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横並びになって夕焼けに染まる街を歩む。

人通りは昼に比べて多くなっていた。


「奢ってくれてありがとな…なんかすまん。」

「当たり前じゃん。私が誘ったんだから!それより!次行くよ!」

「どこ行くん?」

「ギルド!一汗流そうぜ!」

「…えっ今からか!?」


人を避けながら前に先々行くリトナを追いかける。

あっという間に北側ギルドに着いた。

この街には東西南北に一つずつギルドが建っている。

人々は時と場合でギルドを使い分けている。

一つのギルドに登録すれば、他のギルドにも同時に登録されるのでだいぶ便利。


リトナはギルドの扉を押す。

ギィと音を立てて二人はギルド内に入ってゆく。

沢山装備をつけた剣士、魔法使い、僧侶…などの大量の人々がそれぞれでギルドを埋め尽くしている。


「おい!そこの金髪の兄ちゃん!」

「…どうしたんや?」

「なかなかいい体格しとんな?良かったらこっちのパーティで働かん?」


酒を飲みながら一人の剣士がサーナルガを無理やりに引っ張っる。

実際彼はびくともしないが、どう断るか、どう返答するのが正解かわからず戸惑ってしまった。

一人の小さな彼女の手が剣士の腕を掴むまでは。


「お兄さんいい目してるじゃん! でもごめん!サーナルガはうちらの仲間なの!残念だけど彼を手放すほどアホじゃないんでね!」

「おっ!いい仲間持ってんな兄ちゃん!サーナルガっちゅうんか!お互い大事にしぃや!」


ニコニコと剣士はリトナとサーナルガの肩をバンバンと叩く。

正直少し痛い。


「当ったり前!私は仲間が何より大切なんで!手放す訳ないじゃないですか!」

「そりゃ最高な仲間だな!」


わっはっはと二人が声をあげて笑っている。

サーナルガはそんな二人を見て、リトナの声を思い返す。


『仲間』『大切』『手放す訳がない』


ボロっと感情が溢れて来た。

いつの間に泣いていたのか、視界がどんどんと揺れてゆく。

剣士がすぐ気づいて心配してくれた。

リトナもびっくりした様子で俺の頭を撫でてくれた。


「大丈夫。絶対に手放す事はしないから。」


笑っていても、真剣なその表情が、誰かに似ていた。

サーナルガの昔の友人である彼に。


「泣いてすまんな…悲しいわけでも痛いわけでもないねん…嬉しいんや…じゃあ何で泣いとんねんっちゅう話しやがな…!」


彼は頑張って笑っているが、泣き疲れた子供のような顔をしていた。

リトナはそれを見て、ハッとしたように笑った。


「よし!気分転換に魔物討伐行くぞ!お兄さんも来ます?」

「お!じゃあいっちょやったりますか!」


机に寄り掛けていた大剣を握り、彼の仲間である数名に行って来ますと笑って言った。

仲間達はリトナとサーナルガを見てまた笑う。


「こいつが迷惑かけたらおもっきりぶん殴っていいんで!おねしゃす!」

「うるさいけど…そいつ強いんで…多分頼れると思いますよ…多分…」

「多分ってなんや!多分って!てゆうか迷惑かけんわ!俺の事何やと思ってんねん!」

「いや、普段の言動がもうそれですもん。馬鹿だし。」


男女問わずのパーティは仲間愛が強いって決まってる。

それに、この話し方では長年で作られた強い絆があるのだろう。リトナはそう思った。


「では!彼お借りしまーす。必ず返すんで!」

「おー!こっぴどく働かせてください!」

「酷くねぇかてめぇ!?」



そんなこんなで、夜の森に到着した。

着いて来てもらった男はレニーと名乗った。

二人も続けて自己紹介をし、暗い森に足を踏み入れた。


「俺の冒険者ランクはA!頼ってもええよ!」


ドヤ顔をしながら彼は木の根っこにつまづいて転んでしまった。


「「…A?」」

「凡ミス!そんな疑いの目で見るな!」

「…、!」


サーナルガは何かに気付き、焦った様子でレニーの手を引いた。

リトナはすぐに視線を上げる。

木の姿の魔物だ。全く気づかなかった。

木を隠すなら森の中、今の状況によく似合う言葉だ。

サーナルガとバチッと目が合った。

ニッとリトナが笑うとサーナルガは少し困った表情をした後、釣られて少し笑う。


「「〝任務開始。ミッション・セパルティ〝」」


リトナは双剣を構えて目を紅色に染め、サーナルガは背負っていた斧を構える。

先に走り出したのはサーナルガだった。


迅雷。ライトニング


彼が持つ斧に雷がまとわり付く。

うねうねと動く根っこをバシバシ切り落としあっという間に本体の目の前まで飛び込んだサーナルガは思いっきり斧を振るう。

バッと木の魔物は根っこを彼に見せる。

サーナルガはその瞬間動きが止まってしまい、唸る木の根に殴られ吹き飛ばされた。

暗くて一瞬見えなかったが、小さな子供が一人、捕まっていた。

レニーは大剣を手に斬りかかろうとするが武器を弾かれ根っこに巻かれる。

リトナが木の葉っぱを見ると隠れて居たが他の人の影がチラッと見えた。

これは早めに解決しないといけない。

彼女は鎖で繋がれた双剣の片割れを木の本体に向かって放り投げる。

魔物はニッと笑ったように木の幹の模様を歪ませ、子供を前に差し出した。


「…助けて、!」

「やばッ!」


必死で双剣の方向を変えたが、子供と変えた先の方向に居たリトナの頬が切れる。


「ごめん!必ず助けるから!絶対に!」


後ろに下がりながらも、リトナはそう叫ぶ。

涙目の子供は必死に助けを求めている。

自分では人質を傷つける可能性が高い。

一番早くて、一番助けれる可能性がある人物。


「サーナルガ!」


彼の名を叫んだ。

吹き飛ばされた彼は、震える手で無理やり斧を掴もうとする。

その瞬間わかった。彼は今、トラウマと戦っている。

荒れる呼吸と、苦しそうに揺れる瞳は、自分の記憶にある、前世の自分と同じだ。

リトナは、そう思った。だから、自分があの時言って欲しかった言葉を思い出す。


「お願い!動いて!貴方じゃないと無理なの!怖いのはわかる!きっと辛いでしょ!でもここで動けなければ貴方は更に後悔する!だから!」


思いっきり、彼の心に届くように叫ぶ。

目を見開き、驚いた表情を見せる彼に、少し微笑んだ。

目の前の魔物に視線を戻す。油断さえ誘えれば、きっと。



動け、動け。動け!

サーナルガは自分で自分に言い聞かせる。

自身でわかる荒れる呼吸音を落ち着かせ、目の前の魔物と、子供を見た。

苦しい。怖い。どうしよう。


昔、あいつみたいな魔物と戦った事がある。

凄く賢くて、一緒の戦法を取っていた。

俺は、その時人質にされていた学生の顔に傷をつけてしまった。

守れなかった。

助けた後も、俺が切った傷を静かに自分で止血する姿を見て、異様な虚無感が襲って来た。

泣きもせず、怒りもせず、ただ俺らに礼だけ言って。

彼の親戚に、死ぬほど怒鳴られた。


『なんで彼が!』『何をしてくれているんだ!』『あんた以外の人なら!』『ヒーロー気取りするな!』


そう言えば、親友と最後に交わした会話もこれのせいで最悪なものになったなと不意に思い出した。

それと同時に、彼女から叫ばれた言葉を思い返す。


『貴方じゃないと無理なの』『お願い』


欲しかった言葉をくれた。 嬉しかった。

彼女は時折り、お母さんのような言葉を、表情を、温もりをくれる。

なぁ、動いていいのか? 俺が戦ってもいいのか?

ねぇ。

俺、偽善でもいいからヒーローになりたい。


魔物を睨みつけて、手元にある斧を力強く握りしめて、立ち上がった。

リトナ、ありがとう。

裏社会の秩序を守る者

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