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『まだ、落ちていく』
tg視点
──放課後、屋上。
ゆっくり開いた鉄の扉。
そこには、ひとり先に来ていた先輩の姿があった。
あの日と同じ、
夕焼けの光を背に立つシルエット。
その景色に、思わず息を呑む。
pr …ちぐ
先輩がこっちを振り向く。
質問が、鋭くて、苦しい。
──“ある”。
だってこれは、俺が渡したものだから。
付き合ってたとき、
「いつでも来ていいですよ」って笑いながら、ポケットにねじこんだやつだから。
でもそれを言ってしまえば、
全部を、先輩にぶつけることになる。
tg …それ、俺のじゃないです
言ってしまった瞬間、心臓がぎゅっと縮こまる。
先輩はちょっと残念そうに笑った。
pr そっか。なんか、ここに来たくなった理由も…わからんままやな
pr でも、不思議やな。ここ来ると落ち着くし……なんか、誰かと話してた気がすんねん。
ちぐさの喉が、ひく、と動く。
たぶんそれ、“俺だよ”って叫びたくなる衝動だった。
でも、言わない。言えない。
pr ちぐ、俺さ
tg …はい
pr 最近、怖いねん
tg …怖い?
pr お前のこと、気づいたら目で追ってる自分がいてさ……でも、なんでか理由がわからん
pr 覚えてないのに、こんな風に誰かを気にするって、おかしいやろ?
俺は、言葉を失っていた。
先輩の声が、まっすぐ過ぎて、
心の奥に突き刺さる。
pr なぁ、俺……
そこで、先輩がふと、黙る。
pr …俺、お前のこと……
その言葉の続きを待っていたそのとき。
ガチャン。
屋上の扉が、強い風で閉まった音が、
ふたりの間の空気を断ち切った。
tg あ、びっくりした……
pr …っ
ほんの一瞬、時間が止まった気がした。
でも、たった一言、
“俺、お前のこと……”の続きを、聞くことはできなかった。
俺はただ、ぎゅっと制服のすそを握りしめながら、心の中で願った。
──先輩。
思い出さなくていい。
でも、どうか、俺にもう一度、落ちてきて。
♡▶︎▷▶︎▷2500
コメント
4件
2500いきました〜!
今回も尊い… 続き楽しみにしてます!