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「はあぁぁぁ――!」
前傾姿勢に反応した魔導兵は同じように突進してきた。
突進をしてきた時点で、攻撃タイプのまま変わることが無いと判断した。両手剣は後ろに振りかぶっていた。近接戦闘で来ることが分かった以上、敵が攻撃を繰り出す速度よりもさらに素早く動作に移行。
エンチャント攻撃で識別エルメル魔導兵の装甲は意味を為《な》さない。ライザー《雷撃》の衝撃によって、魔力で支えられていた二本の義足はもろくも崩れていく。
「よし、このまま粉砕して……むっ?」
活動停止にさせた魔導兵に拳を振り上げようとした、その時。連携してくることが無かったもう一体の魔導兵が、そいつを引っ張って行ってしまう。
「何だ? 何をするつもりだ?」
「マスター、あの魔導兵の魔力が増強されていくなの! 多分、停止した魔導兵の魔力を自分の魔力とする為なの!」
「……ちっ、核《コア》を破壊していなかったからか」
「識別エルメル・イスティの活動停止を確認……魔力変換、一致……抹殺実行」
おれから距離を取った魔導兵から、異常とも取れる魔力上昇を感じるが、ムカつくところも親父そのものを連想させる。父の名であるベルク・イスティを識別とした魔導兵は、全ての戦闘タイプがあるようだ。そういうことなら、こちらも魔力を使って魔法を発動させる。
「……え、わらわは?」
「トドメの時に使う。それまで休んでていいぞ」
「わ、分かったなの!」
魔力を限界まで引き上げた反動からか、魔導兵の全身はそれまでの暗灰色《あんかいしょく》から灰白色《はいはくしょく》へと色を変化させた。
色を帯びたところで強さそのものが爆上がりするわけではないが、油断は禁物だろう。何故ならそれまで見えなかった核《コア》となる部分が赤い炎のように瞬《またた》き始めたのが何よりの証。
「滅び、滅亡……人、人人人人……全て滅――」
公国が滅んだのは魔導兵の反乱だが、貴族同士の争いもあった。エルフや獣人への存外な扱いも、全く褒められたものじゃなかった。公爵家だった親も争いで亡くなったと聞かされたが、魔力を魔導兵に注いだのも公国への遺恨があったのかもしれない。
今となってはだが。
属性防御を取られているが、まずは奴に対しフリーズを発動。すると想定済みといった態勢で、義手を上空に掲げそのまま炎属性で相殺。
「なるほど、魔法対決は問題が無いわけか」
「――全属性無効……警告、警告――」
「ちぃっ」
警告という機械音を発した奴は猛烈な勢いでおれに突進してくる。奴は機械の義手を地面に引っ掻け、劈《つんざ》きの切り刻み音を響かせた。
火花を起こしながらおれの頭上を目がけ、装甲の強固な部分を振り上げてくる。これに対し、こちらもエスクード《盾》を顕現させた。
すかさずカウンターによる拳を見せると奴も後退。拳による近接戦闘は既にデータ収集がされているようだ。こうなると破壊しそびれたエルメル個体に与えたエンチャント攻撃も、恐らく大したダメージを与えられない。
フィーサを使うのは時期尚早と判断し、データ外の攻撃に切り替えて今は奴の動きでも封じることにする。
「手強い相手ではあるが苦戦する相手でも無いな。問題はどうやって粉砕するか……」
盾を顕現させたことで奴は戦闘タイプを変更し始める。氷魔法は相殺されはしたが、思いきりやれば何らかのダメージを与えられるはず。
――そのはずだが、例えばそれを火属性攻撃でやった場合、想定されるのは一帯全てを燃やし尽くしてしまうことだ。そうなると、距離を取ったミルシェたちにも被害が及ぶ。さらにはゲート前で待機している獣人たちにも、ただごとではない事態が生じてしまう。
それだけに奴の魔法相殺は周りに与える影響がありすぎる。そういう意味で、最後の魔導兵には魔法による攻撃はしないことにした。
エンチャント攻撃は直に魔法を発動するわけでは無いのが幸いか。
「……イデアベルク・イスティ認識……遠隔攻撃に移行――」
そうこうしていると、奴は形態変化をしようとしていた。もちろん動物では無いので、細胞や骨格そのものを変化させられるわけじゃない。さっきまでの物理攻撃だった義手から、遠隔攻撃向けの義体に変化させただけのようだ。
奴との距離はそこまで離れているわけでは無いが、どういう攻撃を仕掛けてくるつもりがあるのか。
「――! イスティさま、魔導兵の標的が彼女たちに向けられているなの!!」
「何っ!? だから遠隔攻撃に切り替わったのか! くそっ、ミルシェの防御魔法では厳しいか」
「わらわがもう一度突っ込むなの!! だから早く――えっ?」
フィーサの提案も考えたが、トドメで使うことを前提としている以上、彼女をぶん投げるわけにはいかない。魔法をかき消す相手ということで一瞬悩みかけたが、奴の攻撃を防ぎ反撃に転じられるとすれば彼女たちしかいないはず。
その時点で奴の形態変化と同時に、おれは彼女たちを久しぶりに顕現させた。
これで恐らく間に合うだろう。
「くっ……アックさまが相手をしていたのに、こちらを狙い撃ちとは……」
「我の幻影も通じないだと!? お、おのれ……」
距離的にミルシェたちの状況を直に確かめることは出来ない。おれが分かるのは、フィーサによる気配変化だけ。
「ウニャッ!? 機械人形が襲って来たのだ!? ア、アックはどこなのだ」
「どうしましょう、どうしましょう!? こ、拳で向かっても凍らされたら……あうぅ~」
――などと、彼女たちは魔導兵相手に攻撃を仕掛けることすら躊躇《ちゅうちょ》している。そんな彼女たちに向けられたのは、避けるのも厳しい鋭利な剣の同時多撃。
「人間、獣人……イスティアライアンス……抹殺実行――」
「ひっひえええええ!? アック様、アック様~!!」
「ウ、ウニャニャニャ!?」
ミルシェの防御魔法は既にかき消され、守ることも出来ない。
だが、
「――」
「抹殺不可……抹殺ミス、ミス……不可、不可――迎撃不可」
間に合ったらしく、魔導兵は転進してこちらに再度向かってくるようだ。彼女たちにはそのまま、ミルシェたちの所にいてもらうことにする。
◇◇
「――え? イスティさま、誰が小娘たちを守ったなの?」
「ラーナとシリュールだ。魔法でもない存在なら、魔導兵ではどうにも出来ない」
「さ、さすがなの!!」
「……そういうわけだ。フィーサは闇属性を潜在させておけ! 奴の動きを止めてから斬るぞ」
「は、はいなの!」
転進してきた奴は近接戦闘タイプに戻っていた。もっとも増強させた魔力をフルで使用して、おれを完全に抹殺するようだが。
「抹殺、抹殺……イデアベルク・イスティ――」
「ベルク《親父》には悪いが、完全停止をしてもらう!」
「……反撃《カウンター》シフトに移行」
「無駄だ!」
奴も警戒を高めていたのか、接近してこないままカウンター攻撃を狙っているようだ。魔法にせよ近接戦闘にせよ、抹殺を実行する構えを見せている。
「マシーネ・シールを発動、シアン・サブマージョンを展開する!」
奴に対し放った攻撃は、スライム《無機的生物》による波状攻撃。これで動きを封じた。もし泥人形であるゴーレムのままであったなら、スライムの粘液程度では通じなかっただろう。
しかし装甲を強固にして完全な機械人形とした魔導兵にはかなりの効果があった。骨格に相当する関節可動域は、ゼリー状にまとわりつくスライムでショートを起こしている。
「――ガググ……反撃不能、攻撃不能……行動……不能――」
「フィーサ! 斬るぞ!!」
「はいなの!」
フィーサに潜在させていたのはエンチャント闇属性だ。おれは神剣を手にしながら、行動不能となった奴に一撃必殺の強攻撃を上段から浴びせる。
「完全に消えろ、インスティンクション《全滅》!」