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楽屋は朝からの準備で少しざわついていた。スタッフが最終確認をしている中、〇〇は鏡の前でドレスの裾を整え、息を整える。
〇〇は心の中で深呼吸する。胸の奥は少し跳ねる。前回のお泊まりの夜のことがふと浮かぶ。ゲームをしたり、一緒にご飯を作ったりしたあの時間。何気ない瞬間だったのに、思い出すたびに心臓がざわつく。表情には出さず、鏡の自分を見つめて、声には出さずに「落ち着こう」とつぶやく。
隣に立つ廉が、自然に距離を合わせて歩く。
廉「〇〇、歩幅合わせるで」
そのさりげない気遣いに胸が少し熱くなる。〇〇は小さく頷き、ドレスの裾を少し引き上げる。
廊下に出ると、フラッシュが瞬き、歩くたびにドレスが光る。報道陣のカメラがこちらを向き、会場の入り口へと誘導される。
ーーー
会場は華やかで、ライトが会場全体を明るく照らしている。〇〇×廉は同じテーブルに座り、北斗は高畑充希と別テーブルに着席。
〇〇は心の中で「堂々としてれば大丈夫」と自分に言い聞かせる。フラッシュが瞬くたびに、胸の奥が少し跳ねる。廉は隣で自然に姿勢を正し、手元でドレスの裾をさりげなく整える。北斗は別テーブルで静かに座り、周囲を見渡しながら表情を崩さない。
ーーーー
技術賞発表
司会者の声が会場に響く。
司会者「技術部門の発表です。撮影賞・照明賞・録音賞は『秒速5センチメートル』!」
歓声が会場を包む。〇〇は手を軽く合わせて拍手し、胸の奥で少しだけドキドキする。隣の廉も拍手しながら目線をちらりと〇〇に送る。北斗は別テーブルから落ち着いて拍手。
司会者「音楽賞・編集賞・美術賞は『消えゆく君のために、僕は笑っていよう。』です!」
歓声がさらに大きくなる。〇〇は胸の奥で少し熱くなり、息を整える。隣の廉も拍手しながら、微かに〇〇の肩を意識する。
ーーーー
助演女優賞
高畑充希が受賞。北斗は静かに拍手を送り、〇〇も目で笑顔を送る。周囲の歓声が続く中、〇〇は手元で指を組みながら、堂々と座り続ける。北斗の視線が一瞬だけ〇〇に向く。〇〇は気づかないふりをするが、胸の奥が小さくざわつく。
ーーーー
最優秀主演女優賞
司会者が名前を呼ぶ。
司会者「最優秀主演女優賞は……姫野〇〇さんです!」
歓声が会場を包む。廉は小さく頷き、隣の〇〇を見守る。
廉「〇〇、行くんやで」
〇〇は深呼吸し、堂々と立ち上がる。胸の奥では少しだけドキドキが跳ねる。廊下のカーペットの感触を意識しながらステージへ歩く。
ステージ上でマイクを握った〇〇は、周囲のライトとフラッシュを感じつつ声を整える。
〇〇「ありがとうございます。まず、この作品に関わってくださった全てのスタッフとキャストの皆さんに心から感謝申し上げます。皆さんと一緒に作品を作れたことが、私にとって何よりも幸せでした。そして、私を信じて支えてくれた監督、共演者、マネージャー、家族に感謝します。ありがとうございました!」
壇上から客席を見渡すと、北斗が静かに座って拍手しているのが目に入る。心臓が少し高鳴るが、表情には出さない。隣の廉は少し笑みを浮かべて拍手を送る。
ーーーー
最優秀主演男優賞
司会者「最優秀主演男優賞は……松村北斗さんです!」
北斗は落ち着いた表情でステージへ歩く。視線が客席の〇〇に一瞬向くが、すぐに落ち着きを取り戻す。
北斗「この度は最優秀主演男優賞をいただき、本当にありがとうございます。まず、この作品に関わった全てのスタッフ、共演者に感謝します。今後も精進していきます。本当にありがとうございます。」
北斗の視線が一瞬〇〇に向くと、胸がざわつく。〇〇はわずかに視線を返すが、堂々としている自分を演じる。客席からの拍手が鳴り響く中、北斗は微かに息を整える。
ーーーー
最優秀作品賞
司会者「最優秀作品賞は『消えゆく君のために、僕は笑っていよう。』です!」
廉「〇〇、一緒に行こ」
〇〇は頷き、二人で壇上へ。
〇〇「本当にありがとうございます。この作品を通して、たくさんのことを学び、たくさんの方々に支えていただきました。心から感謝申し上げます。」
廉「まず、この作品に関わってくださった全てのスタッフ、キャストの皆さんに感謝申し上げます。皆さんのおかげで、僕たちは作品を形にすることができました」
〇〇は隣で静かにうなずき、拍手の手を止めずに立っている。廉は一瞬〇〇の顔を見る。ドレスに照らされた表情、堂々と前を見据える瞳。それを見た瞬間、胸の奥で少し熱くなるものを感じ、視線をすぐに前に戻す。
廉「そして、僕自身、〇〇さんと共演できたことが本当に特別な経験でした。この作品を通して、多くのことを学び、多くの方々に支えていただきました。心から感謝いたします」
観客席から大きな拍手が鳴る中、廉は手元で軽く拳を握り、深呼吸をする。〇〇は横で微笑みながらも、壇上の空気に少しだけ緊張しているのを感じている。
廉「最後に、この作品を観てくださった全ての観客の皆様、応援してくださった皆様に、改めて感謝を申し上げます。本当にありがとうございました」
ステージ上で軽く一礼すると、観客から再び大きな拍手が湧き上がる。廉は肩越しに〇〇に軽く目線を向ける。〇〇は小さく頷き、表情には出さずに心の奥で喜びを噛み締める。
二人はマイクを置き、壇上からゆっくりと下がる。拍手の余韻がまだ残る会場で、互いに小さく笑みを交わす。廉は隣で静かに息を整え、肩の力を抜きつつ、〇〇の歩幅に合わせてステージを降りる。
ーーーーーーー
東京・丸の内 — 第〇〇回日本アカデミー賞の授賞式が本日、東京・〇〇ホールで開催され、話題作『消えゆく君のために、僕は笑っていよう。』が見事最優秀作品賞に輝いた。主演女優賞には姫野〇〇、主演男優賞には松村北斗(『ファーストキス』『秒速5センチメートル』)が選ばれ、会場は歓声と拍手に包まれた。
壇上での姫野は堂々とした表情で感謝を述べ、隣の廉も静かに支えるように拍手。客席からの視線とフラッシュを浴びながら、二人は晴れやかな笑顔を見せた。
技術部門でも両作品が受賞を分け合った。『秒速5センチメートル』は撮影賞・照明賞・録音賞を受賞し、『消えゆく君のために、僕は笑っていよう。』は音楽賞・編集賞・美術賞を受賞。助演女優賞には高畑が輝き、松村も拍手で祝福する場面が見られた。
最優秀作品賞の壇上で、永瀬は「この作品に関わってくださった全てのスタッフ、キャスト、そして応援してくださった皆様に心から感謝します」とスピーチ。姫野も隣で笑顔を見せ、観客席からの大きな拍手に応えた。
授賞式終了後、関係者は「作品の完成度と出演者の演技力の評価が高く、受賞は納得の結果」とコメント。姫野×永瀬の今後の活躍にも期待が高まる。
ーーーーーーーーー
会場を出て少し落ち着いたインタビューブース。照明が柔らかく当たる中、主演女優賞の〇〇、主演男優賞の北斗が並ぶ。記者は軽く会釈し、インタビューが始まった。
記者「まずは、受賞おめでとうございます。今のお気持ちをお聞かせください」
〇〇「ありがとうございます。とても驚いていますが、本当にうれしいです。作品を作る中で支えてくださった皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです」
北斗「僕も、こうして評価をいただけるのはうれしいです。映画を通して学んだことも多くて……とても貴重な経験になりました」
記者「今回、それぞれ主演されたわけですが、現場の雰囲気はいかがでしたか?」
〇〇「私は、現場では自分のペースで集中できました。スタッフの方々も出演者の皆さんもとても温かくて、安心して演技できました」
北斗「僕も、〇〇の存在はやっぱり安心材料だったな。直接共演はしていませんけど、同じ業界で頑張ってる姿を見て刺激になったし、自分も自然に気持ちを込めて演技できた」
〇〇は軽く微笑む。北斗は視線を少し〇〇に向けるが、すぐにカメラへ戻す。胸の奥では、前回〇〇が廉の家に遊びに行ったことがちらつく。
北斗(……あいつ、あの時楽しそうにしてたんだろうな。俺はなんで黙ってたんだ……)
記者「特に印象に残っているシーンや演技はございますか?」
〇〇「やっぱり、自分のキャラクターの感情を表現するシーンはすごく考えました。感情の揺れを丁寧に作ることができたと思います」
北斗「僕も、自分の役を演じる中で、感情のぶつかりやすいシーンは特に印象に残ってます。こうすればもっと伝わるかなって思ったこともありました」
北斗の胸の奥では、〇〇への感情が静かにうずいている。
北斗(……やっぱ、あいつは俺のこと仲間だと思ってるだけか。でも、そう思われてるから余計悔しい)
記者「最後に、応援してくださったファンの皆様へメッセージをお願いします」
〇〇「応援してくださった皆さん、本当にありがとうございます。今回の受賞も、皆さんの応援があってこそです。これからも精進してまいりますので、応援よろしくお願いします」
北斗「支えてくださった皆さん、本当にありがとうございます。今回の受賞を励みに、これからも作品づくりに全力を尽くしていきます」
インタビューが終わり、〇〇は柔らかく笑いながら会釈し、北斗も軽くうなずく。互いに距離は適度に保たれているが、北斗の心臓はまだざわついていた。
北斗(……次、〇〇と会うとき、俺どうすればいいんだ。あいつが笑うだけで胸が苦しいのに……)
控室の静かな空気の中、北斗はスマホを握り締め、心の中で〇〇の存在を何度も反芻した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
楽屋のソファに座ったまま、〇〇はスマホを見つめていた。
廉とのトーク画面。
既読はついている。
最後のメッセージは三日前。
廉「返事、ほんとに急がなくていいからね」
優しい。
優しすぎる。
〇〇(待たせすぎだよね……)
あの日のことが浮かぶ。
キッチンで並んで立って、
味見しながら笑って、
帰り際、少しだけ真面目な顔で見つめられて。
「好き」
ちゃんと言われた。
そして、キス。
〇〇は唇を軽く噛む。
逃げたわけじゃない。
でも、答えていないのは事実。
〇〇(ちゃんと向き合わなきゃ)
震える指で、グループLINEを開く。
文字を打っては消して、打っては消して。
〇〇「今週どこか空いてる人いる?」
送信。
一瞬で既読が増える。
風磨「どした?」
樹「仕事?」
慎太郎「飯?」
北斗は少し遅れて既読。
数秒後。
北斗「空いてる」
たったそれだけなのに、心臓が少し跳ねる。
〇〇「ご飯行こ。あの時のメンツで」
送った瞬間、自分で意味を感じる。
“あの時”。
廉の家に行ったことを話した日。
風磨「なるほど」
樹「了解」
慎太郎「重め?」
〇〇「うん、ちょっと」
北斗は既読のまま、少し間が空いて。
北斗「行く」
その短さが、逆に優しかったかも。
数日後。
半個室の落ち着いた店。
〇〇が扉を開けると、もう北斗が座っていた。
黒いシャツ、静かな横顔。
〇〇「早くない?」
北斗「まぁ」
目が合う。
ほんの一瞬、互いに探るような沈黙。
北斗「……廉?」
〇〇は苦笑する。
〇〇「うん」
北斗は小さく息を吐く。
北斗「そっか」
その“そっか”が、少しだけ低い。
そのあと三人が合流して、料理が並ぶ。
最初はいつも通りの空気。
でも誰も、本題を忘れていない。
風磨「で?」
自然に空気が締まる。
〇〇はグラスを両手で包む。
〇〇「廉に、何回も返事待たせてるのね」
北斗は視線を落とす。
〇〇「ちゃんと告白されてるのに。一回も答えてない」
樹「うん」
〇〇「この前また、“急がなくていいよ”って言われた」
声が少しだけ揺れる。
〇〇「優しいの。ほんとに。だから余計にちゃんとしなきゃって思った」
北斗の喉が静かに動く。
〇〇「次の同じオフの日、水族館行く予定」
北斗の指先が止まる。
水族館。
暗い照明。
静かな水槽。
近い距離。
〇〇「そこで、ちゃんと返事するつもり」
慎太郎「決めたんだな」
〇〇「うん。逃げたくない」
少し間を置いて。
〇〇「でも、めっちゃ緊張する」
正直な声。
〇〇「告白されてるし、キスもしてるし、お泊まりもしてるし」
北斗の視線がわずかに上がる。
〇〇は気づかない。
〇〇「だからさ、二人きりで待ち合わせってなったら、絶対変に意識するのね」
風磨「まぁな」
〇〇は少しだけ視線を泳がせてから、言う。
〇〇「みんな一緒に来てくれない?」
沈黙。
樹「水族館に?」
〇〇「うん。最初はみんなで回って。途中で自然に二人になるとか」
慎太郎「保護者?」
〇〇「そう。ワンクッション欲しい」
そして、ゆっくり北斗を見る。
〇〇「北斗も、来てくれる?」
まっすぐな目。
何も疑っていない目。
北斗の胸が強く鳴る。
北斗(俺、好きなやつの告白の瞬間見に行くのか)
断ればいい。
行けないって言えばいい。
でも。
〇〇が“いてほしい”と言った。
その事実が、胸を締め付ける。
数秒の沈黙。
北斗は小さく息を吸う。
北斗「……〇〇がちゃんと向き合いたいなら、俺は行く」
〇〇「ほんと?ありがと!!」
無邪気な笑顔。
北斗は目を逸らす。
北斗「保護者な」
風磨「お前が一番複雑そうだけどな」
北斗「うるさい」
笑いが起きる。
でも北斗の中は静かじゃない。
水族館で、もし。
〇〇が廉を見上げて。
「好き」って言ったら。
その瞬間を、自分は隣で見る。
北斗はグラスの氷を見つめる。
溶けていく音が、やけに響いた。
〇〇はまだ気づいていない。
自分の無自覚な残酷さに。
そして北斗は、まだ言えない。
好きだって、一度も。
水族館の日が、静かに決まった。
ーーーーーーーーー
店を出たあと。
夜風が少し冷たい。
「じゃあな」
「連絡しろよ」
それぞれが帰っていく中、〇〇は少しだけその場に立ち止まる。
北斗と一瞬だけ目が合う。
北斗は何も言わない。ただ小さく頷く。
その視線が、少しだけ重い。
〇〇(ちゃんとするんだよ、私)
深呼吸。
スマホを取り出す。
廉の名前をタップする指が、少し震える。
数コール。
廉「もしもし?」
お風呂上がりみたいな、少し低くて柔らかい声。
その瞬間、心臓が跳ねる。
〇〇「……今大丈夫?」
廉「うん。どうした?」
優しい。
いつも通り。
〇〇は歩きながら、小さく言う。
〇〇「今度の同じオフの日さ」
廉「うん」
〇〇「水族館、行かない?」
一瞬、間。
でもすぐに。
廉「行く」
即答。
〇〇の鼓動が速くなる。
〇〇「まだ最後まで言ってないけど」
廉、少し笑う。
廉「〇〇が誘う時点で断る理由ない」
その言い方がずるい。
〇〇は足を止める。
街灯の下。
〇〇「そこでさ、ちゃんと話したい」
今度は少しだけ長い沈黙。
廉の呼吸が、電話越しに聞こえる。
廉「……うん」
低くて、真剣な声。
廉「わかった」
その一言に、胸がぎゅっとなる。
でも。
〇〇「あとね」
少し言いづらそうに続ける。
〇〇「最初だけ、みんなもいる」
廉「みんな?」
〇〇「樹と、風磨と、慎太郎と、北斗」
電話の向こうが一瞬静かになる。
廉はすぐに否定しない。
数秒の沈黙。
廉「そっか」
声のトーンは変わらない。
でも、少しだけ間があった。
廉「〇〇、緊張してる?」
図星。
〇〇「……うん」
正直に言う。
〇〇「二人きりで待ち合わせだと、たぶん変に固まる」
廉は小さく笑う。
廉「俺も緊張してるけど」
その言葉に、〇〇の心臓がまた跳ねる。
廉「でも、〇〇がそうしたいなら全然いいよ」
責める感じはない。
ただ受け止める声。
廉「最初はみんなで回って、途中で二人になればいいでしょ?」
〇〇「うん」
廉「俺、逃げないから」
その一言が、まっすぐすぎる。
〇〇は少しだけ黙る。
〇〇「ちゃんと答えるから」
自分でも驚くくらい、はっきり言えた。
電話越しに、廉の息が止まる気配。
廉「……うん」
少しだけ声が低くなる。
廉「楽しみにしてる」
その言葉は、プレッシャーじゃない。
でも確実に重みがある。
〇〇「クラゲ見たい」
急に軽いことを言う自分。
廉は笑う。
廉「暗いとこで泣くなよ」
〇〇「泣かないし」
廉「泣いたら手、貸すけど」
心臓がうるさい。
〇〇「じゃあ、また詳細送る」
廉「うん。ありがと、誘ってくれて」
電話が切れる。
画面が暗くなる。
〇〇はしばらく動けない。
ちゃんと約束した。
水族館で、返事をする。
そして、最初はみんなもいる。
夜空を見上げる。
〇〇(逃げない)
その決意だけが、はっきりしていた。
同じ頃。
帰り道。
北斗のスマホが静かに震える。
〇〇「水族館決まった」
短い報告。
北斗は画面を見つめる。
北斗(決まったか)
返信を打っては消す。
結局。
北斗「了解」
それだけ送る。
水族館の日。
告白の返事の日。
胸の奥が、静かに痛んだままだった。
ーーーーーーーー
一方その頃
店を出て、〇〇が「じゃあね」と手を振ってタクシーに乗る。
ドアが閉まる音。
テールランプが遠ざかる。
少しの沈黙。
風磨「……で?」
樹が小さく笑う。
樹「絶対言うと思った」
慎太郎は両手をポケットに突っ込む。
慎太郎「本気だな、〇〇」
北斗は何も言わない。
夜風が静かに吹く。
風磨は北斗を見る。
風磨「お前、大丈夫?」
北斗「何が」
即答。少しだけ早い。
樹「水族館だぞ?」
慎太郎「告白の返事だぞ?」
北斗は目を逸らす。
北斗「知ってる」
風磨「好きな子が、他の男に答え出す瞬間立ち会うってことだぞ」
沈黙。
北斗の喉が動く。
北斗「……〇〇が決めたことだし」
樹「強がるなよ」
北斗は少し笑う。
北斗「強がってない」
でも声が少し低い。
慎太郎「本音は?」
北斗は空を見上げる。
街灯の光が目に入る。
北斗「正直、行きたくない」
三人が黙る。
北斗「でもさ」
小さく息を吐く。
北斗「〇〇が“いてほしい”って言った」
その一言に全部詰まっている。
風磨「断れなかったか」
北斗「うん」
樹「優しいな、お前」
北斗「違う。ずるいだけ」
慎太郎「ずるい?」
北斗「近くにいられるなら、それでいいって思ってる」
その言葉は静かで、重い。
風磨は真顔になる。
風磨「〇〇が“好き”って言ったら?」
一瞬、空気が止まる。
北斗の視線が落ちる。
北斗「……笑うよ」
樹「嘘つけ」
北斗「嘘じゃない」
でも拳は強く握られている。
北斗「〇〇がちゃんと向き合って出した答えなら、それは尊重する」
慎太郎「お前、ほんとめんどくさいタイプだな」
北斗「うるさい」
少しだけ笑いが起きる。
でもすぐ真面目な空気に戻る。
風磨「俺らは?」
北斗は顔を上げる。
風磨「水族館でどう立ち回ればいい」
樹「ガチで保護者?」
慎太郎「空気読む係?」
北斗は少し考える。
北斗「普通でいい」
風磨「無理だろ普通」
北斗「〇〇が緊張しない空気作ればいいだけ」
樹「お前は?」
北斗は少しだけ黙る。
北斗「俺は……」
言葉が止まる。
夜が静かすぎる。
北斗「俺はちゃんと隣にいる」
それだけ。
風磨は小さく息を吐く。
風磨「バカだな」
北斗「知ってる」
慎太郎がぽつりと。
慎太郎「まだ間に合うけどな」
北斗は苦笑する。
北斗「間に合わないよ」
樹「なんで」
北斗は少しだけ遠くを見る。
北斗「〇〇はもう、答えを出しに行く顔してた」
あの真っ直ぐな目。
あれは逃げない目だった。
風磨「……そっか」
また沈黙。
慎太郎が肩を回す。
慎太郎「水族館、気まずいな」
樹「クラゲ見て泣くなよ北斗」
北斗「泣かない」
風磨「泣いたら動画回す」
北斗「殴る」
やっと少しだけ笑いが戻る。
でも、北斗の胸の奥は静かなまま。
好きだって、一度も言えていない。
それでも。
水族館には行く。
〇〇が呼んだから。
夜の街を四人が歩き出す。
それぞれが、それぞれの覚悟を抱えたまま。
ーーーーーーーーー
廉side 📞
着信。
画面に表示された名前。
〇〇。
心臓が一瞬で跳ねる。
すぐに出たい。
でもワンコール置く。
廉「もしもし?」
声が震えないように、いつも通りに。
〇〇「今大丈夫?」
少しだけ硬い声。
廉(緊張してる)
廉「うん。どうした?」
歩いてる音が聞こえる。
少しの間。
〇〇「今度の同じオフの日さ」
廉「うん」
鼓動がうるさい。
〇〇「水族館、行かない?」
一瞬、世界が止まる。
廉は天井を見る。
水族館。
暗い。静か。近い。
廉「行く」
考える前に出た。
〇〇「まだ最後まで言ってないけど」
廉は少し笑う。
廉「〇〇が誘うなら行く」
本音だった。
数秒の沈黙。
〇〇「そこでさ、ちゃんと話したい」
その言葉で、空気が変わる。
廉の呼吸がゆっくりになる。
廉(来たか)
逃げないって決めてる。
廉「うん。わかった」
短く、真っ直ぐに。
心臓はうるさいのに、声は静か。
〇〇「あとね」
少し言いづらそうな声。
廉「うん?」
〇〇「最初だけ、みんないる」
廉の指先が止まる。
廉「みんな?」
〇〇「樹と、風磨と、慎太郎と、北斗」
その名前に、ほんの一瞬だけ胸がざわつく。
北斗。
廉(そっか)
数秒の沈黙。
でもすぐに。
廉「〇〇、緊張してる?」
核心をつく。
〇〇「……うん」
素直な返事。
その声で、少し安心する。
廉(俺のこと嫌で人呼ぶわけじゃない)
廉は小さく笑う。
廉「俺も緊張してるけど」
本音。
廉「でも、〇〇がそうしたいなら全然いいよ」
自分でも驚くくらい、穏やかに言えた。
正直、二人きりがよかった。
でも。
廉「最初はみんなで回って、途中で二人になればいいでしょ?」
逃げ道は用意してあげたい。
〇〇「うん」
廉「俺、逃げないから」
自分への宣言でもあった。
電話の向こうが静かになる。
〇〇「ちゃんと答えるから」
その一言で、胸が締まる。
廉は目を閉じる。
廉「……うん」
声が少し低くなる。
怖くないわけじゃない。
でも。
廉「楽しみにしてる」
嘘じゃない。
どんな答えでも、逃げない。
〇〇「クラゲ見たい」
急に軽くなる空気。
廉は笑う。
廉「暗いとこで泣くなよ」
〇〇「泣かないし」
廉「泣いたら手、貸すけど」
本気半分、冗談半分。
でも、もし泣いたら。
きっと本当に手を握る。
〇〇「また詳細送る」
廉「うん。ありがと、誘ってくれて」
電話が切れる。
部屋が急に静かになる。
廉はスマホを見つめたまま動かない。
水族館。
返事。
北斗もいる。
廉はゆっくり息を吐く。
廉(正面から来るんだな)
〇〇は逃げない。
だから自分も逃げない。
ソファに倒れ込む。
天井を見上げながら、ぽつり。
廉「頼むから、いい意味で裏切ってくれ」
小さな本音。
それでも、決めている。
どんな答えでも、受け止める。
水族館の日まで。
あと、少し。
ーーーーーーー
日が経ち水族館前日の夜🌙
〇〇 side
部屋のベッドの上。
明日の服が何パターンも並んでいる。
〇〇「……決まらない」
カジュアルすぎる?
気合い入りすぎ?
考えれば考えるほどわからない。
スマホを手に取る。
廉とのトーク。
「明日10時で大丈夫?」
既読はすぐについた。
廉「大丈夫。楽しみにしてる」
その文字を見るだけで、心臓が跳ねる。
〇〇(楽しみにしてる、か…)
ちゃんと答えるって言った。
逃げないって決めた。
でも。
北斗の顔も浮かぶ。
ご飯の日。
「〇〇がちゃんと向き合いたいなら、俺は行く」
あの声。
〇〇は天井を見る。
〇〇(なんで北斗の顔出てくるの)
仲間。
大事な仲間。
それ以上は考えたことない。
…ないはず。
スマホを握りしめる。
〇〇(明日、ちゃんと終わらせる)
終わらせる?
始める?
胸がざわつく。
小さく呟く。
〇〇「怖いな…」
でも。
逃げない。
電気を消して目を閉じる。
眠れないまま、夜が深くなる。
廉 side
部屋は静か。
机の上には明日のチケット。
廉はそれを何度も触っている。
廉「緊張しないわけないだろ…」
苦笑。
鏡を見る。
少し真面目な顔。
廉(どんな顔で来るかな)
笑ってる?
緊張してる?
北斗の名前が頭をよぎる。
廉(北斗もいるんだよな)
正直、気にしていないわけじゃない。
でも。
〇〇が選んだ形だ。
廉は深呼吸する。
廉「逃げない」
あの日、告白した時から決めてる。
もしダメでも。
後悔はしない。
ベッドに横になり、天井を見つめる。
廉(好きだよ、〇〇)
声には出さない。
明日、言う必要があるなら、また言う。
目を閉じる。
鼓動がゆっくり落ちていく。
覚悟は、できている。
北斗 side
暗い部屋。
電気はついていない。
ソファに座ったまま、スマホの光だけが顔を照らす。
グループLINE。
「明日よろしく」
〇〇のメッセージ。
北斗はしばらく返信できない。
北斗(明日か)
水族館。
告白の返事。
自分は“保護者”。
苦笑する。
スマホを置き、天井を見る。
廉のことを考える。
真っ直ぐで、優しくて。
北斗(敵にするには、ちゃんと強いんだよな)
だから余計に悔しい。
〇〇の顔が浮かぶ。
あの無邪気な笑顔。
「北斗も来てくれる?」
断れなかった理由。
北斗はゆっくり息を吐く。
北斗「俺、何やってんだろ」
好きな子の告白の返事を、隣で見る。
普通は行かない。
でも。
北斗「最後まで、仲間でいるって決めたしな」
それは嘘じゃない。
ただ。
胸の奥が静かに痛む。
北斗は目を閉じる。
北斗(もし〇〇が笑って“好き”って言ったら)
その瞬間。
ちゃんと笑えるか。
数秒の沈黙。
北斗は小さく呟く。
北斗「笑えよ、俺」
暗い部屋にその声が溶ける。
水族館前日の夜。
三人とも、眠りは浅い。
同じ明日を思いながら。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
☀️
〇〇side
朝。
カーテンの隙間から光が入る。
目は覚めてるのに、しばらく起き上がれない。
〇〇(今日だ)
心臓が、じわっと速い。
スマホを見る。
時間はまだ余裕ある。
廉からはまだ連絡なし。
でも昨日の「楽しみにしてる」が頭に残っている。
ゆっくりベッドから起き上がる。
洗面所で顔を洗う。
鏡に映る自分。
〇〇「大丈夫、大丈夫」
小さく言い聞かせる。
クローゼットを開ける。
昨日迷った服。
最終的に選んだのは、
白のトップス。
シンプルだけど、少しだけ柔らかい素材。
黒のミニスカート。
脚が出る。
〇〇「……攻めすぎ?」
でも子どもっぽくもしたくない。
白は、ちゃんと向き合う気持ち。
黒は、覚悟。
勝手に意味をつける。
トップスを着る。
スカートを履く。
鏡の前に立つ。
〇〇(……変じゃないよね)
くるっと一回回る。
心臓がまた速くなる。
もし、廉が見て。
「かわいい」って言ったら?
顔が熱くなる。
慌てて髪を整える。
今日は少しだけ巻く。
でもやりすぎない。
ナチュラル。
アクセサリーは小さめ。
目立たないように。
そして変装。
キャップ。
大きめの黒縁メガネ。
マスク。
国民的女優のスイッチ。
〇〇(今日はプライベート)
でも、バレるわけにはいかない。
バッグに確認。
財布。
スマホ。
リップ。
ハンカチ。
深呼吸。
スマホが震える。
廉「家出たよ」
たったそれだけで、鼓動が跳ねる。
〇〇「今から出る」
送信。
すぐに既読。
数秒後。
廉「気をつけて」
優しい。
〇〇(ほんと、ずるい)
その時、グループLINEも震える。
樹「起きてる?」
風磨「遅刻すんなよ」
慎太郎「クラゲ楽しみ」
北斗「現地集合な」
その文字を見て、一瞬止まる。
北斗。
昨日の夜のことが頭をよぎる。
〇〇(北斗もいる)
安心?
それとも、少しだけ変な緊張?
自分でもわからない。
鏡の前にもう一度立つ。
白トップスに黒ミニスカ。
キャップを少し深くかぶる。
〇〇「よし」
今日は、逃げない。
ちゃんと答える。
ドアノブに手をかける。
一瞬だけ、立ち止まる。
〇〇(もし“好き”って言われたら)
いや、もう言われてる。
今日は自分の番。
胸に手を当てる。
鼓動がうるさい。
〇〇「いってきます」
誰もいない部屋に小さく言って、
扉を開ける。
水族館の日が、始まる。
next→♡
#タイムレス