後, 研究は順調に進んでいった。珠世と話し合った結果 無惨に使う薬は 人間に戻す薬 老化の薬 分裂阻害の薬 そして 細胞破壊の薬 の 4種類を作ることになった。
研究と話し合いが一段落着けば,珠世は白衣を脱ぎ,しのぶの為の夕食を作ろうと研究室を後にしようとした所、しのぶが呼び止める。
「珠世さん 。相談したいことがあります」
珠世はそんなしのぶの声を聞いては振り返る。
「どうかされました でしょうか?」
少し不思議そうにしながらも、珠世はしのぶの方へ足を進め,聞く姿勢を取る。
「私は…姉の仇を取りたいと思っています。」
「しかし、相手の鬼は上弦。到底私では敵わない相手です。」
珠世はしのぶの一言一言に真剣に耳を傾け聞いていた
「その為…私はこれまで1年以上藤の花の毒を摂取し続けてきました。」
しのぶからそれを聞けば珠世は目を見開き,
「もしかして…自分自身を…?」
「はい…しかし、食べられる前に毒があると見破られてしまっては…元も子もありません」
珠世は静かに頷いてそれに続くしのぶの話を聞いた。恐らく彼女も薄々しのぶから香る藤の花の匂いに気付いて居たのだろう。更に対する相手が上弦ともなれば間違いなく食べる前に毒が見破られてしまうだろう。それに加え、首を切りトドメを指す役割を担うカナヲと離れてしまう可能性もある故,毒がしのぶを食べて直ぐに効いてしまえばカナヲが到着するまで分解される可能性も出てくる。その為しのぶは珠世に毒の効きが遅くなる作用のある薬と匂いを誤魔化す事が出来る鬼に対する麻酔剤を作ってくれないかと相談をした。珠世はそれを聞き終えると静かに口を開いた。
「…準ずるものなら作って差し上げる事は出来ます、しかし…そうなればもう後戻りは出来ません… 。胡蝶さん…まだ遅くはありません、解毒剤を作る事も出来ますよ…?」
珠世は優しくしのぶを止めようとした。しかししのぶはもう戻れない所まで来たと悟っていた。カナエが鬼の特徴を教えてくれた以上、仇を討つ以外に道は無い、しのぶは珠世の問いかけに対しゆっくり首を横に振った。珠世はそれを見てしばらく悲しげな視線を送ったものの、しのぶの覚悟が伝わったのか
「…分かりました。出来次第、胡蝶さんに渡します」
と告げ、しのぶの頼みを承諾した。 しのぶはそれに対して礼を述べれば、部屋へと足を進めた。部屋に戻って半刻もしないうちに珠世が部屋に料理を運んできた。内容は味噌汁や白米焼き魚、更にはしのぶの好物の生姜の佃煮というシンプルな和食だった。いざ食べようとしのぶが生姜の佃煮を口に運べば、目を見開いた。その味が父と母を失った後,カナエが作ってくれていたものと驚く程似ていたのだ。その味に、今まで堪えていた感情がどっと涙として溢れる。カナエの生前の蝶屋敷全員での食事が脳裏をよぎる。
しのぶは溢れた涙を拭えば、食事を進め食べ終わると皿を洗い、入浴を済ませると直ぐに眠りについた。これ以上起きていたら再び涙が溢れて来てしまう気がしたからだ。