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#とある日私は最弱から最強に_?¿
月神零華@生きてます
第七話 新しい仕事
「────ってことがあったんですよ!!もう本当信じられなくて!!!!」
あれから数週間経った某日。
強化訓練が終わり、政府内も少し落ち着いた頃。
私は後輩と一緒に昼食を取っていた。
「うわぁ……あの後そんな事があったんスか…上層部ほんと恐ろしいっす」
メロンパンを齧りながら私に同情の目を向ける。
「柏木くん、上層部には絶対入っちゃ駄目ですよ、絶対!!」
私がそんな事を言うと、後輩はあっはは!とお上品に笑う。
「オレが今後上層部に入るとか死んでもナイですよ。第一ただの事務職員ですし」
「……たしかに」
「でしょ?まぁ未来の事なんて分かりませんけどね。」
そう言って紙コップに入った水を見つめる彼の目は、どこか達観して見えた。
そうだ。未来の事なんて、誰にも分かりやしない。
3秒後、もしくは1時間後に突然死ぬかもしれないし、何かしらの事件が起きるかもしれない。
未来は予測できない。出来るものなら、人類は今頃要らぬ苦労を強いられていないだろう。
予測出来ないから、人生は楽しくなる、なんて。
思えたら良かった。
「で、話変わるんすけど。楓さん、オレら一般事務職員の棟で一緒に昼飯食っていんですか?」
またメロンパンを一齧りし、こちらを見つめてくる。
「え、ダメ?」
「いや自分は嬉しいんですけど、そういう規律?とかないんすか?
なんか、他の幹部の人達と楓さんって色々違うなって、思って……もちろん良い意味ですけど」
………そう思うのも、仕方無いと思う。心の中で自分に苦笑いする。
「まぁ私は色々ハブられてるし嫌われてるから身の振り方とか自分の好きなようにしてます。あの人達は君らみたいな事務職員達にも悉く嫌われているそうですし仲良い人居ないですしそもそも全員フレンドリーじゃないですし性格悪いし。すーぐ人を侍らそうとしてて好きじゃないです。そして私はなるべく人脈作りたいし、なんせ仲の良い素晴らしい後輩が居るので皆さんと仲良くやらせてもらってます。」
我ながら思ったより口が滑ってしまった。
それを誤魔化すように栄養ゼリーを一吸いする。
「わーぁ……それってケッコー悪口になってません?」
「なってないなってない。幹部のだーーれにも聞かれてないですし悪口の範囲に入ってないですよ。フフ」
そう。幹部なんかが一般職員の棟になど来るわけがない。というか来る理由がない。
そうタカを括っているのが悪かったのだろうか。
後輩が突然しょぼくれた犬のように黙り込む。
「…………か、えでさん…………うしろ………」
唯一聞こえたのはその言葉だった。
その言葉を聞き取った時に、なんとも言えぬ気の悪い寒気が全身を走る。
「へぇ?で、私達の事どんなに悪く言ってたわけ?」
私の周囲が一瞬で凍りつく。
息が詰まる。やっちまった、と。
「…………」
何を話せば一番軽く済むだろうかと思考回路をフルスロットルで回転させていると、先に溜め息混じりで口を開いたのは鏡月だった。
「私本ッ当にお前の事嫌いだわ。虫唾が走る。」
椅子に座っている私の事を見下ろしながら、酷く冷たい声で吐き捨てられる。
「じゃあなんで話しかけに来たんですか…………」
なんて蚊の鳴くような声でふと呟くと、彼女のフラストレーションゲージを余計溜めてしまったのか殺気に満ちた声でこう囁く。
「後で幹部室。来なかったら殺す。遅れても殺す。」
即ち、死刑宣告と同等のもの。
「……」
私はもう凍りつくしかなくなってしまった。
「返事」
「はい」
するとまた不機嫌そうな顔で去っていく鏡月。
彼女が完全に食堂から出て行ったのを目視してから、机に項垂れかかるように溜め息をつく。
「はぁ〜〜〜〜〜………………」
「……幹部パネェ……ッす……こわぁ……」
後輩は緊張が解けないのか、背をピンと伸ばした状態で涙目で呟く。
「いつもあんなんですよ……は、はは……」
私はというと、もうなんだか呆れと恐怖で滅茶滅茶な感情に陥ってしまった。
これにどこか慣れてしまっている自分にも、呆れと恐怖がくるくる渦を巻く。
「またまた話の途中にすみません、ちょっと死んできます」
少し油断して楽しくお喋りしていたら毎度これだ。
「いや、ほんっとにご武運を。喧嘩になっても絶対勝ってきてくださいよ。」
有無を言わさぬ真っ直ぐで真剣な瞳でこちらに訴えかけてくる後輩。
「ど、どうだか……」
正直あのラベンダーヘアに勝てる気がしない。
───なんて、会話をしながらふと思い出す。
そういえば。
「書類、軍部の人に渡す約束してました」
精鋭部隊の志貴隊長に書類を頼まれていた。
なんの書類かは差し控えよう。
「………………………………マジすか。」
後輩が溜めてためてドン引く。
「さっき、『遅れたら殺す』って、言われましたよね、私……。」
「…………後回し、とか……」
「時間的に書類優先しなきゃ間に合わないんですよね……。時間決めちゃいましたし」
「あららぁ……」
「とりあえず急いで持ってってきます。」
飲み干した栄養ゼリーを壁際のゴミ箱に捨てて席を立つ。
「忙しいですね、貴方……」
「はは、本当に。」
それでは。
それだけ言って、精鋭部隊の棟に向かって急いで足を進める。
柏木くんと話しているといつもこうなっている気がする。己の運の悪さに呆れた。
───コン、コン、コン。
扉を三回ノックしてからドアノブを押して開ける。
隊長室に足を踏み入れると、志貴隊長の姿は無く、代わりに副隊長の神坂さんが居た。
「失礼します。和泉隊長に用があって来ました。」
私が辺りを見回しながら神坂さんに問うと、彼は申し訳無さそうな表情をしてからこう告げる。
「楓さん。すみません、隊長は今医療棟の方に居ます。書類なら預かりますが」
────医療棟。怪我でも負ったのだろうか。
少し心配だがあの精鋭部隊の隊長だ。そう容易く死なないだろう。
書類は預かる、とのことなのでそのまま渡そうかと思う。
「それじゃあ、この書類を和泉隊長に。幹部の楓からと言えば分かりますので。」
手に持っていた書類をそのまま差し出す。
「承知しました。必ず渡します。」
それを両手でしかと受け取る神坂さん。どこぞの亜麻色乙女とは大違いだ。
「ありがとうございます。それでは私は少々時間が無いのでまた色々諸々のことは後日。失礼しました。」
扉の方へ後退りしながら早口で捲し立て、手を後ろにやって扉を開ける。
「あ、え、楓さん、ちょっ、貴方に話が───!!」
何か聞こえた気がするがちょっと無理だ。
流石に時間を食いすぎてしまったので、思い切り走る。
とにかく、走った。
───────跳ね返る心臓を落ち着かせながら扉をノックする。
「入れ」
「失礼します」
ノブをくるりと回して扉を開く。
すると鏡月が真正面の応接椅子にでかでかと座り、コーヒーを飲んでいた。
「遅い。どこで何してた」
こちらを見るなり思いっきりガンを飛ばしてくる鏡月。こっちの事情も知らず、開口一番その言い方は流石にナイと思う。
「書類届けてました」
「誰に」
「精鋭部隊の神坂さんに」
「そ」
このひとと会話するときは必ず一言一言が短い。
正直言って苦手だ。いや、こうなるともはや幹部全員苦手な人だ。苦手というか受け付けない。嫌いである。
「それで?なんの用ですか。」
「ボスからの司令。精鋭部隊の隊長代理を2週間任せるとの事。つーわけでこれ制服とチャカと剣。じゃ、よろしく。」
どこから取ったか、軍帽と軍服と拳銃と鞘に入った剣を2回に分けて投げつけられる。
ちゃんとキャッチはしたが、ここの人たちは物を大切に扱えないようだ。
そしてもうどういうことか全然わからない。
何故そうなったのかを教えてほしい。
志貴隊長が医療棟に居るのは知っていたが、そこまで重傷なのか。
「いやあの、待ってください、まずは事情説明お願いします。詳しい事。隊長はどうしたんですか?」
投げられた物達を抱えながら軽く質問攻めをする。
「あ゙ぁっもうめんっっどくせえなお前。」
鏡月は空になったコーヒーカップを思いきり机に置く。
……いつにも増して不機嫌そうだ。
「精鋭の隊長、Sランクと一騎打ちでやりあって肋骨と左腕と脚へし折って、腸とかの内臓系統抉れたり、治癒魔法が効かないくらい重傷なんだってよ。それで当分軍の方に付けねぇから誰かが隊長の代理をせにゃならんってこった」
思ったより酷い状態のようだ。
ただ、隊長の代理は副隊長にでも任せれば良いと、私は思う。
「……それじゃあ副隊長を隊長にすれば良いのでは……」
私が恐る恐る言葉を投げると、彼女の目つきが更に鋭く光ったのが分かる。怖い。
「副隊長本人が断りやがったんだよ。……これでもう良い?仕事内容については親衛部隊、又は精鋭部隊の副隊長あたりにでも聞け」
私だって断りたい。軍部の事なんか各部隊の隊長や副隊長の名前しか知らないし、そもそも私は幹部なのである。
とは思ったものの、確かに副隊長を隊長に入れると今度は副隊長が居なくなる。この判断をせざるを得なかった、なんて己を頑張って納得させる。
でも流石に私は無い。朱鷺にでもやらせてほしかった。
「…………はい。」
諦めに似たような声が、室内に小さく響く。
どれだけ不満があろうと、拒否したら問答無用で殴り掛かられるに違い無い。今度は私が医療棟送りになる。しかも“ボス”の指示と来たからには絶対に断れない。
政治的組織の総本部のくせに治安が悪すぎる。
……文句を言っても仕方がない。言われたからにはやるしか無い。
「いつまで突っ立ってるの?こっちも忙しいから早く出てって」
鏡月は椅子に座ったまま魔力で扉を開ける。とにかく私に消えてほしいらしい。
呼び付けておいてその態度。実に。ムカつく。
─────これにて、晴れて2週間だけ隊長を任される事になった私。健気に頑張るしかない。
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