかない濁った色の渦を作った。
今日の仕事を全て終えて、ふっかと一緒に帰宅した。
一日中ふっかを観察していたが、その頭上にはいくつかのマークが始終浮かんでいた。
音符、四葉、風船、ぬいぐるみ。
それぞれの意味は、
楽しい、大切、感謝、安らぎ、だそうだ。
そう思ってくれていて、本当に嬉しかった。
言葉にこそ出してはくれないが、あいつの頭の上はかなり賑やかだった。普段はあんなにやかましいというのに、肝心なときにはその口は途端に大人しくなってしまう。そこが可愛くもあるのだが、やはり目で見ることができるとホッとする。
昨日とは打って変わり、今はこの薬に出会えた幸運に心の底から感謝していた。
今の俺なら、しっかりと自信を持って言える。
ふっかを幸せにできているとーー。
「ッょ!っぁ”ッ!?…ぁー…ゲームオーバー…」
先程から音符と金平糖の雨を降らせていたふっかは、強制的に終わりを迎えて真っ暗になったテレビ画面から目を離した。その隙にコントローラーをひったくり、ソファーにぐったりと横たわらせている体を抱き上げて膝の上に乗せた。
すぐ近くで触れられるこの距離が、何よりも愛おしかった。
「ひかる…っ、ちょっと…っ、、」
「んふ、なに?」
真っ白いその肌が、ゆっくりと染まっていく。
その色が移ったのだろうか、こいつの頭の上からは大きくて真っ赤なハートが一つ、ぽこっと飛び出してきた。
ーー好き、愛情…ね。
「ふっか、こっち見て?」
「な…、ぁ、、ぅ…」
素直に俺の目を見つめてくれるのがたまらない。
お返しに、昂る熱を瞳に込めて見つめ返せば、それはどんどんと水気を帯びていく。
連動するように、頭の上からはたくさんのハートがとめどなく溢れ続けていた。
じわじわ。
きらきら。
ぽこぽこ。
視覚から認識できるふっかの全てが、俺を求めてくれていると分かる。
この上ない幸せが、この身を襲っている。
久しく感じられていなかった温かさを噛み締めながら、ゆっくりと距離を詰め、口付けた。
何度も角度を変えて、鼻を擦り付けるようにしてくっついて、深く深く絡めた。
息継ぎをする僅かな空白さえ惜しい。
逃げ回る舌を無我夢中で追いかけ捕まえると、甘い吐息が口内を撫ぜた。
「ぁ、っふ…ひか、ぅ…、ま、、っへ…っ!」
「やだ、…ん…っふ、」
「んんぅっ!や、、っ、…ッ…」
昨日までの俺なら、ここで怯んでいただろう。
言葉をそのままに受け取って、拒まれたと感じていただろう。
でも、今は違う。
ちゃんと分かる。何もかも。ふっかの気持ちは全て。
何がしたいか、俺に、何を求めてくれているのか。
天邪鬼なその口に柔く噛み付き、互いの唾液でテラテラと光る薄い唇を舐めると、大量の花、紙吹雪、そしてハートに目の前が埋め尽くされた。
「嘘つき…、いっぱいにしてあげる…」
耳元で囁いてからそこに吸い付くと、ふっかの体はぴくっと震えた。
初めて目薬を使った日から早いもので二週間が経ち、いつの間にかあのボトルは自室のどこかに追いやられていた。
この数日間で、十分に勉強させてもらった。
今まで集めてきた「正解」を毎日なぞっていくことで、不安に駆られることは無くなった。
掌や指で触れると、花が咲く。
ぎゅっと抱き締めると、紙吹雪が舞う。
溶けるくらいの甘いキスをすれば、ハートの海に溺れる。
その規則性を頭の中に落とし込み、その通りに行動したおかげで、ふっかとの間にある空気はこれまで以上に甘くなったように思う。
今の俺にはもう必要ない、そう実感できてからは持ち歩くこともなったどころか、どこにしまっていたかも思い出せないほどだった。
それだけ一回りも二回りも成長できたということなのだろう。良い兆候だ。
自宅までの家路を辿りつつ最近の出来事を振り返っている間に、気付けば目の前には玄関のドアがあった。
鍵穴を回してノブを捻り、「ただいまー」と声をかける。
リビングへ顔を出すと、ふっかは相も変わらず島の開拓に勤しんでいた。
「ただいま」
「おー、おかえりー」
目線はテレビに向かって一直線に伸びたままで、頭の上にもマークは浮かんでいない。
それでも十分に確信できている。
二人の中にある「輝き」は、しっかりとこの空間に満ち満ちている、と。
いつものように後ろから近付き、その顎をさらって口付けた。
「んんっ!?ちょっと照っ!」
「ん?」
「今いいとこだったのに!」
ぷりぷりと怒っているその顔も、不満げな声も、何もかもが可愛くて仕方がない。
「お風呂入ってくる、待ってて」
そう囁いてからふっかの顔を覗き込むと、どうしてかそいつは眉の中心に深い皺を刻ませていた。
上手く言えないが、何かがおかしいような気がした。
風呂から上がり、髪に付いた水気をガシガシとバスタオルで拭いながらリビングに戻る。
「上がったよ」と声をかけながらふわふわの髪を撫でると、ふっかは不安げな眼差しでこちらを見上げた。
ーーなんだろう、なんなんだろう…。
風呂に入る前に感じた覚束ない胸騒ぎが、今またこちらに顔を見せてきている。
「どうした?」と声をかけてみるが、「ぁ、、いや…、なんでもない…」と歯切れの悪い返答が返ってくるだけで、いつまでもその表情は明るくならなかった。
いつもの天邪鬼だろうか。もしかすると、帰りが遅かったことで寂しくさせていただろうか。
こんな時は優しく触れると良い。そうすれば、【幸せ、満足】【嬉しい】といった「希望」が戻ってきてくれるのだ。
頭を撫でていた手を首まで下ろし、ぐっと引き寄せて抱き締めた。
「待たせてごめん、寂しかった?」と尋ねてみたが、眉の歪みは治らなかった。
それどころか、ふっかは未だに弱々しくこちらを見たままで、しばしの躊躇いの後、気まずそうに口を小さく開いた。
「お前、最近変じゃない…?」
その質問の意味も真意もわからず、自然と首を傾げた。
「そう?なんか変わったように見える?」
「うん…、うまく言えないけど、なんか、怖い…」
「ふはっ、なにそれ。やっぱ寂しかったんだよね?ごめん、ほらこっちきて?」
その手を取り額に口付けると、ふっかは俺の胸を両手で力一杯に押し返した。
「誤魔化すなよ、ちょっと待って…っ」
「ほんと素直じゃないね、俺はなんにも変わってないよ。ほら、ぎゅってしよ?」
「やだ。お前絶対なんかおかしい」
「そんなことないってば。もしかして怒ってる?どうしたら許してくれる?ねぇ、ほらキスしよう?仲直りしたい」
「やめろって…!今のお前に触られたくない。こっち来んな…っ!」
「な…っ…!?」
なんで?!なんで拒むの!?
抱き締めて、キスして、二人で溶け合えれば、ふっかだって幸せを感じられるんじゃないの?!
喜んでくれるはずでしょ?!
それなのに、なんで受け入れてくれないの?!
俺の愛情を、俺を…!!
…だめだ。
このままじゃ、こんな状態じゃ…!
ふっかを幸せにできないッ…!!!!!
この感覚は、こんな感情は、久しぶりだった。
冷や汗がとめどなく吹き出してきては居ても立っても居られず、自室へと駆け込んだ。
戸棚の隅や、引き出しの中を荒い手つきで引っ掻き回し、暗がりの中であの目薬を探した。
「どこ、っどこにしまったっけ…、早くしないとふっかが…、っ!あった!あった…っ!」
手に触れたボトルを掴み、キャップを急いで回し開けて両目に一滴ずつ垂らした。
数回目をしばたかせてから前を向き直し、目薬と説明書を握り締めてリビングへ急いで戻った。
「ふっか!」
「へッ!?な、、なに…?」
こちらを向いた顔はまだ不安そうで、怯えているようにも見えた。その顔を両手で包み込み、じっと見つめる。
「ふっか、こっち見て?」
「ぇ、お…おう…、っ…」
照れてくれているのかこいつの頬は薄紅色に染まっていたが、ただそれだけで、その頭の上には何も浮かんでいなかった。
「え………?」
なんで!?どうして?!
なんで何も見えないの?!
今すぐ知りたいのに…!!
ふっかの気持ちと、俺への望みを。
今すぐわかってあげなきゃいけないのに!!!
だめだ、何も見えないんじゃ何もわからない。
最近使ってなかったから一滴じゃ足りなかったの?!
ふっかから一度手を離し、二滴目の目薬を両目に差した。
四度瞬きをしてから目を開けるとーー。
何も見えなくなっていたーー。
真っ白な世界。
すぐ近くにあったはずのローテーブルも、ふっかが愛用しているゲームコントローラーも、今はもう、どこにあるのか分からない。ソファーのスプリングがギシッと軋む感覚が、背骨を伝っていった。
「ふっか、どこ…?どこにいるの…?」
「照?どした?」
何故何も見えなくなってしまったのだろうか。
何が「ビジョン」だよ。
綺麗な展望も、混じり気のない理想も、何一つ無いじゃんか。
手に入ったのは、何もない純白の世界だけだったよ。
あ…だから「ホワイト」だったのかな…。
聞こえた音を頼りに手を伸ばし、ふっかの顔であろう柔らかい何かを両手で包み込むと「ぃ”っ!?」と耐えるような声がして、咄嗟に肩がビクッと跳ねた。
「ぇッ…!大丈夫?!!」
「ぁ、うん。へーきへーき、目に照の指ブッ刺さっただけだから」
「全然大丈夫じゃない!!ごめ…っ…!」
「いいって。それより、お前焦点合ってなくない…?俺のこと見えてる?」
「ぁ…ぇっと…」
結局、俺は今に至るまで、ふっかにあの薬のことを何も話していなかった。
滑らかに回り始めていた歯車に、自らサビの素を塗り込まなくたっていいじゃないか。
幸せなひと時を過ごせていたそのワケを打ち明けることで、こいつは俺をどう思うんだろうと想像すると、自然と口は重たくなった。
しかし、こうなってしまった以上はもう隠し通せないだろう。
どう思われたとしても全て受け止めようと覚悟を決めて、「ふっかごめん、ちょっと頼みたいことがある」と伝えた。
「ん?なに?」
「どっかに小さい紙落ちてない?」
「紙?…ぉ、これか?」
「そこにさ、目が見えなくなった時の対処法とか書いてない?俺、今なにも見えてなくて…、ごめん、代わりに読んでほしい…」
「は!?目が見えてないってどういうことだよ!?」
「あとで説明するから…っ!お願い、どっかにない?」
「なにがどうなってんだよマジで…、ぇーっと、、ぁ…?」
「あった?なんて書いてある?」
何かを見つけたような小さな声は聞こえてきたが、ふっかはそれきり黙り込んでしまった。
視覚からの情報が何も無い状況下では、そいつが今何をしているのか分からないので、想像してみるしかない。
対処法を読んでいるのか、はたまた効果やマークの一覧を読んで幻滅でもしているのか。
吐息の音すら聞こえない静寂が、ひどく怖かった。
ざわざわと栗立つ恐怖心に煽られるままもう一度「ふっか…?」と呼びかけてみると、一呼吸の後にふっかが俺を呼んだ。「なに…?」と返事をした直後、嫌気を多分に含んだため息と声が、向かいから放たれた。
「俺さ、お前のこと嫌いなんだよね」
……………………え…?
困惑、なんて言葉では足りなかった。
混乱とも違っていた。
一番近しいものはきっと、「無」だ。
何も浮かばない。何も分からない。
自分が今何を思っているのか、何を感じているのか。何を言いたいのか。
それらがまるで出てこなかった。
頭も心も、何もかも空っぽだった。
「ふっか…?な、なに…言って…」
上擦った喉から、途切れ途切れに言葉を絞り出す。
するとまた、ふっかの冷たい声が返ってきて全身が強張った。
「ゲームしたいのにいつも邪魔してくるしさ、納得いかないとムキになるし」
やめて…。
「すぐいじけるし。顔怖いくせにビビりだし」
やだ…っ…。
「お前のガキっぽいとこ、マジで嫌い」
それ以上は言わないで…っ、、!
「正直さ、もう着いてけてないんだよね」
ふっかに満足してもらえるなら、時間だって体だって、何もかも全部あげるから…ッッ!!
だからお願い…っ、その先は…っ…!!!
これまでに感じたことのない程の恐怖が、この身を焼き尽くそうとしている。
ガタガタと体が震える、とてつもない速度で奥歯がカチカチと鳴る。
「俺たちさ、もう…」とふっかが言いかけた瞬間、その声の先に続く言葉を脳が勝手に想像で作り上げ、俺の心はとうとう臨界点を超えた。
堪えきれなくなった絶望が何も映さなくなった目から次々に溢れ出して、下へ下へと流れ落ちていった。
「や”だっ!!ぃ”わ”ない”でッ…!お願い”ッ”!離れ”な”い”でッ、、ずっとそ”ばに”いでよ”ぉ”ッ…!!なん”でも”ずる”がら”ァ”ッ!!」
手を伸ばして見つけたふっかの腿に額を擦り付けては、請い願った。
捨てられたくない。
そんなことになったら、俺は生きていけない。
ふっかがそばにいてくれないと、俺は俺の形を保てない。
ーーあぁ、そうか。そうだったのか。
俺はふっかを幸せにしたいんじゃない。
決してその全てが嘘だったわけではない。
幸せにしたくてたまらない、他の誰でもない俺が、いつまでもふっかを愛し続けていたい。
今もそう思っている。
ただ、それでは少しニュアンスが違っていたということに気付いてしまったのだ。
ふっかを幸せにし続けていなければ見放される。
いつしか、そんな風に考えるようになっていた。
だから、ふっかの気持ちが分からないと怖くなった。
俺に飽きてしまったんじゃないか、実はもう既に俺よりももっといい人に出逢っていて、俺と過ごしている時間を惰性でやり過ごしているんじゃないかって、焦ったんだ。
見えないものに毎日怯えていた。
ふっかの愛情が見たかった。
ただ、それだけだったんだ。
まだそこに俺はいるの?
聞きたくても聞けなかった言葉をいつだって必死に飲み込んでいた。そのうちに、いつしか切実で、追い縋るような情けない問いかけさえも見失ってしまっていた。
奥底で眠っていた、カビ臭くジメジメとした疑問に蓋をしていたのだ。
ふっかはまだ俺を好きでいてくれている、大切に思ってくれていると、根拠のない思い込みをその上へ何層にも重ねて、知らないフリをし続けていた。
これはきっと、罰なんだろう。
人の力には限界がある。
それを超えて、いわばドーピングのような一時凌ぎで、目の前に浮かんでいた都合の良いあのマークをアテにして過信していた。
それに気付けただけでも、良かったのかもしれない。
きっと、こいつの顔も姿も、かつて俺に与えてくれていた愛情さえも、もう二度とこの目に映すことはできないだろう。
まっさらな世界だけを映す瞳からは、絶えず涙がこぼれ落ちていく。
それは休む間も無く次々と新しい雫をどこからか運んできては、下瞼のラインを飛び越え流れ出てていく。
「お願い、お願いだから」と何度も叫ぶたび、飲み下し続けていた塩分が咽頭に絡んで、喉の乾きと痛みを助長した。
このまま止められなければきっと、カラカラに乾いて干からびてしまうだろう。
頭の片隅で微かに息をしていた冷静な思考がそんなことを考えていると、次第に目の前が純白から優しい乳白色に変わっていった。
見える色が時折変わるのだろうか。
全てを諦めた頭で、これからの生活に順応していくための術を弱々しく思考し始めたとき、滲んだ視界の左端に映る黒に気付いた。それは、柔らかくて温かそうに見えた。
何が見えているんだ…?
ピントを合わせるように三度瞼を動かし、照準を合わせながら蹲っていた姿勢を正した。
湿り気を帯びた鼻を啜りつつ正面に目を据えると、そこには愛しい人のケロッとした顔があった。
「ぇ…っ…?」
「お、やっと目合った。今は見えてる?」
「な、なんで…っ、さっきまでなんにも見えなかったのに…」
「まぁ治ったんだから、結果オーライってことでいんじゃね?」
「ふ、ふっか…!」
「んぁ?」
「さっき言ってたことって…」
「ぁー?俺なんか言ったっけ?」
「言ってたよ…っ!そんな気持ちにさせてたって全然気付かなくて…ごめん…ごめんね…っ、、ふっかが俺に思ってた不満全部直すから、ふっかが喜んでくれること、毎日いっぱい、全部、何でもするから、だから…」
「だーかーら、なんの話だよ。お前に不満なんかなんもねぇよ」
「えっ…だってさっき…」
「お前が急に目が見えねぇとか言い出すから、びっくりしてさっきまで何話してたかなんか忘れちゃったよ」
「でも…」
もう一度この目にふっかの姿を映せたことは、本当に良かったと思っている。
しかし、先程までの会話がまだ耳に残っている。怯える気持ちが完全に払拭されたわけではなかった。
離れたくない意志を恐る恐る伝えようとしたが、そいつはこちらが投げた問いかけをひらりひらりと全てかわしていった。
ふっかは「忘れた」と言ったが、それは何とも信じ難かった。つい数分前の出来事をそう簡単に記憶から消せるものだろうか。食い下がるように何度かきっかけを作ってみたが、甲斐はなかった。
これはきっと、はぐらかされているのだろう。
ここまで固く口を閉ざしているということは、何も聞けないまま話は終わってしまうだろう。
しかし、どうして何も教えてくれないのだろうか?
飄々とはしているが、ふっかは意地になっているように思えた。
諦め悪く詮索を試みようとしていた意識を他へ逸らせるように、ふっかは突然俺を引き寄せた。
「一個だけ覚えとけ」
「えっ…?」
「愛情なんてモンは、目には見えねぇんだよ…っ」
耳元で聞こえたその声は、ひどく震えていた。
その顔は見えなくとも、ふっかがひどく苦しそうで、音も立てずに消えてしまいそうだと思うほどに悲しんでいることが、はっきりと分かった。
そして、頭の中に、ある“考え”が浮かんだ。
俺が今まで見ていたものは、まやかしに過ぎなかったのだ。
抱き締めれば喜んでくれる。キスすれば好きでいてくれる。
そんな単純なものなんかじゃない。
人の心というものは。
だからこそ、誰かを愛することというのはこの世で最も難しいのだ。
それに気付けずにいた俺は、今日まで一体何をしていただろう。
振り返ってみて思う。とても褒められたものではなかった。
むしろ、最低の部類に入るだろう。
俺は、この二週間、
“何も見ていなかった”のだ。
ふっかの心も、その時々の気持ちも、何一つ見ようとしていなかった。
大切なのは、分かりやすくて都合の良い「マーク」を信じ切ることじゃない。
目には見えない「サイン」に気付けるかどうかだ。
首元にしがみついたままのふっかの表情を想像してみる。
きっと、その眉はぐちゃぐちゃに歪んでいて、口は何かに耐えるようにキュッと引き結ばれているのだろう。
そんな顔をさせてしまっているのは紛れもなく俺のせいで、どの口が言っているんだとは思いつつも笑ってほしくて、後悔と贖罪とを行ったり来たりしている気持ちのまま、そのこめかみに口付けを落とした。
「バカでごめん。これからもずっと“見つめ”させて…っ」
そう伝えると、ズッ…と鼻を啜った音がして、すぐにふっかの手が俺の腕を引いた。
タオル地の黒いハーフパンツが交互するその下に見える乳白色のふくらはぎを眺めながら二人で無言のまま寝室へと入り、互いの体を抱き締め合った。
失ってしまっていた温度を取り戻すように。
肉を隔てたその奥で、未だ消えずに燃えている炎を溶け合わせるように。
俺もふっかも、震えていた。
でもきっと、これは寒いせいじゃない。
俺の胸に顔を埋めたまま一向にこちらを見てくれない恋人へ、答え合わせをするように今の気持ちをありのままにこぼした。
「今すごく泣きそう。お前は?」
肌と服に埋もれた状態で発せられた返答はぐぐもっていたが、声の振動が皮膚を伝播して直接心臓に届くような心地がした。
「そんなレベルじゃねぇよ。もう絶対目逸らすな。ばか」
カーテンの隙間から覗く朝日の眩しさを、瞼の裏で感じた。
すぐそばには、口を半開きにして眠っている恋人の間抜けな顔がある。
くかー、と小さないびきをかいてはその度に動く頬を一撫でしてから、リビングへ向かった。
確かめておきたいことがあった。
昨日見ることができなかったあの説明書には何が書いてあったのだろうか。
一晩置いても、それを明らかにしたいという気持ちは消えていなかった。
「あいつどこに置いたんだ…?」
這うようにして床に手を付き視点を下げ、一枚の紙切れを探す。
カーペットの毛の間さえも掻き分けるようにしてくまなく目を凝らしていくが、なかなか見つけられない。
捨てられてしまっただろうかと思いゴミ箱の中も引っ掻き回してみたが、そこにも目当てのものは無かった。
「っはぁ…なんで無いんだ…?…ん?」
その場に寝転がり何の気なしにソファーの方へ頭を向けると、床と座面の底の間に開いている僅かな隙間に何かが入り込んでいるのが見えた。
その中へ手を突っ込み触れたものを引っ張り出してみると、今まさに探していた説明書が出てきた。
「あった!えっと、対処法とか、こんな時は、みたいな項目は……」
上から順番に内容を確認していき、既に読んでいた内容はすっ飛ばして今欲しい情報だけを探した。
うまく見つけられずに表と裏を二度程行き来したあと、とても小さな文字を見つけた。
「えっ、、〜ッ!やっぱムカつくッ!!」
薬を作ったのがどんな奴かは知らないが、やはり最初から遊ばれていたような気がしてきて無性に腹が立った。
小さなボトルごとその紙切れを力一杯握り潰して、ゴミ箱の中へ叩き付けた。
あの時、ふっかが突然あんなことを言った理由については、俺もあいつと同じように忘れたフリをしておこう。
大切なのは、分かりやすいものだけを確かめることじゃない。
その表情や仕草の裏に隠れている、目に見えない想いが何を語りかけてくれているのかを、自分の「心の目」で視て、考えて、感じていくことなんだ。
そして、その気持ちを尊重すること。
独り善がりにじゃなく、お互いを見つめ合って、感じ合っていくこと。
もしかすると、それこそが「輝き」なのかもしれない。
「ひかるー?おきてるー?」
遠くから聞こえてくる眠たげなその声の方へ、ゆっくりと足を進めていった。
マニュアル通りじゃない、今のあいつにしてあげられる愛し方をいくつか考えながらーー。
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〜ホワイトビジョン 15mL〜
【注意】
1)「希望」はあくまでも幻(=vision)です。手に触れることはできません。何も無い場所に手を翳して周囲の人から怪しまれてしまわないようご注意ください。
2)本医薬品は「希望」にのみ反応します。ネガティヴな感情を目に映すことはできません。
3)相手の方がネガティヴな感情を強く抱いている場合、「希望」が目視できないことがあります。
4)上記は危険信号です。その場合は本医薬品は使用せず、相手の方と話し合っていただくことを推奨いたします。
4)「希望」が確認できなかった場合、焦って一回に二滴以上を点眼することはお控えください。視神経が過剰に活発化することにより、視力・視覚・視野等に異常をきたす場合がございます。
5)誤って二滴以上を点眼してしまった場合は、すぐに洗い流してください。
6)上記の際は、水ではなく「涙」を使用してください。
7)本医薬品の成分を中和できる成分は、涙に含まれる塩分のみになります。
8)とりあえず、何も見えなくなってしまった時は思いっきり泣いてください!
※こちらの注意書きをご覧いただけていない状態で異常が生じた場合は、誰かに本説明書を読んでいただくことをお勧めいたしますが、そもそも読んでくださっていないのであれば、この項目の存在もご存知ないかもしれませんね。まぁ、頑張ってください!
EnD
コメント
3件
読んでいるこちら側もiwさんと一緒に振り回されてる感じがして面白かったです! とてもとてもiwfkしててすごく大好きです…!
面白かった…!こういう不思議系のお話と「ほぉーーー!」ってなんか、タメになった?ような気がしてすごく好きです!((語彙力
楽しいだけじゃなく、胸に残るような素晴らしいお話でした。読ませていただきありがとうございます。