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坂田優。
俺の幼馴染で、今では探偵の相棒でもある。
俺がこいつを探偵に誘ったのは、ただ幼馴染だったからじゃない。
もちろん、昔からの付き合いだから信頼もあるし、あの身体能力を買ったってのもある。
だけど、それだけじゃない。
元々優は、小学生の頃から仲が良かったやつが1人いた。
俺も優繋がりで仲良くなって、一緒に遊んだこともあるやつ。
だけど、今から5年前。
優が小6だった頃の、とある日──……。
学校からの帰り道。
優がその友達と、2人で横断歩道を歩いているところに、居眠り運転の車が突っ込んだらしい。
俺はその時中学に上がってたから、少ししてから事故の話を聞いた。
幸いなことに、優は頭を打った程度の怪我で済んだ。
……だけどあいつの方は、跳ね飛ばされた後、打ち所が悪くて……ほぼ即死だったらしい。
事故の話を聞いてすぐ、俺は病院に駆けつけた。
優の病室に入った時、あいつは頭に包帯を巻いていて、目に光が灯っていなくて、俯いたままぼーっとしていて。
“絶望”と表すのが、相応しかった。
「優……?」
「……あ、渉さん、来てたんすか」
話しかけると、こちらを向いて、にこりと笑った優。
「へへ、すんません、心配かけて……」
「優」
いつも通りと言うように、笑顔を浮かべる優に近づく。
「……?」
「っ……辛かった、よな」
「っ……! ……ううっ……うわあああっ!!」
顔を歪ませて、声を上げながら泣き始めた優。
目の前で、大事な友達を失ったんだ。
そんな時に、普通に笑っていられるはずがない。
……こいつなら、尚更。
「っ俺……すぐ近くにいたのに、あいつのこと守れなくてっ……!!」
「うん」
「俺だけ、生き残っちゃって……!!」
「……うん」
「ひぐっ、うぅ……!」
子供らしく、わんわんと声を上げながらそう言う優に、何も言ってやれなかった。
「っ……俺、強くなりたい……! 大事な人を、守れるようになりたいよっ……!」
「……!」
大事な友達を目の前で失って、打ちのめされて。
だけど優は、“強くなりたい”と言った。
──立ち止まらず、前に進もうとしていた。
俺と一つしか違わないのに。同じ子供だったのに。
優はきっと、誰よりも心が強い。
だから俺は、こいつを探偵に誘った。
実際、事件が起きた現場に行った時、鍛えた身体能力を活かして活躍することも多い。
だけどそれ以上に、遺族の人達の心に寄り添っている。
それは、自分も過去に同じことを経験していて、その人達の気持ちが分かるから。
“時雨”達が言っていた、あいつらの里で起きたっていう事件の話を聞いた時も同じ。
その日の帰りに、あいつはこう言っていた。
『俺、“時雨”達が悪い奴らとは思えないです。みんな、親とか仲良かった人達を殺されて、家まで焼かれたって。……俺も、あの時居眠り運転してたっていう運転手のこと、死ぬほど恨みました。今でもあの人を許してないし、許したくない。……だから、その……真冬達の、“復讐したい”って気持ち、ちょっと分かっちゃって』
俺達のスタンスは、“善悪は自分で決める”。
優のこの話を聞いたから、俺はあいつらのことを調べることにした。
「うらさん、新しい依頼人が来ましたよ!」
事務所の裏の椅子に座って、昔のことを思い出していると、坂田にそう呼ばれる。
「分かった。すぐ行く」
ふぅ、とため息をひとつ吐いて、椅子から立ち上がる。
俺もこいつも、今まで色々あったけど、こうして前に進んでいる。
いや、俺達は進まなくちゃいけない。
後ろを向いたところで、それはもう無意味なことだって分かってるから。
過去には、もう戻れないから。
だからせめて、少しでも後悔しないように。
今日も、前に進んでいく。
「──ようこそ、浦田探偵事務所へ」
そよよです。
6話目は、前回とは逆で、坂田さんのお話をうらたさん視点で書いてみました。
過去にそれぞれの形で、大事な友達を失った経験があったこの2人。
そんな辛い過去を経て、こうして2人は探偵をしていたわけですね。
だから2人の間には、何よりも強い信頼がありました。
ここまで全6話、読んでいただきありがとうございました。
時雨桜番外編は、これにて終了となります。
最後に、ハートとコメント、よければフォローもよろしくお願いします!
おつそよ!