テラーノベル
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24
荒い呼吸をしながら、俺にまた口付けをして押し倒してくる。さすがにそれは駄目だと本能が察して、相手を押し返す。
「渉、ここは駄目だ!帰ろう!」
「出来る、一発だけでいいから……」
「無理だろ、落ち付け!お前の家にいこう!」
なおも食い下がってこようとした彼を説得して、部屋にあったティッシュで手を拭いてから保健室を後にした。閉会式は終わりに近づいている。
「お前、副団長なのにいなくてよかったのか?」
「いいよ、もともと人前にでること自体面倒だから嫌いなんだ」
それってやっぱり俺のためなんだと思いながら、俺たちは下駄箱に向かう。そこで俺が座って、自分と俺の分の着替えと荷物を持ってくる。
足のことを思って、渉が大翔の自転車を借りていこうと言った。電話してもまだ通じないとわかっているので、メールで連絡しておいた。彼が自転車をこいで、俺は後ろに座って二人でジャージのまま裏門を出た。
外は夕方になっている。オレンジ色の景色を見つめながら、渉の背中に語りかける。
「渉ってさぁ、俺のこと好きだよなぁ」
「なに、突然」
「お前、練習終わったあとに屋上毎日来てたんだって?」
甲高い音を立てて、自転車がブレーキをかける。俺の方を振り向いて、睨んできた。
「星野さん?」
「おう」
「くそ……」
悪態をついてから、再び自転車が動き出す。前から来た親子二人をよけるために、自転車が大きく横に動いたので、彼の腹に腕をまわしてしがみつく。
「いるなら、話しかけろよ」
「あんたが、笹本司とつるんでるのが悪いんだろ」
「嫉妬?」
「悪い?」
「いや、嫉妬もいいもんだな……」
首筋がいつもより涼しいのは、髪を結んだままにしているせいだ。しばっていたゴムを取れば、髪がほどけて首筋にはりついてきた。それでも、こちらの方が落ち着くから下ろしたままにする。
渉の汗の匂いが鼻先をくすぐって、相手の首筋に顔を押しつけて舐めて見た。背中は揺れたが、自転車は漕いだままだ。
「やめて……」
「司にはちゃんと好きな奴いるから大丈夫だよ。そういえば、知ってるか?旗手を完璧にやり遂げたら、願い事が叶うってジンクスあるんだぜ?」
「へぇ……」
「俺さぁ……お前に体育祭に出てほしいっていったの、お前と思い出作りしたかったからなんだよ。来年卒業するし、こうして会うこともねぇだろうし。だから誘ったんだよ……」
「卒業しても、こうして一緒だろう?」
「まぁな、だから旗練習してるときにずっと思ってたことがさぁ……」
俺は背中に額をくっつけた。心臓の音がする。体温がすぐそばにあった。こうしていたい、ずっとこうしていたい。
「ずっと、渉とこうして一緒にいられますようにって願ってた……」
旗を振る、旗がくるくる回って落ちて来る。旗を振ったことのない人間に、旗をキャッチしたときの気持ちはわからないだろう。和太鼓に合わせて舞って、最後の旗をキャッチした瞬間。なんだか永遠の約束をされたような、そんな気がした。
渉とこれからも、死ぬまで一緒だろう。きっと毎日仲良くなんてことはなく、喧嘩したり別れたりとかもあるかもしれない。だがどうせ俺にはこいつしかいないし、こいつにも俺しかいないと思う。自惚れてもいいくらいに、こいつは俺がいないと駄目なんだと思った。
大翔から話を聞いた時、本当に嬉しかった。とんだ奴に愛されたと、嬉しくて誰かに自慢したいくらい。
「鳴海さんってロマンチストだよな」
「渉の家に行ったら、飯なんか作ってやるよ。久しぶりで嬉しいか?」
「いや、昼飯に食った」
「え、どうやって?」
「屋上に隠れてたんだよ、あんたが来ると思って。そしたら、俺の弁当を笹本に渡して行くんだから、困ったもんだ。笹本から弁当を奪い返して、食べさせてもらったよ」
司が言っていた相手はこいつだったのか。
大声を上げて笑えば、相手も同じように声をあげて笑った。彼の左手がハンドルから外れて、背後にいる俺に差し出される。それに自分の左手を重ねて、優しく握った。
あれほど遠いと思っていたのに、今じゃ世界で一番近い存在となった。あれほど痛んでいた左足首の痛みは和らいで、少しだけ眠気が襲ってくる。
「渉、好きだ」
「……俺も」
九月も終わり、肌寒い冬が来る。相手の白髪を見つめて、雪原の風景を思い描いた。それでも握り合っている掌の温もりに、残暑の名残を感じる。
この思い出を忘れることはないだろう。一生傍にいると決めたこの男と、遠い手を結んだこの日を。
夕日の中、汗の匂いが二人を包んでいた。
コメント
3件
柚木さん、読ませていただきました。 「ずっと、渉とこうして一緒にいられますように」って、鳴海さんが旗練習中にこっそり願ってたと思うと胸がぎゅってなりますね。最後の自転車のシーン、夕日と汗の匂いが二人だけの世界を作ってて、すごく好きです。渉の嫉妬とか、屋上で待ってた話を明かすところとか、高校生らしい不器用な愛情が詰まってて、読んでてあったかくなりました。お疲れ様です!