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「それからの生活は本当に楽しかったね」
とうとうヴァジュラはニルヴァーナ……涅槃への門を完全に開いた。
メイは人間の姿を取り戻し、私とメイが自由に世界を作れる場所が与えられたのだ。
「僕は何かを作るなんてできなかったから、世界を作るのは全部姉さんに任せたけどね」
私が描いた絵がそのまま僕たちの新しい家になり、遊び場になり、そしてカワイイ住人も作った。
「メイが”姉さんは物をそのまま写実的に描くのは苦手だけど、お菓子の絵だけは上手に描けるよね”って言ってくれたから、私はお菓子の国を作ったんだよね」
「僕は僕で現世と涅槃を行き来して、久しぶりに得られた自由に動く人間の身体を楽しんだ。たまにいたずらするように美雪ちゃんの後ろに現れたりして、美雪ちゃん、驚いてたな」
「メイ、そんなことしてたの?」
「でも死んだはずの姉さんがいきなり現れたら怖がらせてしまうから、どうやって美雪ちゃんを怖がらせないで、僕と姉さんが今も元気にしていることを伝えればいいか迷ってた。まぁでもあの頃はまだ姉さんが世界を作ってる真っ最中だったし、美雪ちゃんを招待するのは、姉さんが満足のいくお菓子の国が出来上がってからって思ってたよ」
「美雪ちゃん……」
私の胸にぽっかりと空いた穴。
冥界領域であるニルヴァーナで自分の世界を作ることに、私は夢中になっていた。
誰からも嫌われたり蔑まれたりしない、私とメイの二人きりの世界。
本当に居心地がよかった。
でも、新しい世界を作れば作るほど、私の心にぽっかり空いている穴がはっきりとしてきた。
最初は夢中で世界を作っていたから気にも留めなかったけど、
私が描く世界は、どれもこれも必ず美雪ちゃんとの思い出に行きつくんだよね。
こうやって私が作る世界は、美雪ちゃんが私に見せてくれたものばかりなんだもん。
遊園地に行ったり、お菓子屋さんだったり、教会だったり、
みんなみんな、美雪ちゃんが私に見せてくれたもの。
なのに、美雪ちゃんだけがここにいないの。
気付いたら、私は美雪ちゃんの絵まで描いていた。
ごめんね、美雪ちゃん。
私はあの時、美雪ちゃんは私のことをいじめてるのかなって誤解した。
だから、大好きだけど大嫌いな美雪ちゃんに、私の最後の姿を見せてしまった。
でもあの後にメイから教えてもらったよ。アレは私への愛情表現だったんだって。
この世界に来てから、私の身体も変化したの。
「僕が姉さんに、大人の愛し方、いろいろ教えてあげたもんね」
メイと体を触りっこしたり、いっぱいキスしたり、恥ずかしい事とか気持ちいい事とか、いっぱい学んだ。
あの時の私は気持ち悪いとか嫌だって感じてたけど、そうじゃなかったんだね。
ごめんね、分かってあげられなくて。
私って、いつも余計なことを言ったりしたりして、失敗してばかりだ。
でももしまた会えるなら、その時は美雪ちゃんの愛情を受け入れるよ。
「でも美雪ちゃんは姉さんの事を忘れるといった」
私が命をささげて約一年。
美雪ちゃんは、私が死に場所として選んだ私のお家にやってきた。
そして、私が彼女の家に置いたままにしたスケッチブックを、リビングに置いてこう宣言した。
「カンナ、私、この街を出て、遠くの高校に行く。もう、カンナの事は忘れる。さようなら……」
「僕が、美雪ちゃんを迎えにいって、あのときみたいに後ろから驚かせてやろうとした時にさ、そんなこと言われちゃったね」
メイは美雪の命を奪い、そしてこのニルヴァーナに引きずり込んだ――。
「そうだったんだ」
誰よりも強く賢く貪欲で、憎めない私の妹。
「私、メイの事、何もわかってあげられてなかったんだね……」
この気持ちに染まるのは、もしかしたら間違っているのかもしれない。
「メイは私よりもずっと前から、美雪ちゃんの事が好きだったんだね」
でも、だれよりも強い孤独を味わったメイの、心の氷を溶かしてあげられるなら。
全てをメイにゆだねてしまってもいいのかもしれない――。