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「あれ、もう無い。」
空のお菓子の袋を振って中身の有無を確認すると、シャカシャカと虚しいビニールの空振る音だけが寝室に響いた。
『シンイチ、何をしている。』
自身の右手がスライムの様に変形して話しかけてくる。ビニールを縦に振っている動作に疑問を持ったのだろう。つぶらな一つの目でこちらを不思議そうに見ている。
「お菓子がなくなっただけだよ。」
さっきの一粒で最後だったなんて、と杞憂そうにため息を吐けばお菓子の袋を机に放ったらかしにしてベッドへと寝っ転がった。
『人間と言うのは不思議だな。自分の食事を終えたのにそれに落ち込むとは。』
ふむ、と観察する様にして仰向けに大の字に寝ている新一をこれでもかという程に見ている。その姿こそ目玉だけなのだが、なぜだが新一はその目にも何か宿る気持ちがあるのではないか、とふとそう思った。
「そーいうもんなの。」
と新一は不貞腐れた様に唇を尖らせ、不満気な顔をしている。ただ単に口寂しいのか、それともさっき食べたお菓子のカスが口内に残っていると信じて探しているのか、口をもごもごとさせている。
『シンイチ』
目の前の人間の前に身体を伸ばす。一つの目とぷるりとした唇が特徴的なその姿はミギーという名前で、泉新一という今まさに不貞腐れている男の右手に寄生している。
「なんだよ…ミギー」
聞き慣れた声に耳を貸せば、ちらりのその声のする方向へと視線を向けようとしたその時。
『 』
「ん?!」
柔くぷるりとしたものが新一の唇に触れた。ミギーの唇だ。それだけでは留まらず、ミギーが新一の口を開かせようと無理矢理にでも舌を挿し込んでくる。
「ん゙ー!!ん゙ん゙ーー!(ミギー!)」
予想もしない展開に思わず新一は足をバタつかせ抵抗を試みる。だが、それは虚しく右手から伸びてくるミギーの触手とも言えるであろうモノにベッドへと身体を固定されてしまう。
『…シンイチ。』
ようやくミギーから唇だけを解放され新一は、はぁはぁと苦しそうに呼吸をしている。
「…な、んだよ…ミギー…」
やっと呼吸が整ってきたのか、途切れ途切れに返事を返す。返事と同時にミギーの方へと上げた顔は赤く、頬が艶っぽく染まっている。
『シンイチ、君からの恐怖心を感じない。…それどころか、興奮している様に見える。何故だ?シンイチ。』
ミギーは疑問そうに新一へと問いを投げかける。こうして縛り上げているのに。人間のことが、新一のことが、もっと知りたい。新一の声を聞いたり、新一を見たりする際に湧く、私のこの感覚も。
「う…る、さぃ…」
目の前のミギーから離れようと身体を弱々しく左右に揺らし抵抗する。だがぎゅ、と拘束が固くなり思わずびくっと反応してしまう。ミギーとの沈黙が何処か気恥ずかしく、気まずく感じふと抵抗を辞めた。
『シンイチ』
何時もの様に教えてと迫る一つのつぶらな瞳。いつもと同じトーン。同じ声。その筈なのに今の新一にとっては何処か寂しげに聞こえてしまうのだ。
「…」
渋々頷いて了承した。…が、ここからどう話を展開していけば良いのか。どう足掻いても、自分の抱くミギーへの気持ちに今更拍車をかけることは出来ない。
『…』
数十秒は経っただろうか。ミギーは急かすこともなくただじっと新一が話し始めるのを待っている。
「…ミギーにこういうことをされたり、触られたりすると…その、嬉しいんだよ。痛くされても、ミギーが俺に何かしてくれたことが嬉しい。…好きなんだ、ミギーのことが…。ごめん、笑っちゃうよな。」
新一は全ての気持ちを吐き出し、はぁと大きくため息をついた。身体を共有し合っていただけでこんな思いを抱くなんて、と自己嫌悪に陥っては何処か苦しそうな表情をした。
『笑わない、何故謝る。…シンイチ、君は笑ってしまうと言ったが、わたしがそういう冗談には付き合わないのを知っているだろう?…わたしのこの感覚もひょっとすると君と同じものなのかもしれない。』
いつになく真剣な声だった。いつも何かと人間について考えているミギーだが、今日は人間ではなく新一について考えている。ようやくその感覚の正体が分かったらしい。感情だ。
「…え?」
“君と同じものなのかもしれない”ミギーの言葉が新一の頭の中に響いた。同じもの?それって…ミギーも俺を…?と暗い表情からは一転して、困惑にも似た表情で目を見開いてミギーを見つめた。その顔からはまだ頬がほんのり赤く色付いていて、熱が冷めていないことがわかる。
『この感情は君がくれたんだよ。シンイチ。』
感情、それはミギーの口から出てくることを想定していなかった言葉。共に日々を過ごしていく内に、互いに影響を及ぼし合っていたらしい。物理的にも、精神的にも。
「ミ…ギ、ー…」
驚きのあまり間抜けな声が出てしまう。でも嬉しかった。何度も夢だと思った。でも夢じゃない。顔、そして目尻が一気に熱くなる。ずっとミギーの手に締め付けられていた身体も心地良く感じる程に。
『…シンイチ、さっきの続き…してもいい?』
まだ少し不安そうにこちらを見つめるつぶらな瞳。良いに決まってるだろ?なんて思いながらも新一は嬉しそうにミギーの名を呼んではその唇にキスを返した。
「お前の好きにしてくれ。」
両手を広げてミギーを求める。ああ、嬉しい。安心からか、喜びからか目尻から涙が溢れ仰向けに寝ている新一のもみあげを濡らす。
『人間…いや、きみは不思議だ。シンイチ。痛みを与えても泣かないきみが、こんな時に泣くとは。』
と再びミギーは興味津々でこちらを見ている。わかってるくせに。俺の感情、思ってることが全く分からないわけじゃないくせに。少し悔しくなった。
観覧ありがとうございます。
こちらの話の続きは🔞として、2話(下)の方に続いています。2話で完結の為、良ければそちらも見て頂けると嬉しいです。
コメント
1件
うわぁ…新一とミギーの距離感がもうここまで来てるんだね…。原作知ってるからこそ、ミギーが「感情」って言葉を出すシーンがすごく沁みたよ。ずっと一緒にいて、少しずつ変わっていく二人の関係が繊細に描かれてて、読んでて胸がじんわりした。続き、ゆっくりでいいから待ってるね🌙