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次の日の朝、目が覚めた瞬間から胸がざわざわしていた。
うざったい程の晴天。
鼓膜に響く蝉の声。
いつもと変わらない夏の空気。
なのに、何もかもが違って見えた。
今日はいむくんに会える最後の日。
学校の授業なんか、まるで耳に入らなかった。
ノートは真っ白で、時計の針ばっかり見てた。
あと何分、あと何時間で今日が終わってしまうのだろうか。
放課後のチャイムが鳴った瞬間、俺は誰よりも早く教室を飛び出してた。
貯金箱を鞄に突っ込んで、ダッシュで家を出た。
頬を伝い、滴り落ちる感覚がする。
…これは汗?
店に入ると、きらびやかな花たちが、目の前に並んでいた。
『……約束の花って、ありますか?』
自分でも何を言っているのか分からなかった。
花屋のおばちゃんは少し驚いた顔をしたあと、優しく笑って頷いた。
数えてもらって、花束を包んでもらって、俺はまた走り出した。
夕暮れの光が街をオレンジ色に染めていく中、走って走って、走って___
やっとの思いで、トンネルの前にたどり着いた。
息が上がって、喉が焼けるように痛くて、花束を抱える手が汗で滑りそうだった。
でも、迷いはなかった。
一歩、トンネルに足を踏み入れる。
ひんやりとした空気が、火照った肌を撫でた。
そして、その先に
『……いむくん』
そこに、いつも通り、いむくんがいた。
大きな木の下に立って、こっちに気づいて手を振っている。
何も変わってないのに、今日が終われば、もう二度とここで会えへんのや。
「しょーちゃん! 来てくれると思った!」
『当たり前やろ。俺が来んわけないやんけ……』
俺は近づいて、花束をいむくんの前に差し出した。
『……これ!別れのプレゼントとかそんなんやなくて、ちゃんと想い込めて持ってきた。俺……』
言葉が詰まる。喉の奥が熱くなる。
でも、もう逃げたくなかった。