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第13話「黄金の執行官、漆黒の反逆」
前編
エクスターミネーションの前日……
(何故か)ノアはチャーリー達がさん付しているのを思い出し、皆に言った……
「皆…もう、さん付けと敬語は外して頂戴?」
「え、良いの…?」
チャーリーが少し驚きながら言った。
「ええ、ここでは『家族』なんでしょ?」
「ノア……」
「どうしたの?」
「…明日はエクスターミネーションが来る日よね。」
「ええ、そうじゃなかったかしら?」
「皆で……家族の絆を見せつけてやりましょう!」
「「「お〜!!」」」
次の日……
地獄の空に刻まれていたカウントダウンが「0」になった瞬間、真っ赤な空が引き裂かれ、眩いばかりの黄金の光が降り注いだ。
年に一度の虐殺――エクスターミネーションの始まりだ。
「ハハハ! 壊れかけのゴミ溜めホテルが、いっちょ前に防壁なんか張ってんじゃねえよ! 汚ねえ悪魔ども、一匹残らずミンチにしてやるぜ!」
下品な高笑いを響かせるのは、天国の軍勢を率いる総隊長、アダム。
彼が放った聖なる光の衝撃波はホテルの防壁をいとも簡単に粉砕し、チャーリーたちを次々と吹き飛ばしていく。
地面に倒れ込んだチャーリーに向かって、アダムがニヤニヤと笑いながら黄金の槍を振り上げた。
「終わりだ、地獄のプリンセス。お前のくだらねえ『更生ホテル』の夢と一緒に、消え失せな!」
その絶体絶命の瞬間――。
地獄の赤い空を、完全に覆い尽くすほどの「真っ黒な影」が猛スピードで上空から割り込んだ。
――ガァアアアアッ!!!アダムの黄金の槍を鋭く弾き飛ばしたのは、漆黒の魔力を帯びた「30羽の巨大なカラスの軍勢」だった。
「チッ、なんだぁ!? 鳥葬の時間にはまだ早いぜ!」
アダムが忌々しげに空中へ飛び退く。硝煙と砂埃が舞う中、チャーリーたちの前にゆっくりと歩み出たのは、ノアだった。少しふわっとした黒髪を風に揺らし、背中からは光を吸い込むような巨大な黒羽の翼が広がっていく。
「ノア……! ダメ、逃げて! 天使たちの武器は――」
チャーリーが必死に声を上げるが、ノアは静かに首を振った。
「大丈夫よ、チャーリーちゃん。……ここからは、私のお掃除の時間かしら」
いつもの優しいお姉さんの声。
けれど、その響きには地獄の底より冷たい怒りが満ちていた。
ノアがゆっくりと顔を上げると、彼女の長い前髪が魔力で逆立ち、隠されていた「左目」がカッと見開かれる。
両目ともに、血のように鮮やかな赤。カラスの先頭を飛ぶ「レイン」がノアの肩に力強く止まり、残る29羽のカラスたちがノアの頭上で死の円陣を組む。アダムはノアの姿、そしてその魂の波動を感じ取った瞬間、不快そうに顔を歪めた。
「あァ? お前……見覚えがあるな。確か数ヶ月前、天国の法廷からゴミ捨て場(ここ)に放り投げた、あの全身痣だらけの気味悪いガキじゃねえか! 大人の身体になろうが、その魂の汚れは隠せねえんだよ!」
「魂の汚れ……? 外見の醜さ……?」
アダムの言葉に、ノアの細い肩が微かに震えた。10歳の心を持ったまま、大人の身体に閉じ込められた少女の胸の奥で、ずっと抑え込んできた「あの日の絶望」が、一気に堰を切ったように溢れ出した。
ノアの口から、地獄の全土を震わせるような、悲痛で、それでいて美しく澄んだ咆哮が響き渡る。
「……そんな風に、決めつけないでくださる?」
その叫びは、天国への純然たる恨みと悲しみそのものだった。
激しい怒りであっても、彼女の言葉はどこまでも気高さを保っている。
「私はただ、病気で身体が痛くて、苦しくて、ずっと暗い部屋で一人ぼっちだったのよ。誰も私を見てくれなかったし、誰も私に優しくしてくれなかったわ……。それなのに、やっと苦しみから解放されて辿り着いた天国で、あなたたちは私の何を見てくださったのかしら?」
ノアの赤い瞳から、大粒の涙がボロボロと零れ落ちる。けれど、その涙は地獄の魔力と混ざり合い、黒い炎となって彼女の周囲を焼き尽くしていく。
「『愛されなかったのは業が深いから』? 『黄金の街に汚れた存在を歩かせるわけにいかない』? 酷いわ……あまりにも理不尽よね。勝手に悪だと決めつけて、私をこの暗闇に突き落としたくせに……。どの口が、どの面が、それを『正義』なんて呼ぶのかしら?」
天国の法廷で冷酷に木槌を叩いた審判官たちの顔。自分を薄汚いものを見る目で蔑んだ天使たちの視線。その全てに対する悲しみが、30羽のカラスたちと共鳴し、暴風となって吹き荒れる。
「私は天国なんてどうでもいいの。黄金の街なんて二度と見たくもないわ。でもね……。この地獄で、誰にも愛されなかった私を、初めて『優しい』って言ってくれたチャーリーちゃんを、ハハハって笑ってくれるみんなを、私の大切な居場所を……あなたたちみたいな冷酷な偽善者に、これ以上壊されてたまるもんですか」
ノアの背中の黒羽がさらに巨大化し、翼の毛先が天国への怒りを表すように、鮮烈な「赤」へと燃え上がる。
その圧倒的な魔力の奔流は、上級悪魔(オーバーロード)すらも遥かに凌駕し、地獄の王ルシファーの気配にすら匹敵するものだった。
「おいおいおい、マジかよ……! なんだこのイカれた魔力は!」
さっきまで余裕ぶっていたアダムの顔が、初めて恐怖に引き攣った。
ノアは涙を拭うと、冷徹な、絶対的な審判を下す者の目を天国へと向けた。
肩のレインが、主の意志を宿して低く鳴く。
「レイン、みんな。……あの傲慢な黄金の執行官たちを、一人残らず引き裂きなさい」
ノアが細い指先をアダムへと向けた。
「お掃除の時間よ」
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前編〜終わりぃ〜
次回第14話、中編!
お楽しみに!
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