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式場の一階にある喫茶店で、ひよりはコーヒーを飲みながら鷹野が来るのを待っていた。ブックスタンドに並んだ新聞を手に取って、しばらくの時間を物思いに耽る。
世界は今後、どうなってしまうのだろう…
記事の殆どは、そんな庶民の思いとは裏腹な、センセーショナルな見出しが踊っていた。
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そんな新聞記事に、うんざりした表情のまま、ひよりは窓の外に目を向けた。
黒塗りの車が、エンジンをかけたまま停車している。
数日前から、尾行されているのを知っていたひよりは、どうせ公安だろうと鼻で笑った。
「わざとらしい…」
鷹野はすぐに現れた。
最後にきちんと礼を言いたいと、話を持ちかけたのは彼自身だった、
松葉杖をつきながら、ひよりの顔を見るなり深々と頭を下げた。
「色々とお世話になりました!」
「よしてよ…」
「いやいや、本当にありがとうございました。こんな減らず口の部下ですが、共に闘えたことは誇りに思います」
アルコールのせいで涙腺が緩んだせいか、ひよりは下手な笑顔で誤魔化しながら、
「やめてよ、泣いちゃう」
と、伏目がちに言った。
智明と共栄は、駐車場で待たせてある。
本来ならば、このまま酒でも交わしたいところだが、鷹野とはまた会える気がしたからやめた。
鷹野は、
「今度は捜査官ですか?」
と、言うと、ひよりはふふと笑って外の車を指差した。
「あいつ等と一緒だよ。内閣府直属の特捜部隊だとさ」
「ああ…」
「暇だよね、やつらも」
「うぢにもいます、マンション前にわざとらしく…」
「やだあ、うたくん家にもいるの、こわいこわいこわい!」
「名前で呼ぶのはやめてください!」
鷹野は顔を赤らめながら、椅子に腰掛けた。
ひよりはふてくされた顔をして見せた。
「入院している時からずっとですよ。ま、理由は解らなくもないですけどね。自分も同じ立場なら職務を全うしますから!」
相変わらずな鷹野の生真面目さに、ひよりは笑った。
こうしてふたりで笑うのも久方振りだった。
鷹野は急に立ち上がって、スマホを片手にひよりに寄り添いながら、
「お願いがあります!」
「キスはしないぞ!」
「そんなもん、お願いしません!」
「そんなもんってなんだよ」
「あの、記念に一緒に写真を撮ってください!お願いします」
「いいよ」
「やった、日本のジャンヌダルクど一緒だ」
ひよりの隣で笑っている鷹野は、満面の笑顔だった。
それを見て、ひよりも嬉しくなった。
「いきますよ! はいチーズ!!」
パシャリと音がして、鷹野とひよりの想い出がスマホに収まる。
握手を求めた鷹野の目に、光るものが見えた。
ひよりはひとこと声をかけて、その場を後にした。
「よせやい…」